夢かうつつか

藤間伊織

Side.A

目を覚ますと、知らない殺風景な部屋にいた。


私の体は椅子に括り付けられており、抜け出すことは難しい。

椅子の足も床に固定されているようで、椅子ごと向かいに見えるドアまで這っていく……というのもできない。まあ、後ろ手で縛り付けられている上、膝も足首も固定されていては、たとえ椅子が動いてもドアまでたどり着くのは至難の業と言える。


まだ頭がはっきりしない……。


そんなほぼ何もない部屋でドアと私を唯一はばむ、私と同じように椅子に括り付けられた男性。しかし彼は私と違い、VRゴーグルを頭に装着している。ヘッドホンまでついていて、ずいぶんとごつい印象を受けた。


とにかく行動を起こそうと周りを見渡すと、右手の壁に紙が貼ってあった。


『脱出のカギは目の前の男が持っている』


では、なおさらこちらの存在に気づいてもらわなければいけない。


「あの!聞こえますか!」

目の前の男のヘッドホンからの何かが流れていることも考え、少し大き目な声で呼びかける。

すると、男の様子が豹変しものすごい叫び声をあげた。

一瞬ひるんだが、すぐに


「大丈夫ですか!」


と呼びかける。

しかし再び叫び声が返ってきただけだった。


あの様子ではこちらの声が聞こえているとは思えない。よほど恐ろしい光景が見えているのだろうか……。

勝手に恐ろしい光景を想像してしまい少し身震いする。


二度呼びかけた結果二度とも返ってきたのは叫び声のみ。まさか、私が話しかけることでVRゴーグルが反応し、あの男に何かを見せているのだろうか。

だとしたらうかつに話しかけられなくなった。『脱出のカギ』とやらを教えてもらう前に発狂でもされたらかなわない。


そんなことを考えていると、私が何もしていないにも関わらず男が叫び出した。しかもそれは先ほどの叫び声よりも明らかに長く、苦痛に満ちたものだった。


今、私は呼びかけるどころか、考えを巡らせていただけだ。あの男の恐怖は私がトリガーとなっているわけではないのか?

考えがまとまらず黙っていると、再び男が叫び出す。もうお手上げだ。



こちらを認識すらしていない人間にどうやってコンタクトをとる?

どんなに呼びかけても返ってくるのは叫び声だけで『脱出のカギ』どころか会話さえままならない相手に。


一体私はどうすればいいのだ?


顔をあげ、左手の壁を見る。そこには『ドアロックの解除方法』と書かれた紙が貼ってある。しかし動けない私にはこれを実行に移すことができない。目の前の男なら縄くらい力づくでどうにかできそうなのだが。



しかし、話せないのではどんな情報であれ役に立たない。





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