第25ワン 勇者と仲間

【弥摩都皇国】

 しのぶ達が今いるアラパイマ大陸より遙か東に位置する島国。神皇しんのうと呼ばれる王族を象徴と崇め、武家ぶけという貴族達によって統治され、他国とあまり交わらず独特の文化を持って発展してきた歴史がある国家である。

 と、ナイーダはしのぶにひそひそと説明する。よく見れば、ショースケの出で立ちは日本で言う作務衣によく似た服に地下足袋の様な靴を履いているではないか。


「なるほど、オーソドックスなファンタジーものによくある日本モチーフな国みたいなもんか。この世界にもそれがあるなんてね・・・・・」


 と、しのぶは弥摩都について理解したところで、ショースケの問いに答える。


「僕は違う世界が召喚された勇しy」


 突然ナイーダが後ろから抱きつく様に、しのぶの口を塞ぐ。


「シノブ様!あまり正体を公言してはいけません。目立つ行動は魔族達に見つかりますから、正体は隠すべきですよ」


「あ、そっか」


 またもひそひそと喋るナイーダとしのぶを、怪訝そうに見るショースケ。


「ボクもジローも弥摩都人だよ。同郷の人間に出会えて嬉しいな」


「ほうか……して、弥摩都のどこじゃ?」


 エルフの女が子供はともかく、犬にまで様付けで呼び侍う……その様子も気になったショースケは、もう少し詮索をしようと思い、問う。


「えっと……ドエです」


戸江どえか……なるほどのう」


 弥摩都皇国現在の首都・戸江。唯一ナイーダの知る弥摩都の地名だった。


「(戸江の士族の子なら、従者がおるのも不自然じゃなかか。……じゃが、金持ちがこがな雑種犬を飼うとるとは思わんがのう……)」


 ショースケはしのぶとジローを順に見やる。


「……何?」


「いや、すまん。お前さんの背中にある剣がどうしても気になってのう」


 ショースケは、しのぶの背中にある輸入りの聖剣を指さした。


「ワシの家は前備国ぜんびのくにで代々鍛治屋をしよる。じゃけえ、その立派な剣が、な?」


「ああ、これ?これはボクが父上から買い付けを頼まれた西洋剣だよ。父上は外国の武器オタクなのさ」


 しのぶは聖剣の正体を隠すため、特異のハッタリで一芝居打つことにした。


「この身なりも荷馬車に乗っていたのも、身分を隠すため。ボクらはこれから港に行かなければならないんだけど、その道中で君が襲われていたというワケさ」


 役に入り込み、べらべらと喋るしのぶ。


「港か。ワシもそこへ行くんじゃ。良かったら同行させてくれんじゃろか?」


「ええ!?」


「(シノブ様、不用意に喋るから……)」


「旅は道連れ世は情け、いう諺が弥摩都にはあるけんのう!おんなし弥摩都人なら困っとるワシを見捨てたりはせんじゃろう?」


 先ほどまで夜盗に襲われていた者を一人残していくほどの非情さを、しのぶもナイーダも持ち合わせておらず、不可抗力気味にショースケが一行に加わる形となってしまった。


「よろしくのう。しのぶ、ナイーダはん、ジロー」


 ショースケは囲んでジローの頭を撫でるが、ジローは気にせず大きな欠伸をした。


「ま、良い人そうだし今は仲間がいた方が心強いか。よろしく、ショースケさん」


 ショースケとしのぶは握手する。ゲームならここで『ショースケが仲間に加わった!』とかメッセージが出るのだろうな、としのぶは思った。


「シノブ様、この者達はどうしましょう?」


 ナイーダは伸びたままの野盗達を指さす。


「あ、すっかり忘れてた。どうしよっか」


「本来なら憲兵に突き出すべきなんじゃが、次の街までそいつらを連れてくのも、憲兵に引き渡す手続きも面倒じゃ。放っておくんが一番じゃろう」


「私もショースケくんの意見に賛成です。魔物に襲われても、この人達なら大丈夫でしょうし」


「そうだね。……でも、人と魔族の戦争が始まるかもしれないって時に人と人が争うなんて、イヤだなぁ」


 しのぶ達は野盗達に背を向け、馬車へと乗り込んだ。

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