第50話 オーバーロード

「くそッ!最悪だ!よりにもよって今暴走するなんて!」


 裕斗は『ルシフェル』を睨みつける。


 『ルシフェル』の瞳は紅く光っているものの、胸に宝石がない。


 自分と同じで、理性を飛ばさず魔獣の力を使えるということか。


「奴がどんな魔法を使ってくるか分からない。とにかく速攻で仕留める!」


 裕斗は恐れを身の内に秘め、なおも佇む『ルシフェル』に向かった。


「…………」


 『ルシフェル』が手の平をこちらに向ける。


 すると、裕斗の体を重力が襲う。


「なっ……!?」


――お……重い!まるで象を背負ってるみたいだ!


 『ランスロット』は墜落こそしなかったが、隙だらけになってしまう。


 そんな『ランスロット』に向かって。『ルシフェル』は肉薄した。


 『ルシフェル』の羽が集約し、剣の形を形成する。そしてそれを『ランスロット』に向けて振るった。


「ッ!」


 裕斗はとっさに大刀を振るい、これに対抗する。


「グッ……!」


 しかし、予想以上に重い剣圧をガードしきれず、天空島に墜落する。


「ガハッ!」


 機体を伝ってとてつもない衝撃がユウトを襲った。


「大丈夫ですか!?」


「あ、ああ……」


 骨にひびは入ったかも知れないが、折れてはいない。まだ戦える。


 裕斗はキッ、と『ルシフェル』を見た。


「やったな!」


 怒った裕斗はスラスターを噴かし、再び上空へ舞い戻るため飛翔した。


 そして、隣に佇むクラウディアに声を掛ける。


「クラウディアいくよ!」


「ええ!」


 ユウトは『ランスロット』を操り、手の平を『ルシフェル』に向ける。

 

 すると、手の平から魔方陣が展開し、陣の中央に炎が収束した。


「「『ヘル・インフェルノ!』」」


 魔方陣から放たれる炎の熱線。


 『ワイバーン』を大破したその力が、『ルシフェル』に迫る。


 しかし、『ルシフェル』の出した黒い球体が熱線を飲み込んだ。


「なにッ!?」


 『ルシフェル』が生み出したその謎の黒い球体は、大きさを増す。


 まるでそれは……ブラックホールのようだった。


「シネ」


 狂気を孕んだ英二の声とともに黒い球体が『ランスロット』向け振り下ろされた。


――あれは防げない!


 裕斗は直ちに旋回し、全速力で逃げる。


 周りにいた魔導騎士や天空島にいた転移者たちは、なにが起こっているのか分からず、呆然としていた。


「なにやってるんだ!みんな逃げろーーー!!!」


 しかし、遅かった。


 天空島に着弾した黒の球体は、魔導騎士を、転移者を飲み込み、大爆発を引き起こした。


「クッ!」


 爆発で目がくらむ。


 巻き起こる爆風に機体が流されないよう制御しつつ、ユウトは目をこらした。


 やがて、爆風が晴れる。


 天空島は、その半分以上が消し飛んでいた。


「なっ……!!!」


 あまりの威力に、裕斗は絶句する。


「こんな……ことが……」


――壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ!!!


「ウ……!」


 頭に魔獣の怨嗟の声が鳴り響く。


 タイムリミットだ。これ以上やったら意識が飲み込まれる。


「クラウディア……魔獣の力を解除して……」


「……ッ!分かったわ」


 クラウディアは魔獣の力を解除した。


 『ランスロット』の瞳が緑に戻り、ユウトを襲う怨嗟の声が途絶える。


「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」


「終わリなのはお前の方ダ。力ノ残っていナいお前に、なニができる」


「いいや、まだ僕には虎の子が残っているよ。諸刃の剣でもあるけどね」


 まあ、それは魔獣の力も同じか。


 裕斗はそう心の中で呟きつつ、モニターを操作し、パスワードを打ち込む。


 すると、操縦室が紅くなり、モニターにある文字が浮かびあがった。


 裕斗はその文字を叫ぶ。


「ランスロット、『オーバーロード』!」


▲▽▲ 


 時はさかのぼり、戦いの前日にて。


「『オーバーロード』?」


 ユウトは魔力接続した際に流れてきた情報を読んで、前回乗った時にはなかった機能に困惑した。


「ああ。『ランスロット』の新しい機能だ」


 魔導具の術式設計士、ハンナが答える。


「これを使えば、魔獣の力を超える力を『ランスロット』に与えてくれる。だが、気を付けろよ。それは機体に相当な負荷をかけるからな。最悪大破する」


「ええ!?それじゃ使えないじゃないですか!」


「まあ、そう思うのも無理ないな。……だが、これは保険だ。私たちはこれから敵の本陣に飛び込むようなものだからな。もし、魔獣の力が通用しなかった時、そいつを使うんだ」


▲▽▲


 そして、時は戻る。


「ランスロット、『オーバーロード』!」


 『ランスロット』が紅く染まる。


 次の瞬間、『ランスロット』は目にも止まらない速さで高速移動した。


「な、なンだ、ハ、速い!」


 あまりの速さに英二は目で追えず、対応することができない。


 それもそのはず、『オーバーロード』は裕斗の注いだ全力の魔力を何倍にも高めてくれる。

 そしてその力に耐えられるよう、フレーム、装甲は降り注いだ星屑でさえも傷つかないほど頑丈になるのだ。


 しかし、その分反動も大きい。解除した瞬間、機体が空中分裂して大破する危険性も孕んでいた。


――一気に決着を付ける!


 『ランスロット』の目にも留まらぬ剣撃が英二の『ルシフェル』の装甲を傷つけ、破壊していく。


 「小癪な!」


 黒い球体が『ランスロット』を飲み込む。


 しかし、それは霧となって無散した。


「な!?」


「残念、残像だよ」


「ッ!?」


 いつの間にか、『ランスロット』は『ルシフェル』の背後に回り込んでいた。


「クッ……!」


 『ルシフェル』は右手に再び黒い球体を生成、『ランスロット』にぶつけようとした。


「遅い!」


 しかし、『ランスロット』の神速のごとき速度で振り上げられた斬撃が『ルシフェル』の右腕を切り飛ばす。


「これで……終わりだぁーーー!!!」


 『ランスロット』の大刀が振るわれ、『ルシフェル』もろとも英二の胴体を切り裂いた。


「ゴホッ……」


 下半身が泣き別れ、英二は口から血が流れ出る。


 同時に、『オーバーロード』が終わった。


 関節部がミシミシと音を立てて軋み、モニターのあちこちからアラートが鳴り響くが、機体は爆散しなかった。


 本当ならここで喜ぶべきなんだろうが、今はそうもいかない。


 なぜなら、致命傷を負ってもなお、英二はこちらに刃を向けていたのだから。


「その傷じゃもう助からないだろう。なぜ戦うんだ?」


「戦うカ……だと……?オ前は……須藤麻衣を殺シた……。ほかの仲間モだ……。罪深キお前ハ……ここで滅ボす!!!」


「それは君たちが先に仕掛けたからだ。僕だって殺したくて殺したんじゃない」


「黙レ!お前だけは……、お前だけはここで殺ス!!!」


 英二は剣を構え、こちらに襲い掛かろうとする。


 まさに、その時だった。


「ガッ!?あ、アアアアアアアア!!!!!!!」


 急に苦しみだし、うなだれるようにして沈黙する。


「なんだ?魔獣に意識を持っていかれた?」


「いいえ、違う……これは……」


 クラウディアが何かを言おうとした時、英二は何事もなかったかのように顔を上げた。


「ふう……。うれしい誤算です。本来なら体が死んだ後にしようかと思いましたが、予定が前倒しになりました」


 先ほどの怒りに狂った男とは思えないほどの冷静沈着な声で、英二は呟く。


「ッ!?」


 ユウトは英二からとっさに距離をとった。


――なんだ…!?なにがどうなってる!?


 分かるのは、もう目の前の体には新堂英二という人格が消滅していることだけ。


「あなたは……誰だ……」


「それはそこの娘……クラウディアが知ってるはずだ」


「え……?」


 クラウディアを見る。彼女は驚きに目を見開いていた。


「まさか……あなたなのですか……。お父……さま……」


「……え?」


 裕斗が困惑する中、英二……いや、それに潜む何者かは告げる。


「いかにも。私はクラウス・ロ-ゼンフェルト。そこにいる娘……、クラウディア・ロ-ゼンフェルトの父親だ」


▲▽▲


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