第46話 ヘル・インフェルノ

シュウウウ・・・


と、消火されるように、“ランスロット”の炎を収まった。


「…………?」


暴走が収まったのか?と、ルイーゼは“ランスロット”を見る。


パキキ、と胸にあったコアの姿が消える。


しかし、目は赤いままであった。


暴走しているのか、していないのかルイーゼには判別不可能であった。


「これは……なにがいったいどうなっているんだ?」


***


「…………は!」


裕斗が目を覚ます。目を見回して、自分が“ランスロット”の操縦室にいることを理解した。


「仕方がありません。あなたの口車に乗りましょう」


声とともに、裕斗の目に少女が映る。


少女は幽霊のように半透明で、裕斗の隣に居座った。


「ありがとう…クラウディア」


裕斗が言うと、クラウディアはフイ、と顔を横に向けた。


「勘違いしないでください。私が協力するのは真実を確かめてからです」


そんなツンデレみたいなこと言った時、ホロモニターが開いた。


「ユウト……お前、大丈夫なのか?」


「うん。心配かけてごめん。……てか、そっちこそどうしたのさその火傷!」


見る限り、ルイーゼのところどころには火傷があった。


「ああ、これか。心配するな。この位の火傷、魔道具ですぐに治る」


「そ、そうか……」


裕斗が安心したその時、土煙を切り裂いて魔導騎士が現れる。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。てめぇら、ふざけんじゃねえぞ……」


地面から這い出て来たのはサングラスの男の魔導騎士、“バアル”だった。


「く……まだ生きていたのか!」


ルイーゼが弓を構えようとするのを、裕斗は手で制した。


「ルイーゼは体を休めてて。奴は僕が仕留める」


「言ってくれるじゃねえか。その自信ごと切り刻んでやるよォォォ!」


糸を放とうとする。


しかし、それよりも早く裕斗が動いた。


裕斗は一瞬で“バアル”へと肉薄し、頭部を拳で殴った。


「ごほぉ!?」


もろに喰らった“バアル”はゴミクズのように吹っ飛ばされた。


「逃すか!」


裕斗はすぐにまた肉薄し、何度も斬撃を叩き込む。


「ぐうううう!」


男はその猛攻を糸で何とか防ぐが、徐々に押されていった。


「たあ!」


ついに届いた一閃が“バアル”の胸を切り裂き、後ろに立っていた木に激突した。


明らかに以前とは一線を隠す力。


裕斗の魔力によるブーストではない。そもそも裕斗はフレームが壊れないぎりぎりまで魔力を込めているため、本来これ以上強化されることはできないはずだ。


この力も、暴走の力を無理矢理使っていることによる恩恵なのかもしれない。


しかし、もちろん代償もある。


――憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ


「ぐっ!」


頭の中に憎しみという言葉が響く。


油断すれば意識を持っていかれそうになった。


――これは、あまり長くは使えないな


「意識を切らないで。彼はまだ生きています」


「え?」


裕斗は慌てて“バアル”の方を見た。


「くそがああああ!」


“バアル”が起き上がる。


中にいた男は胸を切り裂かれながらも生きていた。怒りのあまり額に血管を浮かべる。


「くそがくそがくそがくそが!ふざけやがってふざけやがって!殺してやる……殺してやるぞ!……ガッ!」


その時、男が急に苦しみだした。


「お、が…お…」


男はブクブクと泡を吹いて倒れる。それと同時に“バアル”の瞳が赤く染まり、胸に赤黒い宝石が生まれた。


「暴走……!?」


「そのようですね。おそらく、あれの中にもいたのでしょう。私の同胞が」


「同胞……」


「ええ。今のあなたにも見えるでしょう?あの中にいるもう一つの魂が」


クラウディアに言われ、裕斗は目を細めて見た。


すると、ぼんやりだが、なんとなく見える。


核の中。そこに潜む何者かを。


「見えた、けど。なんだろう、とても苦しそう」


「ええ。彼にはこれ以上、苦しんでほしくありません。……お願いします。彼をこの世から開放してください。私も、全力で力を貸します」


「言われなくても、そのつもりだよ」


裕斗は瞬時に近づき、核に向け刀を振るった。


しかし、その一撃は突然現れた透明な盾に防がれた


「なっ……!」


“バアル”の糸が裕斗に迫った。


「させません!」


が、突如現れた炎の壁がそれを燃やし尽くす。


「何だ、これ。特殊兵装!?」


「いや、違います。これは魔法です」


「魔法?」


こくん、とクラウディアは頷いた。


「かつて私たちが持っていた力。それを現世に顕現した我々は使うことができるのです。……少し、これの手をあれに向けてくれませんか」


「え?ああ、うん」


彼女に言われた通り、“ランスロット”の手の平を“バアル”に向けた。


すると、手の平から魔方陣が展開された。


「んなああ!?」


「私の魔法は炎。あらゆるものを燃やし、鎮魂する!」


キィィィン!


と、魔法陣を中心に炎が集まっていった。


機体越しに感じる圧倒的熱量。


それはまるで、極小の太陽であった。


「燃やし尽くせ!ヘル・インフェルノ!」


炎の光線が“バアル”に向けて放たれた。


“バアル”はそれを防ごうとまた盾を出現させる。


しかし、光線は盾を一瞬で燃え溶かし、“バアル”を飲み込んだ。


「…………!」


あまりの熱量に“バアル”は蒸発し、胸にあったコアも砕け散る。


ボガァァァァン!!!


耳をつんざく破壊音。


その光景がなにか、閉じ込められていた何者かを開放しているように見えた。

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