第19話 その目に映るものは
「アー生き返るわー」
裕斗は本部にある浴場の湯船に浸り、ゆっくりと体を伸ばした。
現在は時間が遅いからか、裕斗以外に人はいなかった。
「……………」
ヴァネッサが新しいライダーとして加わって、一週間が経過した。
だが、交友に関して彼女とあまり進展はない。
「いったい、どうしたらいいんだろう……」
「おう?どうしたんだ?」
突然聞こえたその声に振り返ると、無精ひげを生やした裸の男が立っていた。
マルセル・エンバルクだ。
「マルセル隊長……」
マルセルはザブン、と裕斗の隣に身を沈めた。
「どうなんだ?あいつらと上手くやれてるか?」
あいつらというのは、ルイーゼとヴァネッサのことだろうか?
「ルイーゼとは……まあ上手くやれてますけど……ヴァネッサとは……」
「なんだ?あんまし仲良くやれてねえのか?」
「はい…。彼女、偉そうっていうか…傲慢な性格であんまり…」
裕斗の呟きに、マルセルは「フゥム…」と顎に手を当てた。
「まあ、そういう奴は口先だけなヤロウか本当に実力のある奴だけだ。そして、俺の見立てじゃ、あいつは相当な実力者だな。こと戦闘に関しちゃ、あいつは頼りになるだろうぜ」
「……武の才能があるんでしょうね。羨ましい限りですよ」
裕斗はへッ、と吐き捨てた。
前世で何をやってもダメダメだった自分から見ると、才能のある人は妬ましく思えてならない。
「無限魔力持ちがそれをいうか。……まあ、あいつにそんな才能ないと思うけどな」
マルセルのその言葉に、裕斗は眉をひそめた。
「どういうことです?矛盾してません?それ」
「してねえよ。才能なんかなくっても、人は実力を伸ばせるもんなんだから」
マルセルはそう言うと湯船から立ち上がった。
「そろそろ出るわ。それじゃ、仲良くやるんだぞ」
マルセルは後ろで手を振りながら浴場から去った。
「才能がなくても実力を伸ばせる、か……」
一人残された裕斗はブクブクと、湯船に身を沈めた。
伸ばすにはどうすればいいかは、裕斗にはなんとなく分かっていた。
けど、それは決して簡単なことではないし、彼女がそれをしている姿を想像することは裕斗にはできなかった。
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「ンハッ!?」
裕斗はパチッと目を覚ました。
「ここは……」
裕斗はキョロキョロと周りを見回す。見知った部屋の中、そして、自分の身はベッドの上にあった。
そういえば、と裕斗は自分が浴場を出た後、部屋で眠りについたことを思い出す。
チラッと窓の方を見ると、まだ外は暗かった。まだ起きる時間ではなさそうだ。
まだ眠れそうだなと、裕斗が目を閉じたその時、
「―――ッ!」
とんでもない尿意がこみ上げてきた。
――やばい、漏る
トイレは部屋にはなく、外の廊下を渡った先にあるのだが、このままでは社会的に死んでしまう。
トイレに行く以外の選択肢は、裕斗にはない。
「よいしょ」
裕斗はベッドから降りた。
「……あれ?」
と、そこで裕斗はベッドにいるはずのヴァネッサの姿がないことに気が付いた。彼女もトイレに行っているのだろうか。
「……と、そんなこと言ってる場合じゃない。漏る漏る」
裕斗は早足でドアを開け、廊下へと出た。
廊下は真っ暗だった。
「ウウ…怖いな……」
ホラーに体制のない裕斗は招かれざる客が現れないことを祈りつつ、廊下を渡る。
「……ん?」
と、そこで裕斗は近くの窓の先にあるものを見つけた。
「あれは……」
こみあげていた尿意も忘れ、裕斗はしばしそれを見ていたのだった。
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