第六話 白亜の住人

 森の暗がりの奥に、複雑な装飾が施された荘厳な建造物が見えてきた。

 その建造物は、石造りの堅牢な外観をしており、複数の建屋が複雑に入り組み、高さも巨樹の下に隠れてはいるが、顔を少し見上げる程の高さがあった。


 ヘルメスが、様々な種族達が集まる、騒がしい場所を見ている。


「あそこじゃねーよ」

「あそこは、あんたたちの武器を売る場所だ」

 確かに、良く見ると、様々な種族が雑多ではあるが、何かに並んでいる様子で、その先にある建屋の壁には、横に長い窓が大きく開いていた。


「今から並んだら夜になっちまう」

「先に、ランナーの所に行くぞ」

「ランナー?」

 ヘルメスがブリザガの顔を見る。


「あぁ、ここを仕切っている奴だ」

「ランナーに聞けば、あんたらの探している、何とかって奴の事を知っているかもな」

「そう、アレンはここにいるのね」

 グレアリング・アイを薄っすらと赤色に光らせて、建屋を見上げるヘルメス。

 その様子を無表情で見つめるブリザガ。


「さて、行くか」

 そう言うとブリザガは、雑多な喧騒に囲まれた建屋とは別の建物の方へと向かい、ヘルメスは周囲を見渡しながら、ブリザガの後ろを追い掛け、建屋の裏手にある路地へと消えていった。


 建屋の裏手に回ると、表の喧騒とは違い、静まり返った薄暗く狭い路地が奥へと続き、ほかの種族は見当たらなかった。

 少し歩くと、薄闇に隠れた扉が目に入り、良く見るとその扉は少し距離をおきながら点在している様で、そのいくつかは開放されていた。

 ヘルメスが、開いている扉の前に近付くと、何やら怪しい香りが漂い、その奥は薄暗く、姿は良く見えないが何かの種族が座りこちらを見ている。

 別の扉では、小さな灯りの下にあるテーブルに、数種類の種族が座り、会話も無く何かの作業をしている様だった。

 ブリザガは、それらを通り過ぎ、奥から二番目の扉にたどり着くと、横目でヘルメスを見る。


「あんた以外全員、武器はブリット達に渡して、ここで待ってろ」

 ヘルメスはブリザガの顔を見る。

 そして後ろを見ると、一緒に付いて来たブリットが手で合図をしている。


「…わかったわ」

 ヘルメスはそう言うと、ブリット達に武器を渡し、L-MTを待機させた。

 ブリザガは、準備が整ったのを確認すると、ヘルメスと共に薄暗い扉の中へと入っていった。


 扉の中は薄暗く、小さな灯りが点々と灯されている、あまり居心地の良い空間では無かった。

 ブリザガは、部屋の奥へと入っていくと、小さなカウンターの様なテーブルが置かれた場所で立ち止まり、その前で静かに立っている身なりを整えた種族に声を掛ける。

 すると、その種族が静かに横に移動し、その後ろにあったカウンターの隙間が現れた。

 ブリザガはその隙間へと入り、さらに部屋の奥へと入ってゆく。

 ヘルメスもその後をついてゆくが、すれ違いざまに物静かな種族のそばを通ると、歪んだ空気なのか、異様な雰囲気を感じさせていた。



 カウンター奥の通路を無言で進んでゆくブリザガ。

 通路は少し圧迫感を感じさせる狭く薄暗い一本道で、距離もある程度ある、少し長めの通路だった。

 ヘルメスは通路の周囲から、微細な音が発せられているの感じながら、しばらく通路を歩くと、薄明かりが灯された、開けた場所にたどり着いた。


「身体検査は終わった」

「これから、ランナーがいる部屋に入る」

「事情は話してある、あとはあんたが何とかしな」


 ブリザガはそう言うと、薄明かりの先へと歩き出し、その先を良く見ると、闇に隠された重厚さを感じさせる巨大な扉が現れてきた。


 扉が鈍く重苦しい音を響かせながら、ゆっくりと開いてゆく。


――――――――――――――――――


 扉の隙間から眩い光が溢れ出し、視界を奪われるヘルメス。グレアリング・アイのセンサーを調整するが、圧倒的な白い光はヘルメスの視界を奪い、全てが白い世界に覆い尽くされてゆく。



 ようやく、センサーを調整し周囲が見えてくると、ぼんやりと白色の広大な空間が目の前に広がり、その先に、巨大な空が見えてきた。


「ようこそ」


 どこからか声が聞こえてきたが、見当たらない。


「あんたの目の前、床と空が別れている所をよく見てみな」


 その境界線は、かなり遠くにあり、ノーマルレンズでは認識しにくく、


「あっ…

 サイマティクス複合周波・センサーが、僅かな感度を捕らえ、ようやく何かの存在を認識できた。


「とおくから、ごくろうでしたね。 さぁ、こちらへどうぞ」


 ヘルメスは軽く会釈すると、ブリザガを見る。

「…一緒に来てください」


「めんどくせぇ…」

 ブリザガは珍しく、少し硬い表情で応える。


 そして二人は、その声のする方へと歩み始めた。


―カッ ―カッ…

 床に響くヘルメスの足音が、無機質な白い空間に響き渡る。


 周囲には装飾品など見当たらなく、広大な白い空間が広がり、目の前の空はガラスで仕切られているのであろうか、風一つ吹いてこない。

 しばらく歩くと、空と白い床の境界線に、薄っすらと横に広がる影が現れ、


…テーブルが浮いている


 薄く横長のテーブルが浮いているのが見えてきた。

 すると、そのテーブルの中央に、


 ブリザガに似た、白毛の種族が、物静かに座っていた。


「はじめまして」

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