第二話 接触
今日はやけに外が荒れやがる。
落下してきた残骸に身を潜め、じっと外の嵐を見つめるブリザガ。
ハルトマンを退けた後の大気は荒れる一方だった。
その為に、ブリザガ達は落ちてきた物体の近くに点在している、巨大な残骸を嵐避けとして使用し、その中で嵐が過ぎるのを待っていた。
…それにしても、一体何の残骸なんだ、こいつは。
衛星にしてはサイズがデカいしな。コペリニウスが創り上げた、新しいスペースクラフトなのか。
ブリザガは、火の勢いが弱まった物体に目を向け、また考え事をすると、近くに置いた半壊のアンドロイドを見た。
朝まで待つしかないな。こいつと話すには…
するとまた、嵐を見つめ、そしていつの間にか眠ってしまった。
じりじりと陽射しに腕を焼かれ、その暑さで目覚めるブリザガ。残骸の中に身を潜めてはいるが、陽の光は容赦なく残骸の隙間からブリザガの身体を焼いてくる。
その陽射しを避け、静かに体を動かしながら周囲を警戒し、ブリットの位置を確認すると、何かの違和感を感じる。
― 近くに置いたはずの、アンドロイドがいない。
逃げたか。コペリアだったらやばいな。
そう思うと、指でブリットに合図をし、二人は警戒しながら残骸の外に出た。
夜とは違い、日中の大地は灼熱の世界へと変化し、頭上の陽射しと、砂の照り返しが容赦なく襲い掛かり、長い時間、外にいるのは危険だった。
その為、日中の行動は避けていたが、あのアンドロイドからコペリニウスに連絡でもされたらまずいと思うと、探しに出るしかなかった。
しかし、半壊のアンドロイドは意図も簡単にみつかってしまう。残った右の手で移動するしかないアンドロイドは、砂に擦り付けた体の跡が残り、ブリザガはただその後を追っただけだった。
その砂の跡は焼けた物体へと続き、ブリザガはまだ硝煙と焼けた熱が残る巨大な物体に辿り着くと、破壊された割れ目から焼けた物体の中に入り、落ちた砂の後を追ってゆく。
しかし、その物体の中は広大で、その奥は光も無い暗闇に閉ざされ、こもった熱気が不快感を増加させてくる。
ブリザガはライトを点けると、砂の跡を追って行ったが、その跡は徐々に床に擦り付けた黒色の傷へと変化し、その跡もいつしか消え去ると、暗闇の中で手掛かりを失ってしまった。
…しかし何なんだこれは。コペリニウスのスペースクラフトとは違う感じだな。何かの巨大なプラントなのか。
警戒しながら、ライトで周囲を照らしながら、周りを見渡すブリザガ。
―プシュウ
突然、空気が抜けるような音がすると、右の壁が消えて無くなり、灯りが照らされた少し小さめの空間が現れ、上下にある何かが点滅している。
警戒しながら、じっとその空間を見つめるブリザガ。
『 … … … 』
すると、周囲から何かを話しているような音が聞こえてきた。
…早く入れってか。
「おい! 危険じゃねーよな!」
暗闇に大声で問いかける。
『 … … … 』
まぁ、攻撃してこないって事は、危険じゃないってことだな。
そう、自分を納得させると、その少し小さめの空間に入っていった。
すると、消えていた壁が現れ、空間が閉ざされると、少し間を置き、目の前の壁が消えて無くなった。
…
その目の前には、ある程度の広さがある薄暗がりの空間が広がり、先程のプラントとは違う、整然と整えられた空間が現れ、そしてその中心に、あのアンドロイドが宙に浮いていた。
「俺をここに呼んだんだよな」
ブリザガの言葉が空間に広がり、吸収されていく。
すると、半壊したアンドロイドが動き始め、身体をゆっくり起こし、顔を上げると、頭部であろう目の部分が青白く光り出し、ブリザガを見つめた。
『 私の言葉がわかりますか 』
「…なんだよ、喋れるんだな、お前」
『 あなた方の言葉を理解し、話せるようになりましたが、まだ完全ではありません 』
「あぁ、良いよ、完全じゃなくても。話せればな」
ブリザガの額に汗が滲みだす。
「それでお前、コペリアか」
『 私は、コペリアではありません 』
すると、ブリザガの目の前に巨大なスクリーンが現れ、何かの映像が流れ始めた。
そこには、見た事も無い生物達が映し出され、知性を感じさせる生物達が笑顔で交流し、美しい風景と都市の映像が流れると、宇宙であろうか、巨大な
『 私達は、遠く別の銀河から、この惑星に到着した 』
『 あなた方とは別の 知的生命体です 』
…
ブリザガは腕を組みながら、その映像を見ている。
「… それで、そんな高度な技術を持つ知的生命体様が、なんでこんな惑星に来たんだ」
『 これは、私のマスターである、アレン・ウォールトンの意志です 』
「ほう、まだいるのか、他にも」
すると、映像は青い美しい惑星と灰色の衛星が並ぶ場面に切り替わった。
そして、灰色の衛星が変化し始め、徐々に小さくなり、消え去ると、青い色の惑星は赤茶色に変色してゆき、映像は生物達が争う映像に切り替わった。
その映像を見たブリザガは、何か自分に近しい感覚を感じ始め、
…ああ、どの世界でも、他者と争うんだな。
そう思うと、この半壊のアンドロイドも自分たちと同じ領域の存在で、何か親近感のような感覚を感じ始めてきた。
しかしブリザガは、次の映像で理解不能に陥る。
そこには、争っていた他民族が、武器を置き、手を取り合い、他者を助け、共同で作業をし、そして、
一つの空間に並んでいる。
『 世界に、秩序を再興したのが、アレン・ウォールトンの父、デイヴィット・ウォールトン 』
『 デイヴィット・ウォールトンは、地球の再興に奮進し、その手には、地球に環境循環という秩序をもたらした、青い色の光に包まれ、黄金色の光を放つ外宇宙の物質、
『 そして彼は、その志の途中で、
『 人々と、マスター・アレンにメッセージを残して 』
… ザッ ザザザ …
『 … TU (
『 A333は鍵だ、内包している高エネルギー、重力によって、互いの空間を引き寄せ、空間を引き裂く爆発的なエネルギー帯を発生させる 』
『 我々は今、
『 アレン、自分の意思に従い、希望を掴め…
…
『 そして、デイヴィット・ウォールトンは消え去り 』
『 残された人々と、マスター・アレンは決断しました 』
『 土星に残されたA333に共鳴する、もう一つのA333を求めて外宇宙へ旅立つ事を 』
『 それが、あなた方の惑星がある方向、A333が示す場所 』
『 自らの希望と、地球に希望をもたらす、A333との接触を求めて 』
すると、半壊のアンドロイドが浮く、後ろの空間が薄い青色の光に照らされ、そこには薄っすらと白い霜が張り付いている、何かのカプセルらしきものが置かれていた。
ブリザガは、カプセルらしき何かの中を良く見ると、生物らしき身体が横たわり、その姿はまるで、深い眠りについているかのようだった。
『 彼が、私のマスター アレン・ウォールトンです 』
…
再びアンドロイドの視線が青白く光り出し、ブリザガの視点がゆっくりアンドロイドを捉えると、氷のように張り詰めた空気が二体の間に横たわった。
「…脅しか」
ブリザガが冷徹な視線をアンドロイドに刺し込みながら話し出す。
『脅しではありません。協力をお願いしたいだけです』
「なんで俺が、
レーザーカノンを静かに身体に引き寄せ、ゆっくりと数歩、後ずさりをしながら、空間全体に意識を向けるブリザガ。
『…
すると、周囲の暗がりが微細に揺らぐと、再び静まり返った。
ブリザガの視線が、薄い青色の光に照らされた空間に移り、注視する。
無音の影が空間に落ち、微かに揺れている。
…
その揺らめきに意識を集中し、鋭い視線を刺し込むと、無音の影から別の影が差し込み始め、
―!
無音の空間に、鈍い光を放つ鉛色の巨兵二体が姿を現し、整然と薄い青色の光に照らされた空間の前に立ち塞がった。
『彼らは、私に従う
「俺を取り囲んでおいて、危険じゃないだと」
「ふざけんな」
レーザーカノンのグリップに意識を向けながら、言葉で周囲を威圧するブリザガ。
『私には、この
『私達の望みは、この
『それだけです』
すると、背後のスクリーンに、青い色の光に包まれ、黄金色の光を放つ巨大な鉱物が映し出され、そして、それは
空中に浮いていた。
『あなたの記憶には、A333に近い物質の記憶が残っていました』
「…俺の記憶を見たのか」
太い唸り声のような声を放つブリザガ。
『私の言葉は、あなたから学ばせてもらったもの』
『この惑星の事や、あなたが改造された種族である事も…
その言葉を
「ふざけんな!」
「だれが好き好んでこんな
レーザーに焼かれた空間から視界を覆い尽くすほどの硝煙が立ち込め、ブリザガの姿は、その煙に紛れるように、消えて無くなった。
… だれが、だれが…
煙の中に身を潜め、額に汗を滲ませながら、ゆっくりと後ずさりをする。
煙が滞留し、焼け焦げた臭いが左右に流れてゆくのを感じると、煙が顔をなでた。
『
『 我々に…
―チャッ
銃口が、ブリザガの額に突き付けられる。
『 我々に、協力しなさい 』
煙に滲む、黄金色に染められた光が、あの時の記憶を蘇らせる。
… 美しい針葉樹の森。優しい陽射しが差し込むその中を、仲間たちと駆けてゆく。
兄妹たちが俺を呼び、そこに目を向けると、淡い光の中に、幻想的な黄金色の煌めきが輝いていた。
その煌めきに魅かれるように、光の中に入ると、
青い色の光に包まれ、黄金色の光を放つ生物達が、光輪に包まれ、目の前に立っている。
「 … 我は
「 我の
俺達は… 光を放つ者達の圧倒的な力を感じ取ると、抵抗を諦め、光を放つ者達の僕となり、
――― ! …
「 やめろ! 」
過去の苦い記憶が蘇り、床に崩れ落ちるブリザガ。
『 あなたの
青白い光を放ちながら半壊のアンドロイドが、硝煙の奥からブリザガの目の前に現れた。
放心状態のブリザガは、アンドロイドの圧倒的な存在が、光を放つ者達とかさなり、レーザーカノンをその手から、落した。
『さぁ、行きましょう。 マスター・ウォールトンを探し、
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