異世界ITヘルプデスク~はい、こちら帝国電電公社お問合せ窓口です~

明治サブ🍆第27回スニーカー大賞金賞🍆🍆

1『へるぷですくは西部戦線とともに』

 ジリリリリリリン!

   ジリリリリリリン!


     トゥルルルル!

       トゥルルルル!


   ファーンファーンファーン!

     ファーンファーンファーン!


       パラリラパラリラ!

         パラリラパラリラ!





』(『愛帝あいてぃー語録』第1章12節)に設置された数百の電話が、一斉に鳴り始める。

 さぁ、今日もツライツライ業務の始まりだ。


「はい、こちら帝国電電公社お問合せ窓口です」


(『愛帝語録』第13章2節)が繋がらないんだ!』


 僕が電話を取るや否や、受話器の向こうから、男性の悲痛な声が聴こえてきた。


『俺の部隊と通話できないんだ! このままじゃ部隊が包囲されちまう!』


無線機トランシーバの電源は入っていますか?」


 受話器の向こうからは、戦場の悲鳴や爆発音が聴こえてくる。

 今にも血の臭いがしてきそうだ。

 僕は声が震えそうになるのを必死にガマンして、努めて冷静に、相手の男性――名乗る余裕はないようだが、帝国の西部方面軍将官には違いない――に問いかける。


『あぁ、クソ! 部隊の連中、生きてるだろうな……? 一人でも死んでたら、お前を恨むからな!』


「落ち着いてください。電源は入っていますか?」


『落ち着けだって!? 敵軍の上級破壊魔法・爆裂火炎岩メテオラがひっきりなしに降ってくるような戦場で、落ち着けだって!?』


「今は、どうか感情は抜きにしてください。電源は、入って、いますか?」


『入ってるに決まってるだろ! おい、どうすりゃいいんだよ!』


「エラーランプは赤く点滅していますか?」


『してる! してる! だから電話したんだ! いいから早く解決してくれ!』


「再起動を試みてください。主電源を長押しして」


『再起動だぁ!? ンなカンタンなことで直るわけないだろうが!』


「再起動を、して、ください! 早く!」


『分かったよ……クソ、こうしている間にも大切な部下たちが死にそうな目に遭ってるっていうのに、平和な内勤野郎がよ――――……あッ!?』


「ど、どうされました!?」


『…………直った』


 バツの悪そうな、男性の声。


『暴言吐いちまって悪かったよ』


「いえ。――ご武運を」


 通話が切れる。

 バカみたいな話だが、こんなのは日常茶飯事だ。

 機器不具合の大半は再起動で直る。

『再起動は万能薬である』(語録第7章21節)とはよく言ったものだよ。





 ジリリリリリリン!





 再び、僕の席に設置された電話が鳴り出す。


「はい、こちら帝国電電公社お問合せ――」


無線機トランシーバを起動した途端、敵のドラゴン騎兵に追い回されたんだ! 切ったら敵はこちらを見失ったようだった。不良品つかませやがって! こっちは命が懸かってるんだぞ!? さっさと代替品を手配してくれ!』


「お手数ですが『設定』画面を開いていただけますか」


『設定!? 設定ってどこだ!?』


「歯車のアイコンです。次に『秘匿回線モード』という文字の右隣を見てください。チェックボックスはオンになっていますか?」


『なってねぇよ!』


「それが原因です。一般回線で通信していたから、敵に傍受されたのでしょう」


『バカな、何で初期設定が一般公開状態なんだよ!?』


「秘匿回線モードはその分電池を食いますし、通信速度が遅くなります。また、全部隊が一斉に使うと回線がひっ迫してしまいますので……失礼ながら命令書に書いているかと」


『んなもん突撃時に部下と一緒に亡くしちまったよ!』


「お悔やみ申し上げます」


 言いつつ僕は、『突撃前に読んでおいてよ』と独りちる。


『とにかくコレをオンにしたらいいんだな!?』


「あ、待って! IPアドレスを設定する必要があります。今、払い出しますので――」


 言いながら僕は、机の上に置いてあるパソコンを操作し、空きのIPアドレスを調べる。


「申し上げます。192.168.xxx.xxxです」


『助かったよ』


 通話が切れる。

 ふぅ~。

 僕はぐっと腕を伸ばして――


 ジリリリリリリン!


 あああああ、もうッ!!









   ◆   ◇   ◆   ◇









 剣と魔法の世界。

 戦争と専制政治が支配する世界。


 空では両国のドラゴン騎兵たちが火炎吐息フレイムブレスを交換し合い、

 地上では騎馬兵が駆け回り、

 最前線ではファランクスを組んだ重装歩兵たちが長槍でもって死の生産を続け、

 そのやや後方では弓兵と投石兵たちが互いの敵を狙い、

 さらに後方からは魔術師たちが爆裂する岩を生成して敵本陣を狙い撃ちしようとしている。


 その、ビザンティヌス帝国西部戦線の地下奥深くに、『西部第いちオペレーションルーム』はある。


 十台のサーバと、

 数百台のパソコンと、

 同じく数百機の電話機と、

 それを運営する精鋭数百名の技師エンジニアたち。


 剣と魔法の世界に不釣り合いな超最先端技術を運用する彼ら彼女らの中にあって、もっとも戦場に近い仕事――(語録18章6節)に、苦労人にしてこの物語の主人公ルー・クロウス14歳は就いている。


 ふわっふわな金色の短髪。

 大きな二重まぶたの下にある瞳の色は青。

 栄養が足りていないのか、身長は160センチに少し足りない。

 この世界にパソコンやネットワークなる超技術を持ち込んだはた迷惑な異世界転生者が見れば、こう言ったことだろう。





『金髪ショタっ子キターーーー!!\\٩( 'ω' )و ////』





 若きITヘルプデスク・エンジニアのルー・クロウス少年は、はた迷惑な異世界転生者がうっかり後世に遺してしまった厄介な超技術に振り回されながら、今日も今日とて受話器にかじりつき、苦労している。









   ◆   ◇   ◆   ◇









 初めましての方は初めまして!

 お久しぶりの方は、またお会いできて光栄です。

 新人ラノベ作家未満(数ヵ月後に第27回スニーカー大賞『金賞』受賞作『腕を失くした璃々栖リリス』の書籍を発刊予定)のSUBと申します。


「楽しくお仕事 in 異世界」中編コンテストということで、


『もし、なーろっぱ世界にITヘルプデスクがあったらこんな感じ?』


 と妄想して、書いてみました。

 冒頭の『お問合せ』は、だいたい作者(表の職業:社内SE)の体験談です。再起動は万能薬である。


 4万文字以内の中編です。

 ラストには『あっ』と驚くどんでん返しもご用意しておりますし、次話からは弩エロ可愛いヒロインも登場しますので、どうか引き続きお付き合いいただけますと幸いです。m(_ _)m

 できれば、フォロー(🔖)ください(五体投地)。





 次回、 お っ ぱ い 担 当 社 員 登場。

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