元祖金の斧と銀の斧(史実)

昔々、あるところに一人の男がおりました。

男は木こりでした。

今で言うオートメーション化された職業の中の一つです。


ある日男は軽トラに乗り、木を切りに森へ行きました。

しかし男は間違ってパーキングブレーキをセットするのを忘れ、

軽トラは小さな池に落下しました。

軽トラは池の暗闇、奥底へと沈んでしまいます。


男は悲しみました。

そんなところに突然、池の底から得体のしれない女が現れました。

男ははじめ、これは夢なのではないかと思いました。


「あなたが落としたのは、金の軽トラですか、銀の軽トラですか?」


男はあたりを見渡します。

こんなベタな展開とか、どっかのドッキリ番組くらいしかないと思ったのです。


「いえ、私が落としたのはありったけの夢と希望と全財産です」


そのようなことを言うと、この不審な女はあからさまに困惑しました。


「ええと、あなたが落としたのは......ホンダの軽トラですよね?」


「ですからそれが、私のすべてだったのです」


「......」


もともとこの女、一応名のある女神であり、

自分の住処に軽トラックを落とされたので、

腹いせに煽ってやろうかと思って出てきました。

しかし蓋を開けてみるとこの男はとても哀れなのです。

女神様はこの男を助けてやろうと思い、いかんせんベタですが、

持ち運びやすい金の斧と銀の斧を与え、

ブックオフにでも売ってこいと言いました。


△▼△▼△


ある日、強欲な木こりが男の話を聞き、

スズキの軽トラで例の池まで行きました。

普通ならここで軽トラを池に落としますが、

この男は一味違います。

金の斧と銀の斧があれば軽トラの元を取ることができますが、

やはり100万を原価で取られるのは癪でございます。

ということで男は倉庫に眠っていたチェーンソーを稼働させ、

手が滑ったふりをして池に放り投げました。


すると、例のごとく女神が現れました。

その顔はまさに般若の形相でございます。

強欲な木こりは一瞬ぎょっとしましたが、

直ぐに申し訳ないといった顔を作りました。


「すみません、チェーンソーを落としてしまったのですが拾っては貰えないでしょうか?」


人間というものは何かが得られると言うなら、

プライドを捨てても得ようとするものでございます。

強欲な木こりは礼儀正しく謝罪と要求をしました。


しかし、女神は馬鹿ではありません。

チェーンソーを握りつぶし、男に豪速球で投げつけます。

間一髪、男はそれを避け、さっさと軽トラで家へ帰りました。


その後この強欲な木こりはこの不幸な出来事を脚色しまくり、

不幸自慢の鉄板ネタとして話します。

結果として、初めの男の話と合体され、

金の軽トラと銀の軽トラとして語り継がれることとなりました。


その後核戦争やらなんやらで文明がリセットされ、

金の軽トラと銀の軽トラの話は金の斧と銀の斧として現代に残りました。


教訓:人間は愚かである。

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