プロローグ4 突然のお姉ちゃん!!

 真夜中。誰かに蹴り上げられた衝撃ととも、に領地外れの崖下に放り出されているのだけはわかった。ヨゼフがわかったのはまずはそこだけだ。


「え? 何これ? どういうこと? 体が痺れて、痛い? どうしたの?」

 ヨゼフは混乱していた。体がほとんど動かず、顔だけに感覚があって、それ以外には力が全く力が入らない。

 

ただ、夜の肌寒さとひとまず侯爵家の三男としての服は与えられていたが、それさえも身ぐるみ剝がされて、庶民が着るような粗末な服に着せ替えられていた。


「よう、愚弟。みじめに転がされている気分はどうだ」

 ヨゼフをさげすむように見ている髪の赤い男がいた。15歳になり、どこかの領地をジャコモから請け負った次男、


「ヘルムート兄さん。どうして?」

「誕生日だってさ。父さんの。12歳まで育ってくれてありがとう。水を持ってきてくれてありがとうッ!」


 ヘルムートに顔を蹴られた。激痛が頬に走る。歯は何とか抜けなかったが、自分が頑丈なだけだ。次は腹をけられた。何回も何回も何回も。吐しゃ物を吐く。どす黒い何かは毒だろうか。最後には血を吐いた。内臓が相当やられている。


「どうして、こんなことに?」

「てめえはどうしてしか言わないんだな。ホント、馬鹿なんだな。頭幸せでいっぱい? んなことはわかってるか」


 ケラケラとヘルムートは笑い、逆立っている赤い髪の毛をかき上げた。


「魔法が使えないお前は用なし。エルフに最後に飲ませてもらった薬も痺れ薬。お前は独りなんだよ! お荷物! 恥さらし! 生活魔法の水しか使えない奴なんて、いらない。エルフもそうだな、これだな」


「ヨ、ヨ……ゼ、フ様……」

 取り巻きの男たちに連れられたモニカの姿。長い黒髪を握られ、両腕を鎖で縛られた無残なエルフの姿は見ていられない。


「どうして? モニカはただの奴隷だ。僕とは何も関係が無いよ!!」


「お前専属の奴隷だろ。関係アリアリだろ。お前、頭湧いてんのか? まだ、お花畑なんだよなっ! くそがっ」

 ヘルムードは苛立ちを隠せず、固いブーツのつま先でヨゼフの顎を思いっきり、蹴り上げた。


 いたいっ、と言葉にならない悲鳴を上げ、ヨゼフの意識は朦朧とする。


「ヨゼフ様をいたぶらないで! わたしをやったほうがいいではないですか! 酷すぎます!」

「そうだなああ。お前、魔法は使えないけど、顔がきれいだから、手慰み程度にしてやろうと思ったけど、ヨゼフの姉のような、支えのようなところもあった」


 モニカを引き寄せ、ククッと喉を鳴らすような笑いをヘルムードは出して、胸の時計を見た。


「0時だ。てめえの12歳の誕生日だ。ハッピーバースデートゥーユー。ハッピバースデートゥーユー。ディア、弟だったやつ――燃えろ燃えろ、爆ぜろ燃えつきて踊れ」


 鼻歌を歌いながら、ヘルムートが得意とする炎の魔法。右手が放熱し、モニカの頬に当てて、火傷を。


「これが、プレゼント。奴隷エルフの消えない火傷だなあ」


(こんなのって、無いよ。お姉ちゃん。モニカお姉ちゃん……)

 超えにならない悲鳴。涙、何もできない自分。

 その瞬間。彼の心にどす黒い何かと光が落ちてきた。

(うう、こんなやつら、全部死んでしまえばいい。死んで、ううう)


「な、なんだっ!」

 ヘルムートはその光に驚き、モニカを手放してしまう。周りにいた男たちもあまりの状況に対応できず、呆然としている。

「光の少年は黒い心を持っちゃダメっ!」


 ふわりとヨゼフの後ろに広がる光。ヨゼフの髪の色が一瞬、金色に輝き、


 一人の金色の髪にゆったりとした服をした体がふくよかな、女性。


「お姉ちゃんは誰?」


 ヨゼフは彼女に問うた。

 訳が分からず出てきた女性は宙に浮き、まるで天使様のように見えた。美しいからだ。白い若々しさに満ちながらもどこか、母のようなところを含む。羽化したての蝶でありながら、彫刻のようなきれいな笑みを浮かべたヨゼフをいつくしむ姿。


 彼女は答える。ゆっくりと、答える。


「アウロラ。光の精霊。あなたを見守ってきたお姉ちゃんだよ。本当にここまで耐えてきて、偉かったね。甘やかしちゃおうっかな」


 と言って、アウロラという光の精霊は豊満な姉ボディでヨゼフを抱いた。


「おーよしよしよしよしよしっ! お姉ちゃん、甘やかししちゃうううううううううううううううううううううううううううううっ!!!!!!!」

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