第2話 マッサン
第2話 マッサン
私の名前は、森田正雄、山奥にあるシェアハウス「ガンダーラ」の住人で、
みんなには、マッサンと呼ばれている。
ここ「ガンダーラ」の住人の中では私が一番の年長者だと思う。
俺にはもう、夢なんてものは無い。
ここに来た時、あの感じ悪い管理人にあなたの願いは何ですか?
なんて聞かれたときには、一応もう一度だけ現役に戻ってたくさんの観客の前でプレイしてみたい。
そんな風に答えてはみたものの、それが無理だということは、俺が一番わかっている。
ラグビーはそんな甘い世界じゃない。
膝を壊して、今じゃもうトレーニングすらできなくなってしまった。
身長170センチで体重は今じゃ100キロ超えてしまっている。
もう走れないのだ。
ここの住人たちは皆、夢だのなんだのと浮かれているが、どうせそんなもの無理に決まっている。
俺の一番輝いていた頃っていうのは、やっぱ高校3年のあの頃だった気がする。
毎年正月に行われる全国高校ラグビー選手権。花園ってやつだ。
一回戦で負けちゃったけど、あの時の俺は確かに輝いていた。
勝ちたかったなぁ
チームメイトがあとちょっと頭よかったら、あの試合は絶対に勝てたはずなのだ。
チームメイト全員が花園のルール知らなかったとか、ありえないはずだけど
でもあの時みんな、もちろん俺も、そして監督すら1回戦はロスタイムがないという
ルールを知らなかったのだ。
最後のあの場面外に蹴り出しさえしてれば、俺達は勝てていた。
観客席のOBたちの声で、蹴りだせ、蹴りだせって聞こえてはいた。
試合終わった後に、相手選手から最後どうして外に出さなかったの?と聞かれた時ですら、俺たち全員???かんじだったし、まあ馬鹿だからしょうがないにしても、監督もバカだったとは。
教えておいてほしかったよな。
いまだにあの最後の試合は、頭悪すぎると試合に勝てないって、ネタとして母校に語り継がれているらしい。
そこからは、なにもいいことがなかったよな。
一応スポーツ推薦で大学にも行かせてもらったけど、大学ラグビーってやっぱり甘くなくて、4年になったときもレギュラー取れなかったし。
アホらしくなってラグビーやめたら、今度は裏切り者のレッテル張られちゃって、仲間全員から無視されちゃったな。
スポーツマンは根性あるとか、みんな言うけど、あれはうそだな。
上の方まで上り詰めた奴だけが根性あるだけで、俺のように中途半端で逃げ出しちゃう奴は、どうしたって逃げ癖が付くのだ。
介護の仕事やってみたけど、なんか違うなって2年でやめてしまったし、農業やってみたけど、それも2年持たずに辞めてしまった。
実家でしばらくニートしていたら、頭おかしくなっちゃって、精神壊れちゃったし。
デブだし。
ここで出会った人の中で友達になれた気がしていたのは、敬さんだけだった。
奴はいい人だったな。
今まで出会った中で1番と言っていい。
あんな奴なら夢かなえて、現実の世界でも楽しくやっていけるのだろうな。
俺はもうだめだ、すでに終わっている。
ノーサイドだ。
後は死に場所だけだな。
ここで過ごした8か月間友達もできたし、それなりに楽しかった。
もう十分だ。
そういえば、少しからここに入ってきて、敬さんがえらく気にかけていた女の子、
いつも遠くを見ているあの感じは・・・。
ただあのムカつく管理人が、いつもべったりくっついているから、話しかけたりすることもできないのだけれど。
敬さんが気にかけていた彼女のことを、今では俺が気になってきている。
終わらせるのは、もう少し後でもいいかな。
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