3話 忌まわしき黒いアザ

 暑い。エリックはそう感じていた。天空から注ぐ綺麗な日光。とても暑い。

 水は節約していた。万が一というのは本当に訪れる。エリックは節約家だった。そのエリックが水を欲しがるほど暑い。


 雲が厚く重なっているのが空に見える。エリックは歩き続けた。道さえ間違えなければ砂の都ノーバイドに着くはずだ。

 白い鳥がエリックの前を華麗に飛んで横切った。動物にとっては良い気候なのかもしれない。エリックは袋にしまってある布で顔を拭った。汗をかいていた。

 歩いている最中考え事をしていた。エリックの大切な人、クスハのことだ。

 この終わりの見えない旅の動機のことだ。


 クスハの病は最初は周りから軽く見られていた。クスハは熱こそ出さないものの謎の空咳が続いた。クスハのパートナーであったエリックも心配していたがすぐに治るだろうと思っていた。また村の薬師もすぐ治るだろうと言っていた。


 しかしクスハの空咳は治らなかった。それどころか右腕に黒いアザが現れだしたのだ。普通ではなかった。流行り病とも違う。村の薬師にも原因はわからなかった。


 クスハの容姿について語ろう。クスハは肩のあたりまで伸びる綺麗なピンク色の髪色をしていた。色は白く整った顔立ち。そして華奢だった。その容姿は村の女性たちの憧れだったほどだ。瞳の色は髪と同じくピンク色だった。


 その美しい容姿をしたクスハの心を射止めたのはエリックだった。エリックは村でも人気の好青年。二人の関係を祝福する者は多かった。


「エリック、私達結婚するのかな?私はエリックと結婚したい。エリックと一緒なら幸せだよ。ずっとついていく。その……子供も欲しいなって思うんだ」


「そうでありたい。クスハ、一生一緒に人生を歩んでいこう。障害ももちろんこの先の人生であるだろう。それでも君となら乗り越えられると思う」


 そんな会話を交わしたりもした。二人は愛し合っていた。


 しかし病は二人の関係を許さなかった。クスハは病に倒れ、栄養を取っているのにクスハの体は衰弱しただでさえ細身の体がさらに細身に見えるようになった。


 エリックは村の薬師と相談した。しかし村の薬師はお手上げだった。それを理解したエリックは次の行動に出た。他の街の薬師にクスハを見てもらったのだ。薬師がクスハを診察している最中エリックは拳を握りしめながら診察の結果を待っていた。


 そんなエリックの気持ちも虚しくクスハの病気を解明できる薬師はいなかった。偽物の薬を売りつけようとする薬師さえいた。

 空咳と右腕から広がっていく黒のアザ。原因不明の病。エリックは限界だった。これ以上クスハが弱るのを見ているわけにはいかない。正攻法ではこの謎の病は治らない。そう思い至った。

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