オープニング

月夜が日本海を照らしている。陸地の奥に高い山の影があるが、あれは白山だ。この海の底には過去に富山県だか石川県と呼ばれる陸地があったところだ。

海上に目を戻すと、揺れるボートの甲板で、3人の男が何やらやっているのが見える。海面に漂っていた少年を救いあげているところだ。


「おい、しっかりしろ!坊ず、息をするんだ」


男たちの顔には刺青がある。海人と呼ばれる民である。男のひとりが腹を何度か押すと、少年はどっと海水を吐き出して、息を吹き返した。


「そう!そうだ、息をするんだ!」


少年は起き上がって何度か大きく息をすると、ようやく呼吸が落ち着いた。


「おい、坊ず、名前は何と言う?」


「ハル、ハルです・・・」


「そうか。なあハル、ひょっとしてお前、あそこから逃げてきたのか?」


男たちはここから一キロほど沖に浮かぶ筏島の海人たちで、今日の昼間、大陸の日向港に直結された海上集落(棚屋)が炎に包まれるのを見た。日本国警察か、他の集落の一団か、はたまたギャング団か、どこかの組織に襲われ、焼かれたのだと思われた。


それで夜になって様子を見にやってきて、そこで海を漂っているハルを見つけたのだった。ハルはやはりその町に暮らしていて、炎を避けながら海に飛び込んで逃げたのだという。


「誰の仕業かなんて、僕にはわからない・・」


両親は?との問いかけに、ハルは空しく首を振るだけだ。男たちはハルをどうしようかと話し合ったが、やがて、


「俺たちはここからもう少し沖にある宇佐という筏島の海人だ。暮らしはギリギリで、本来はよそ者を受け入れる余裕はないんだが、お前はまだ子ども、見殺しにもできん。我ら大人の言うことを聞いて、皆と共に働く覚悟があるなら、親父殿に頼んでみるが」


選択の余地はなかった。ハルは宇佐の筏島に着くと、この島の証である刺青を入れられ、宇佐の民として、魚取りをして暮らすことになった。


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