滝落ちの魔導書3~茶番の乱入者~

 さっきから何度も何度も後ろに魔法を撃ち込んでいる。

 学院出たばっかりだけど、腐っても魔導士資格持ちプロの魔法使い。火や雷の1つ2つくらいは出せるし、2mチビサイズの野生竜なら学生時代にアルバイトで何匹も狩って売り飛ばしていた。

 「「「グルォオオオァァアアアアアアアアアア!」」」

 全然倒せてません!

 当たっているのに少しも怯まない!全然効いてない!5mくらいの竜なら2・3発で倒せるのに、全然怯みもしない!

 どうしよう?逃げる?でも倒して魔導書を回収しないと仕事が出来ない。でも倒し方が分からない。どうしよう⁉どうしよう⁉

 その時、頭の中の魔導書が開いて、とある魔法のページが広がった。

 「……『落とし穴』!」

 自分が走って通り過ぎた地面がモコモコ動いてぽっかりと穴が開く。

 魔法で作った落とし穴。直径3m、深さ5m。流石に三匹全部を落とせはしないけど、足止めくらいは出来る!と思っていたのに……

 「「「ガルルルルルルルルルル!」」」

 地面がさっき以上に揺れる。多分、怒ってる…………失敗した!

 「順調か?後輩未満。」

 こっちが必至で走っている中で、羽も生えていないのにふわふわ私の目の前に浮かんで、イースさんは涼しい顔をしていた。

 「お前にタメになる事を教えてやる。

 魔導司書は医療方面だけは完備している。腕の二・三本なら食われても生やせる。

 そして、二 階 級 特 進 は 無 い 。じゃぁな。」

 そう言って私を見て嗤って、空へ消えていった。


 こういう時、どうすればいいか解らないの。

 叫べばいいと思った。


 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 逃げても逃げても打開出来ない。あの先輩は全然頼りにならない。あと私に出来る事は竜三匹を倒すだけ!あとついでにあの先輩に魔法を撃ち込んでやる!

 『爆炎』『爆炎』『爆炎』『爆炎』『爆炎』『爆炎』『爆炎』『爆炎』『爆炎』『爆炎』『爆炎』

 後ろを向いて真っ赤な炎の塊を叩き付ける。

 『爆炎』、強力な炎の魔法。5m級の竜に驚いてうっかり使って学院の先生から怒られた挙句に竜の素材が消し炭になってバイトに失敗したのは最近の話。

 最大火力の魔法。でも、出来たら使いたくなかった。

 何故って……

 爆炎が竜にぶつかった途端、文字通り爆発した。

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 だって爆発の衝撃で自分が吹き飛ぶから。あぁ、熱いなぁ……。


 「『爆炎』くらいなら咄嗟で使えんのか。にしても、考えて加減しろよバカが……」

 俯瞰する。竜三匹が爆炎に包まれている様が見える。

 爆炎は魔法の中では単純な部類。単純に魔力を燃やしてぶっ飛ばせばいい。しかし、魔力消費は激しく連射をするのは中々に容易ではない。成程、魔導司書になれる程度には力はある。

 この魔法は本来なら森を炎上させて大事にする物騒な魔法でもある。

 しかし、爆炎は竜にぶつかり爆ぜ、使った本人を吹き飛ばし、飛び散る火は木々に付着する前に不自然に消えた。

 これは何故か?魔導司書新人への魔導書回収は『茶番』だからだ。




 『予め用意したそこそこ危険な魔導書を回収させて、その過程を観察、実力を見極める。』それがこの茶番の意味だ。

 魔導司書になったばかりの新人を、実戦の中で見極める。これが魔導司書の最初の洗礼である。

 こんな非道なやり方をするが、今までケガ人も死人も出た事は無い。

 何故なら、腐っても魔導司書になった輩が万一全力を尽くした場合や不測の事態が起きた場合を考えて、不慮の事故に余裕を持って対応出来る先輩魔導司書が回収茶番の際には結界要員になるのが習慣となっているからだ。

 周囲の生物が魔導書と新人司書に近寄れない様に、結界内部が破壊され尽くされない様に、万一ケガをしないようにと、エルコ=ヒガシノの周りにはイースが練った強力な結界が張られている。




 「さて、どんなもんか…………何だ?」

 余裕顔で空を飛んでいたイースが急に体を強張らせ、ある場所へ視線を向ける。その視線は非常に険しく、敵意を剥き出しにして杖を構えていた。

 『杖を構える』これ即ち、魔導司書の完全なる臨戦態勢・・・・である。

 周辺に張った結界を維持しつつ、自身の防御の為に施した三重の障壁と自動反撃の魔法を20種類計82個起動。そして敵意の元へと10連続で『爆炎』を叩き込んだ。

 1つ喰らえば今エルコが相手にしている竜三匹が一瞬で灰になる。そんな威力のものを10連続。

 今しがた、自分の・・・結界を破った何かに・・・・・・・・・向けて放った・・・・・・



 「クソが……」

 次の瞬間。爆炎、自動反撃魔法、三重障壁が破壊しつくされた。

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