残念な王たちの行方とザンネーム王国の解体
私は牢獄に囚われていた少女を抱えながら、ザンネーム王国の国王の間へ向かった。国王の間に誰の姿もないのは異様な光景だった。
国王のいない玉座、悲しいですわね。
「メリア執務官、こちらへお掛けください」
フィーリア騎士団長は私を玉座までエスコートしようとする。
「ノエル秘書官、この子を預かってもらえますか?」
「はい、かしこまりました」
ノエルもちゃんと魔力コントロールができるので、もしものことが起きても対処できるだろう。
私はフィーリア騎士団長にエスコートされ玉座に座る。
ザンネーム王国に残された者たちは跪き、サイネリア王国に服従することを決意する。
「フィーリア騎士団長、サイネリア王国の旗を」
「はっ、かしこまりました。騎士たちよ、ザンネーム王国の旗を降ろし、サイネリア王国の旗を掲げるのだ!」
『はっ、かしこまりました』
ザンネーム王国の者たちは異論を出すこともなく、それを受け入れた。
サイネリア王国の旗がザンネーム王国に掲げられると、意外にも街から歓声が上がった。前国王の圧政の終わりが訪れたと悟ったのだろうか。
「皆様、これをもってザンネーム王国の敗戦、解体を宣言いたします」
ザンネーム王国の者たちはさらに頭を深く下げた。普通なら喜ばしくないことなのに、涙ぐむものがちらほら見えた。
さて、この王国をどういたしましょう。私は頬に手を当て考え込む。
しばらくすると、考えがまとまったのでボージャス・ルキアを前へ出させる。
「ボージャス・ルキア殿、貴方にこの王国の国王になになることを命じます」
「メリア執務官閣下、それは一体どういうことでしょうか。この王国を植民地になさらないのでしょうか」
「サイネリア王国は植民地を持ちません。必要がございません」
「さようでございますか。口を挟んでしまい大変申し訳ございませんでした。その命、謹んでお受けいたします」
私の命で、ボージャス・ルキアはこの王国の国王となった。
「それでは、王国の名を『ザンネーム王国』を改め、『ルキア王国』とします」
「かしこまりました。私は、『ルキア王国』の王として王国の民を助けていくことを誓います」
ボージャス・ルキアは一番、王国のために想い、尽力していた者だ。他のものから彼が国王になることに対して異論を言うものは誰もいなかった。
さらに、ボージャス・ルキアは深く跪いた。何が起きるというのかしら。
「メリア執務官閣下、いや聖女様。貴女様の大いなる慈悲の心に感謝申し上げます」
国王の間にいるルキア王国の者たち全員に崇められてしまった。
……私は聖女様ではございませんよ。崇めないでくださいませ。
ただ、王国の全財産を残念な人たちに持っていかれてしまった。復興をするにも最低限の軍資金が必要だ。
今から追いかけて、王国の財産を取り戻せないかしら。
「ノエル秘書官、残念な人たちの捜索をお願いできますか?」
「はい、かしこまりました」
ノエルは、外に出てクックルちゃんを呼び、捜索のお願いをした。
しばらく経つと、クックルちゃんが戻ってきてノエルに報告をする。ノエルがクックルちゃんにお礼の餌を上げると飛び去っていった。
「メリア執務官、状況が分かりました。現在、残念な人たちはミリタリア帝国に向かっているようです。距離的に追いつく前にミリタリア帝国領に入られてしまいます」
「そうですか、報告ありがとう」
ノエルは報告が終わると一礼して一歩引いた位置で待機する。ミリタリア帝国は大国の軍事国家だ。多数の属国を従える軍事連合を結成している。
そのため、下手に接触する訳にはいかない。下手にミリタリア帝国を刺激してサイネリア王国が敵対されるのはなんとしても避けたい。
しかし、残念な人たちが大金を持ってミリタリア帝国に入ったのだから何かしらのことは仕掛けてくるでしょう。
ルキア王国も奪還される恐れもある。
困ったものだ……。
「ボージャス・ルキア殿、サイネリア王国から最低限の支援物資と士官たちの教育支援を行いましょう。ルキア王国の復興のための軍資金もお貸しできるように調整いたします」
「メリア執務官閣下、この上ないご支援、誠にありがとうございます」
「いいえ、気にしないでください。一番懸念しているのは、ミリタリア帝国の動きです。戦略的な意味を含めてルキア王国を早急に再建せねばなりません」
一番適した戦略家はやはり、ダリアよね。一時的に滞在してもらおうかしら。
「フィーリア騎士団長、ダリア副騎士団長、お話があります。よろしいでしょうか」
『はい』
私は、フィーリア騎士団長、ダリア副騎士団長にルキア王国の今後の方針、戦略について考えていきたい旨を話した。
私がやりたい意図を理解してくれたようでよかった。
「それでは、ダリア副騎士団長にはしばらくルキア王国に滞在して復興のお手伝いをお願いします。共に残る騎士の人選はお任せします」
「はい、かしこまりました」
結局、ルキア王国に滞在するのはダリアとアリスとその他の騎士5名となった。
「ボージャス・ルキア殿、5万人の平民兵を解放いたします。新しい騎士団長を任命して引き取っていただけますでしょうか」
「はい、かしこまりました。何から何まで、メリア執務官閣下のご慈悲には頭が上がりません」
ボージャス・ルキアは、ルキア王国の新しい騎士団長を任命して、騎士団を再結成する。
私たちは、ルキア王国の騎士団を連れて、サイネリア王国へ帰還することになった。
「ダリア、アリス、お任せいたしますわ」
「はい、かしこまりました。私の戦略家としての腕の見せどころでございますね」
「護衛は私にお任せくださいませ」
ダリアたちに見送られながら、私たちはルキア王国の王都をたった。
数時間すると、ルキア王国の平民兵を収容した施設に到着する。
ルキア王国の騎士団に平民兵たちを託す。
施設から全員が出たことを確認して、私は施設を土に戻した。
私が一瞬で建物を土に戻したのを見て周りの人たちは驚愕した顔をしていた。
そして私たちは、ルキア王国の平民兵たちに拝まれながらサイネリア王国への帰途についた。
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