私が執務官代理になりますわ!

 私は、騎士団の詰所に向かっていると、フィーリア騎士団長にバッタリと出会った。


「メリア様、ごきげんよう。どちらに行かれますのでしょうか?」


「フィーリア騎士団長、ごきげんよう。ちょうどお伺いしようとしていたところでしたわ。昨夜の件はご存じかしら?」


「ええ、聞いております」


「お願いがございます。セシル様に会わせていただけませんか? 王国の危機なのです」


「もちろん。問題ございませんよ」


 フィーリア騎士団長はどちらかというと「待っていましたよ」というような表情をしていた。


 セシルの部屋に入ると、セシルが駆け寄ってきて私を抱きしめる。


「メリア!」


「セシル、どうしたの?」


「ブルセージ様が毒をもられたと聞いて、メリアのことが心配だったの」


「大丈夫ですわ。私は負けませんわ。王国とセシルを守ってみせますわ」


「メリア、ありがとう」


 お父様を早く治してあげたい。

 けれど、王国がなくなってしまっては元も子もない。


「例の件、国王陛下にお父様から報告はあがっておりますか?」


「ええ、聞いておりますわ。ですが、王宮内で混乱が起きる可能性を考慮して王族の関係者のみにしか伝えられておりません」


 関係者とは、宰相閣下も入っているのだろうか。


「宰相閣下もご存じということですか?」


「ええ、もちろんですわ」


 やはり、お父様に警戒する者を伝えておけばよかった。

 すぐに行動に出るとは思ってもみなかった。不覚ですわ。


「セシル、お願いがあるの。国王陛下との謁見の許可をもらえないかしら」


「メリアは何をするおつもりですの?」


「私がお父様に代わり、執務官代理として任命していただきたいのです」


 私は真剣な顔でセシルを見つめると、「わかったわ」と頷いてくれた。


 セシルのはからいで、国王陛下との謁見がかないそうだ。

 待っている間は、セシルとお茶をすることになった。

 お互いもう少し落ち着こうとフィーリア騎士団長に注意されてしまったからだ。

 

 リラックス効果のあるハーブティを飲みながらくつろいでいると、だんだんと気持ちが落ち着いてきたような気がした。


「メリア、ありがとう。いつも私を守ってくれて。婚約の件も……」


「当たり前ですわ。セシルとは親友ですもの。セシルの幸せが一番大事ですわ」


「ありがとう、メリア」


 やっぱり、セシルの顔を見ると癒されますわ。

 本当に美しい王女様に成長されましたわ。

 

 しばらくゆっくりしていると、謁見の準備が整ったと伝令がきた。

 

 私とセシルは国王の間に向かった。

 国王の間に入ると玉座に国王陛下が座っている。

 隣にはグワジール宰相の姿もあった。

 

 私は国王陛下の前で跪き頭を下げる。

 セシルは玉座の横に私の方を向いて控えている。


「メリア・アルストール、おもてを上げても良いぞ」


 私はおもてをあげる。

 国王陛下もかなり疲労が溜まっているようだ。

 心労が絶えないのでしょう。


 その反面、グワジール宰相は顔色も良く贅沢のかたまりのような姿だった。

 誰もおかしいと思わないのだろうか……。


「国王陛下にお願いがございまして、参らせていただきました」


「うむ。おおかた見当がついておる。申してみよ」


「はい、ありがとう存じます。私を執務官代理に任命していただきたく存じます」


 国王陛下とセシルの唇が少し揺らいだのが見えた。

 しかし、グワジール宰相は逆上してきた。


「なりませぬ、国王陛下。このような小娘に執務官代理が務まるとは思いません」


「口を慎め、グワジール宰相。任命するかどうかを決めるのは私だ」


 グワジール宰相は「ぐぬぬ」と呟き、一歩引いた。


 国王陛下は一度目を数秒閉じて、開いた。


「よし、わかった。メリア・アルストール、其方を執務官代理に任命する。父、ブルセージ執務官の代理として王国再建を託す。頼りにしておるぞ」


 国王陛下の柔らかい表情に私は安堵した。

 セシルも温かく見守っていてくれている。


「ありがたき幸せ。王国のため、全力を持って王国再建を果たしてみせましょう」


 グワジール宰相は荒々しい顔つきで私を睨んでいた。

 これほど分かり易い悪人はいないのだけど……。

 必ず尻尾を掴んでみせますわ。



「国王陛下、人払いをお願いしたく存じます」


 国王陛下とセシル、フィーリア騎士団長以外には聞かれたくないことがある。

 国王陛下には意図が通じたみたいだ。


「うむ、わかった。セシル、フィーリア騎士団長以外は退室せよ」


 グワジール宰相は自分が外されたことに驚いているようだ。

 必死に抵抗しようとする。


「国王陛下、私も同席をお願いいたします」


「二度は言わん。退室せよ!」


 語気の強い国王陛下の言葉にグワジール宰相は怯んだ。

 素直に退室していった。

 

 国王の間は私と国王陛下とセシル、フィーリア騎士団長だけになった。


「国王陛下、こちらをご覧ください」


 私は3枚の紙を差し出す。セシルが受け取り、3枚の紙を国王陛下に見せる。


「これは! 何者かに帳簿が盗まれたと聞いておったが……」


 バックアップをとっておくのは仕事の基本ですわ。

 そんな習慣はこの世界にはないのかもしれなませんわね。


「はい、必要な箇所をあらかじめ書き写しておきました」


 私の渡した紙を凝視している。「なるほど」と頷きながら読んでいる。


「でかしたぞ、メリア執務官代理。首謀者が誰なのか予想はついておるのか?」


 私は自信を持って返事をする。


「はい。これから証拠を上げて、その者を捕らえたいと思っております」


「わっはっはっは。さすが、ブルセージの娘だ。期待しておるぞ」


「ありがとう存じます」


 王国再建の兆しは見えてきた。

 まずは首謀者を捕まえて、使途不明金の回収をしますわ。



 その後、ザンネーム王国との国交断絶が決行された。

 国境の関所には厳重に兵士の体制を整えていった。


 もちろん、セシルの婚約も破棄された。

 ……セシルの幸せは私が絶対に守ってみせますわ。

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