エルフ少女との出会い

 始業前、早く来て過ぎてしまったわたしは学内を探索中である。


 豆腐型の建築で飾り気のなかった校舎とは全然違って、見るもの全てに魅了されてしまいそうだった。


 中庭に差し掛かると、一人の少女がお花の世話をしていた。

 緑色の髪が綺麗でまるで妖精さんのようで美しい。

 耳の形が若干とんがっているよう見えたから、エルフかな?


「ごきげんよう、素敵な花壇ですわね」


 お花の世話をしていた少女が少し驚いた表情をして振り向く。


「ご、ごきげんよう」


「ごめんなさいね。急に驚かせてしまって。わたくしメリア・アルストールといいます」


「い、いえ、わたくしは、ミリーナ・エクストールと申します」


 彼女はわたしを知っているような感じだった。

 おそらくわたしを知らない学生はあまりいないでしょうね。


「ミリーナ様は、いつもお花のお世話をなさっているのでしょうか?」


「はい、お花など植物を育てるのが好きなもので」


 ……お、素敵な人材を発見ですわ!


「それは素敵ですわ。植物研究などされていらっしゃるのかしら?」


「ええ、わたくしはエルフでして。植物は大好きなんです」


 ミリーナがお花の話をしていると妖精のような笑顔になる。

 魅了されてしまいますわ。


 辺境伯の方が、一人さまよっていたミリーナを見つけて養女にしてくれたそうだ。


 ……とても貴重な存在だ。なんとしても人材の確保を!


「ミリーナ様、わたくしとお友達になりませんか。『ミリーナ』と呼んでもいいかしら。わたくしも『メリア』と呼んでくださいませ」


「わたくしとお友達ですか? エルフを忌み嫌う方もいらっしゃいますのに」


「ミリーナがエルフ、素敵ではございませんか。むしろ大歓迎でございますわ。ミリーナ自身、全てを含めてお友達になりたいのですわ」


 ……こんな妖精のような可愛らいい子を忌み嫌うなんて信じられませんわ。


「あ、ありがとうございます。メリア様。わたくしは辺境伯家の養女ですので『様』付けだけはご容赦願います」


「ええ、大丈夫ですわ。好きなようにお呼びくださいませ。ちなみに、ミリーナのクラスはどこですの?」


「わたくしは、1年生のAクラスです」


 貴族学校は実力重視で、在学中にクラスのランクアップやランクダウンがあるらしい。

 ミリーナを鍛えれば同じSクラスに上がれるはずよ!


「ミリーナ。わたくしがお手伝いしますから、頑張ってSクラスに上がりましょう! やっぱりお友達とは一緒のクラスにいたいですわ」


 ……まずはクラスが上がれる条件などを調べないといけませんわね。


「そ、そんな、メリア様のお手を煩わせることは申し訳なさすぎますわ」


「遠慮はいりませんわ。それに、やってもらいたいことがございますの」


 わたしは気がついたらミリーナの両手をとっていた。

 わたしは真剣な眼差しでミリーナを見つめる。

 ミリーナは根負けしたというような表情で返事をしてくれた。


「わかりましたわ、メリア様。よろしくお願いいたします。ところで、わたくしにやってもらいたいこととはなんでございましょうか?」


 よくぞ聞いてくれましたという顔をしてわたしは話す。


「わたくしには夢がありますの。桜という淡いピンク色の花を咲かせる木の並木道を作ることですわ。その手助けをしていただきたいの」


「サクラとはどういうお花なのでしょうか? わたくし聞いたことがございません」


 ……それはそうよね。前世の日本中で咲き誇っていたお花ですもの。


「遠い異国の地にあったという言い伝えがあるだけです。別々の種類の花を交配させて作られたとされています。伝承ですので、詳しいことは存じ上げません」


「別々の花を交配させて新しい花を生み出す。そのような発想は思い浮かびませんでした。メリア様は、素晴らしいですわ」


 ミリーナの妖精ような微笑みを見せられるとわたしの心が洗われていくようだわ。


「ノエルというグロッサム男爵家のお嬢様ともお友達ですの。その方とご一緒にわたくしの屋敷にご招待いたしますわ。お休みの日にお越しいただけると嬉しいですわ」


「はい、ありがとうございます。ぜひ、伺わせていただきます。ノエル様ともお友達なのですね。上級の貴族の方に贔屓ひいきにされるのはまれですので驚いてしまいました」


 ミリーナはノエルとは面識があるようだ。

 わたしは身分より本人そのものを見る。

 この世界にはそのような人間はなかなかいないかもしれない。


 あ、でもお父さまも同じでしたわ。

 そうでなければノエルに出会えなかったかもしれない。


「お父さまも、身分に関係なく友人や部下たちがたくさんいらっしゃいますわ。親子は似てしまうものね……」


 ミリーナと楽しくお話をしていると、カランカランと始業を開始する予鈴が鳴った。


「では、時間ですわね。またお会いしましょうね」


「はい、メリア様」


 わたしとミリーナはそれぞれのクラスの教室へ移動していった。



 学校内は走るのは禁止で、優雅に早歩きするのは大変だった。

 教室に着くのは授業開始ギリギリで、すでにセシルとノエルが席についていた。


「ごきげんよう、セシル、ノエル」

「ごきげんよう、メリア」

「ごきげんよう、メリア様」


 三人同士、優雅に挨拶をする。


「メリア、遅かったわね。何かございましたの?」


「少し早く登校してしまったので、校内を散歩してましたの」


「メリア様、何か良いことがございましたの?」


 ……ノエルはするどい。


「ノエル、ミリーナ・エクストールという辺境伯家のお嬢様はご存知かしら?」


「ええ、お父さま同士がご友人ですし、面識はございますわ」


「今朝、ミリーナとお友達になりまして、わたくしのお屋敷にご招待いたしましたの。次のお休みにノエルと一緒に来ていただけると嬉しいですわ」


「メリア、ずるいですわ。わたくしも仲間に入れてくださいませ」


 セシルのおねだりする姿はたまりませんわ……。

 でも、セシルは王女様だから気軽に来られないのよね。


「セシルは、王宮の許可が取れたら大丈夫ですわ」


「わかったわ。お父さまを納得させてみせますわ!」


 セシルは何がなんでもわたしの屋敷にくるつもりね。

 セシルが来てくれるのはとても嬉しいのだけれど……。


「メリア様、それでミリーナ様をご招待されて何をされるのですか?」


「それは、ミリーナをSクラスに昇格させるための特訓ですわ!」


 ノエルは少し引いた表情をした。わからなくもない……。


「セシル、クラスの昇格の条件ってわかるかしら?」


「もちろんですわ。年2回、座学と実技試験がありますの。その成績次第で昇格や降格が決まりますわ」


 次の試験は……秋口のようね。それなら時間は十分にあるわ!

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