メルヘン少女ノエルとお友達に!
今日はアルストール家は大忙しだ。
わたし以外は……。
今日は、アルストール公爵家主催のパーティーが開かれる。
わたしは蚊帳の外だ。
なぜなら、わたしはまだお披露目をされていないのでパーティーに出られないのだ。
しかも、パーティー中は部屋から出てはいけない。
なんとご無体な……。
「いとしのメリア。今日はごめんな」
お父さまがわたしを慰めにきた。
あれ、わたしはちょっと不機嫌な顔になっているのかしら?
お父さまがわたしのご機嫌とりに必死になっているわ。
「大丈夫ですわ、お父さま。パーティーを楽しんでいらしてください」
お父さまは本当に申し訳なさそうな顔でわたしの部屋を出ていった。
しばらくすると、話し声がどんどんと増えていくのがわかった。
会場が開かれ、たくさんの貴族の方たちが集まり始めた。
いいなぁ。
貴族のパーティーってどんなことをするのでしょうか。
殿方とダンスを踊ったりするのかしら?
ぼうっと考え込んでいると、トントンとノックの音がした。
「どうぞ」
「メリア。入りますわね」
お母さまが、貴族の殿方と、お嬢様を連れてわたしの部屋にやってきた。
「こちらの方は、エリック・グロッサム男爵と、お嬢様のノエル・グロッサム様です」
エリック男爵が一歩前へ出て頭を下げる。
「お初にお目にかかります。メリアお嬢様。私、エリック・グロッサムと申します。いきなりで大変申し訳ございません。訳あって、娘のノエルと一緒にこちらにいていただけないでしょうか。ほら、ノエル。ご挨拶を」
エリック男爵は、ノエルの背中を押して前へ出させる。
「お初にお目にかかります。メリアお嬢様。わたくしは、ノエル・グロッサムと申します。本日はよろしくお願い申し上げます」
ノエルは、両手でスカートの裾を少しあげて優雅に挨拶をした。
ノエルは、わたしより少し小柄で水色のふんわりとした髪型をしている。
とても可愛らしい感じですわ。
「はじめまして、メリア・アルストールです。よろしくお願いいたします」
ノエルもわたしと同じ歳でまだ社交界でお披露目されていないのでパーティーには出られない。
家に一人で置いてくる訳にもいかず、わたしのところへ連れてきたようだ。
お父さまとも旧知の仲の方のようで、すすめられたみたいだ。
「はい、わかりました。ノエル様、本日はご一緒に過ごしましょうね」
「メリアお嬢様、ありがとうございます」
お母さまとエリック男爵はノエルを残してわたしの部屋を出ていった。
入れ替わりに、セリアがお茶のセットを乗せたワゴンを引いて部屋に入ってきた。
テーブルにティーセットとお菓子を置いていく。
「では、ノエル様。そちらにお掛けになってください」
「はい、ありがとうございます」
わたしとノエルはテーブルにつく。
わたしはお茶とお菓子を一口ずつ食べてみせ、ノエルに勧める。
「メリア様、ありがとうございます。いただきます」
ノエルは不慣れなのか、少し手を震わせながらお茶を飲む。
「緊張しなくてもいいですわよ。『ノエル』とお呼びしてもいいかしら。わたくしも『メリア』と呼んでいたでけると嬉しいのだけど」
「め、めっそうもございません。『メリア様』でお許しください。わたくしの方は大丈夫ですわ」
やはり、階級の差が大きいので「様」を付けないで呼ぶのは抵抗があるようだ。
「では、ノエル。あなたの好きなことを教えてくれないかしら」
「わたくしの好きなことですか? わたくしは小動物とお話しがするのが好きですわ。毎朝小鳥さんとお話をしていますの」
なんと、ノエルは動物と会話ができる能力を持っていた。
動物と会話できるなんて素敵なことじゃない。
将来、諜報活動としても重宝しますわ。
是非とも確保しておきたい人材ですわ。
あれ? 「管理職」という職業病が出ていない?
「素敵ですわね。どんな会話をするのかしら?」
「普通に挨拶をしたり。面白いお話を聞いたり。特に当たり障りのないお話ですわ」
ちょうど部屋の窓が開いていて、小鳥がシエルのところに飛んできた。
何やらノエルと小鳥が会話しているようだ。
「小鳥さんは、何を話しているのかしら?」
「えーと、メリア様はすごくお強いですよー。でもとても優しい方ですよー。緊張しなくていいよー。だそうです」
なんと、この辺りの小動物にはわたしはすごく強い存在と認識されているようだ。
「うん、またね」とノエルが言うと、小鳥はパタパタと外へ飛んでいった。
……メルヘンチックですわ。
「あのぅ、メリア様は本がお好きなのでしょうか? 後ろにたくさん並んでますもの」
「ええ、好きですわ。こちらの本はもう読破済みですわ。お父さまの図書室にもたくさんございますの。今はそちらでも本を読んでいますわ」
「メリア様はたくさん文字が読めるのですね。すごいですわ。わたくしはまだまだですの」
男爵家で家計が厳しいと家庭教師を雇うところまで手が回らないかもしれない。
「では、わたくしがお教えいたしましょうか」
「いいえ、めっそうもございません」
「遠慮はいらないですわ。もうノエルとはお友達ですもの」
「え、えぇ、わたくしをお友達にしてくださいますの?」
……ええ、絶対に貴重な人材は逃しませんわ。うふふ。
「もちろんですとも」
「ありがとうございます。とても嬉しいですわ」
その後、わたしが昔使っていた石板セットを持ち出してきてノエルに文字の読み書きを教えてあげた。
……ノエルの一生懸命に勉強をしている姿を見ると、もっともっと面倒を見てあげたくなりますわ。
ノエルの勉強を見ていたら、時間がたつのはあっという間だった。
パーティーを終えた貴族たちが、ざわざわとしながら帰り始めているのがわかった。
……もう終わりの時間ですわ。
「では、ノエル。お勉強はおしまいにしましょう。こちらの石板はノエルに差し上げますわ。お古で申し訳ないのですけど」
「え、メリア様。よろしいのですか?」
「もちろん。わたくしはもう文字の読み書きはできますから。遠慮しないで」
「メリア様、ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」
ノエルは泣きながら喜んだ。
しばらくすると、エリック男爵が迎えにきた。
「メリアお嬢様、本日は本当にありがとうございました」
「いえいえ、わたくしこそノエルが一緒で楽しかったですわ」
「お父さま、メリア様が石板セットを譲ってくださいましたわ」
ノエルが、わたしがあげた石板セットを見せて今日の出来事を報告する。
「メリアお嬢様、何から何まで本当にありがとうございました」
エリック男爵は本当に腰の低い方だ。
何度も頭を下げてノエルと一緒に帰っていった。
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