はじめての王宮と見えない悪意

 わたしは、お勉強と日々の鍛錬を一生懸命にしていた。


 そして、5日後はあっという間に訪れた。


「おはようございます。お父さま、お母さま」


「おはよう、メリア」


 朝食でわたしはご令嬢らしく優雅に挨拶をする。


「メリア、今日は旦那様と一緒に王宮へ行くのですから早めに準備をしなさい」


「わかりましたわ、お母さま」


 わたしは少し早めに食事を終わらせる。


「ごちそうさまでした。お先に失礼いたしますわ」

 

 お父さまのご出立に間に合うように、急いで自分の部屋に戻った。


 わたしの部屋ではセリアたち使用人が準備を整えていてくれた。


 急いで王宮へ向かうにふさわしい衣装にお着替えをする。


「メリアお嬢様、こちらお荷物になります。お勉強道具や稽古着も入っております」


 セリアはお出かけ用の鞄を渡してくれた。


 セシルとお茶会以外にお勉強やお稽古をする可能性を見越して準備をしていてくれた。


 セリアは本当にしっかり者ですわ。


「セリア、ありがとう」


 わたしが玄関へ向かうと、お父さまとお母さまが玄関前で待っていてくれた。


「お母さま、それでは行ってまいります」


 わたしは優雅にお嬢様らしくお母さまに挨拶をした。


「王宮でもしっかりと貴族らしく振る舞うのですよ」


「はい、お母さま。アルストール家に恥じないように行動いたしますわ」


 わたしは玄関を出て馬車に向かう。


 馬車に近づくと、お父さまがわたしを抱き上げて乗せてくれた。


「お父さま、ありがとうございます」


 お父さまはにこやかな笑顔で返してくれた。


 そして、お父さまも馬車に乗り込んでくる。


「では、行ってきます」


『行ってらっしゃいませ、ブルセージ様、メリアお嬢様』


 使用人たちが挨拶をしてわたしとお父さまを見送ってくれた。


 いざ、王宮へ出発だ。


 はじめて見る異世界の景色は爽快だった。


 サイネリア王国は大きな川と海に面している国である。


 アルストール家の屋敷は高台にあるので王国の一面を眺めることができた。


「お父さま、素晴らしい景色ですわ」


「そうだね。今見える街を、王国を守るのが私たち貴族の務め、よーく見ておくんだぞ」


「はい、お父さま」


 わたしは無垢な笑顔で元気に返事をすると、お父さまの顔がもの凄く緩んでしまった。


 馬車は街を経由して王宮へ向かう。


 街といっても貴族の家の街並みだ。


 貴族といっても身分の差や財力の差がある。


 大きく屋敷を構えていられるのは上級の貴族くらいなものである。


 王宮へ続く一本道に出ると、絵に描いたような白い大きな建物がどんどん近づいてくる。


 馬車は正門を通らず、関係者用の入口の方へ向かって入口前に止まる。


「メリア着いたぞ」


 そう言って、先にお父さまが降りてわたしを抱きかかえて馬車から下ろしてくれた。


「お父さま、ありがとうございます」


 お父さまのテンションがどんどん上がっていっている。


 今日は仕事になるのかな?

 

 入口に入ろうとすると、警備兵たちがお父さまに向かって敬礼をする。


「一緒にいるのは、私の娘だ。この通り招待状も受け取っている」

 

 お父さまは、セシルからの招待状を警備兵に見せる。


「はっ! 確認しました。お通りください」


 わたしは一応、会釈をして警備兵の前を通っていく。


 警戒というよりは緊張しているのかな?


 お父さまについていき、お父さまの執務室に到着した。


 中に入ると、またまた綺麗な女性の方が部屋の中で待っていた。


「おはようございます。ブルセージ執務官」


「おはよう、エルミーナ秘書官。紹介するよ、私の娘のメリアだ。王女様のご招待で連れてきた。もうすぐフィーリア騎士団長が迎えにくるはずだ」


「承知いたしました」


「お初にお目にかかります。わたくし、メリア・アルストールと申します。以後、お見知りおきを」

 

 わたしは両手でスカートの両はしをふわっとあげてお嬢様らしく挨拶をした。


「これはこれは、ご丁寧に。私はエルミーナ秘書官です。よろしくお願いします」


 エルミーナ秘書官はにっこりとした笑顔で返してくれた。


 お父さまは執務机について仕事の準備を始めている。


 わたしは応接用の椅子に座ってお迎えを待つことになった。


 しばらくすると、トントンとノックの音がした。


「どうぞ」


「失礼いたします。フィーリア・エルフォードです。執務官のお嬢様をお迎えにあがりました」


 フィーリア騎士団長は女性の騎士で緑色のロングヘアの綺麗な方だ。


 騎士の制服はとても凛々しくて素敵ですわ。

 

「はじめまして、フィーリア・エルフォード様。メリア・アストールと申します。本日はよろしくお願いいたします」


「はじめまして、メリア様。私はフィーリアです。王女様がお待ちかねです。ご一緒に参りましょう」


 お迎えが来て、フィーリア騎士団長の案内でセシルの部屋へ向かう。


 向かっている途中、妙な違和感を感じた。


 どこかで感じたことがある雰囲気……。


「メリア様、宰相閣下が通られます。跪いて頭を下げてください」


 フィーリア騎士団長の言う通りに、跪いて頭を下げる。


 サイネリア王国のナンバー2の宰相である、グワジール・ボルジワールが通り過ぎる。


 先ほど感じた違和感はもう感じなくなった。


 一体なんだったんだろう……。


 気を取り直して、わたしはセシルの部屋へ向かう。 

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