会社をクビになった社畜OL、公爵令嬢に転生する〜異世界スローライフを満喫したいだけなのに、何をやっても聖女として崇められてしまいます!?〜

藤野玲

プロローグ 社畜O Lは異世界へ

 小鳥遊由紀美たかなしゆきみ、27歳。某IT企業で働いている。入社当初から優秀で27歳という若さで課長まで昇進した。


 IT企業というのは男社会が根強い会社がいくつかある。由紀美の会社も例外ではなかった。異性の上司や部下からは疎まれていた。


 上司や部下たちは生活残業が横行していて、ろくに仕事をしない。そのくせ、余計な仕事をクライアントから安請負をしてくるからたまったものではない。

「女のくせに」という言葉をSNSで発言すれば叩かれることも、閉じられた世界では当たり前のように発せられている。なんとも醜い世界だ。


 由紀美は、それでもブレずに負けずに業務をこなしていく。部下に仕事を任せても誰も仕事に取りかからずデスクに座っているだけ。結局、由紀美が毎日10倍の作業量をこなして部下の分まで仕事をする。


 自分の実績を上げることで、上司や部下の嫌がらせから自分の身を守っていた。だが、そんなことがいつまでも持つわけはない。少しずつ彼女の心身をむしばんでいくのであった。


 ある日、由紀美が退勤した後、デスクで一人の由紀美の部下が慌てた様子で頭をかいている。


「あぁ、しまった。クライアントに送る資料を作ってない。どうしよう」


 そこへ由紀美の上司である部長が通りかかる。


「どうした? そんな慌てた顔をして」


 部長と由紀美の部下は同じ大学の先輩後輩で、二人でよく呑みに行く仲である。


「部長、A社に送る資料を作るのを忘れて提出期限を過ぎてしまいました」


 部長はいいことを考えたという顔をして、由紀美の部下に提案する。


「小鳥遊君の責任にすればいいじゃないか。監督責任は君の上司にある。クライアントからクレームが来たら全て小鳥遊君のせいにすればよい」


「承知いたしました。そのようにいたします」


 由紀美の部下は、部長の意図を理解して不適な笑みで返す。


「ふふふ」


 部長は、やっと生意気な小鳥遊由紀美を追い出せると思うと笑いが止まらなかった。


 数日後、由紀美が会社に出勤すると社内でざわざわと噂をする声が広がっていた。


 由紀美は特に気に留めないようにしていた。しかし、部長に呼び出されることになった。


「小鳥遊君、A社の件どうしてくれるのかね? お客様から契約が打ち切られたぞ」


 部長はものすごい形相で由紀美を睨む。演技であるが、由紀美には分からなかった。


「A社の件は無事に完了したと報告を受けておりますが?」


 由紀美は言い訳をするが、部長は始めから由紀美の言葉を聞く気はない。


「この期に及んで、嘘を言うでない。小鳥遊君には責任を取ってもらう、覚悟しておくように!」


 由紀美自身には全く身に覚えがなく、何が起きているのか理解するのが難しかった。


 部長と由紀美の部下が喫煙室へ行く途中、自動販売機でコーヒーを買う。


「部長、どうでしたか?」


 由紀美の部下はコーヒーの缶を取り出しながら部長に質問をする。


「ああ、小鳥遊君の表情は見ていて面白かったよ。まさか虚偽の報告で貶められるとは思ってもいまい」


 部長はニヤけて、笑いが止まらない。


「こちらも社内中に噂を広めておきましたので、あの人の居場所はもうどこにもありませんよ」


 由紀美の部下もしてやったという笑顔で生き生きとしていた。


 

 由紀美は、自動販売機の影でたまたま部長と自分の部下との会話を聞いてしまった。由紀美は両膝をつき絶望を味わってしまった。由紀美はショックで、しばらく立ち上がることができなかった。


「辞めてほしいならもっと早く言って欲しかった……」


 翌日、会社中に通達の紙がたくさん貼られていた。


『通達 小鳥遊由紀美課長は、虚偽の報告により本社に多大な被害をもたらした。その為、本日を持って懲戒免職とする。 以上』


 由紀美は、会社からリアルで追放されてしまったのである。由紀美は、ほぼ全ての業務を担当して采配していた。由紀美を追放した会社は、仕事ができる人がどんどん去っていった。


 結局、大量の業務が滞りクライアントからのクレームの嵐で会社は倒産してしまった。


 由紀美は失業後は仕事に就くこともなく、小説や漫画やアニメを見て過ごしていた。

 自然と異世界げんじつとうひに行きたいと祈りながら……。



 ある日、由紀美は散歩をしていると、この街に溶け込まない妙な古本屋さんを見つけた。由紀美は引き込まれるように足を運び、その古本屋に入る。店の奥では白髪のお婆さんが古びた一冊の本を持って座っていた。


「そこのお嬢さん、こちらの本が欲しいのではないかしら? 夢が叶いますよ」


 由紀美はお婆さんから、古びた本を手に取る。すると、由紀美は白い光に包まれて意識を失うのであった……。

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