【美味しいか審議 02】
突然召喚された国の名前を、フェードゥンというらしい。
兵士に囲まれたまま広間を出て、恋唯は廊下を歩かされた。
綺麗に手入れされた中庭は黄昏の空を携えており、こんな状況でなければゆっくり鑑賞したいほどだった。
しかしこの囲まれている状況では、のんびりすることも逃げることも不可能だろう。
「一応説明しておきますね。この国は現在、モンスターの出現に悩まされています」
そっくりな神官二人は先頭を歩いており、兵士越しに頭だけが見える。
「王はモンスター討伐を実の息子である王子に命じ、これを王位継承の試練とすることにしました」
「しかし慈悲深い王はただ試練を与えるだけではなく、王子の役に立つ人材を、異世界より呼び寄せることにしたのです」
「はあ、それで、私が……?」
交互に喋る神官たちに対し、恋唯も一応会話に参加してみたが、神官も兵士たちも歩みを止めることはない。恋唯は急かされるように歩き続けた。
「どうして異世界から……? この世界には強い人がいないのでしょうか?」
「召喚のスキルで異世界より呼び寄せられた者には、エダにより強力なスキルが付与されることがあります。王が求めているのは、強き力を持つ者なのです」
「強力なスキル……? あの、先ほどから、エダ、とは?」
「エダとは我々を許し、導き、守る存在です。エダに強力なスキルを付与された者だけが、王子の仲間に加わる名誉を得るのです」
神官二人が立ち止まると、兵士たちもそれに倣う。恋唯も驚いて足を止めると、どうやら階段があるようだった。
何かに背中を押されて振り返ると、兵士の持つ盾で押されていた。ここからは一人で行けということらしい。
兵士たちの輪から出されると、同じ顔をした神官二人が、階段の前に立っている。
「付与スキルとは、異世界より召喚された際に、エダより与えられる特殊な能力のことです。人によっては炎や風を操る強力なスキルが使えたり、巨大な剣や斧を自由自在に扱えるようにもなります」
「ですが、それが貴方にはありません。鑑定結果は『無し』でした」
オッドアイの神官二人に冷たく見つめられ、恋唯は妙な気分になった。
この人たちの都合で勝手に連れてこられた先で、お前は不要だと言われている。
「無し、ですか」
「ええ。ですから貴方は、王子の仲間にはなれません」
「そうですか……」
苛立ちが込み上げながらも、恋唯は少し安堵した。王子の仲間になれないということは、モンスターとやらと戦う必要は無いということなのだろう。
召喚されたというのもよく分からないが、恋唯が期待外れの存在だったのなら、元に戻されるだけだろうから。
「じゃあ私、もう帰っていいですか?」
恋唯は何となく、神官に笑いかけた。
鏡合わせの二人は笑い返してはくれたが、それは哀れな者を見る眼差しであった。
「いいえ、貴方はもう元の世界に帰ることは出来ません」
「他にも帰ることを望まれた方はいましたが、望みを叶えた方は、今のところ一人もおりませんので」
「じゃあ私はこれから、どうなるのですか……?」
当然の質問に、神官二人は道を空けた。その先には地下へと続く階段がある。
「階段を下りた先にイスト様がいらっしゃいます」
「貴方のようなハズレ異世界人の世話は彼に一任されていますので、今後のことはイスト様にお尋ね下さい」
「待って下さい。これはあまりにも……」
横暴ではないかと声を上げようとしたが、神官二人の背後には武器を携えた兵士たちが立っている。
彼らは最初から恋唯に、この階段を下りる以外の道を与えないつもりでいたのだ。
全く同じ顔の、左右で色の違う目。片方は黄緑色で、片方は蜂蜜みたいな色をしている。
四つの目玉に見つめられて、恋唯は悪夢を見ているような気分になった。
「それでは、ハズレ異世界人様。どうか、お元気で」
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