よお 表白

「私には彼女の前にも春を買っていた女性がいました。茶髪の人でした。その女は大学生でしたか年増で精神的にも不安定なところがあって関係を切ったのですが、その女のことを思い出しながら彼女の死んだ顔を見るとやはり可愛いとこう思いました。そうです。彼女は単なる肉塊になったのです。どの生命体よりも美しかった彼女が今ではそこの灰皿と同じような『物体』になったことを思うと、そして春を噛んだような笑顔をたくさん見せてくれた彼女が文字通り死んだような顔をしているのを見ると、大変なことをしてしまったのだと思うのと同時に、結局「生」も「死」もほとんど同じではないか、という気持ちになりました。そうして一通り余韻に浸った後、彼女のスマホの中を見ました。——ええ、スマホのロックは彼女の指紋で開きました。LINEを見ると、確かに聖夜の6時から待ち合わせをしています。LINEの内容を遡りましたが何か惚気た会話をしている訳でもなく、仲の良い姉弟の会話のようでして、『嗚呼、若い運命の男女とはこういうものなのか』と思って一段と殺意が高まりました。集合は六時に駅で、ということでしたので、その時間まではタバコで時間を潰しました。彼女は灰皿と同じになったのだから、と思って彼女の口を灰皿がわりにしました。いい頃合いに駅に行くと確かにあの子がいます。あの子を見た時の衝撃は今でも忘れられません。顔は加害性を持つほど美しく、源氏物語から光源氏を引っ張り出してくるとこうなるのだろうなと思い、それと同時に私には訪れなかった青春を経験してきて、経験しており、経験してゆくのだと思うと、『ああ左様か』と言って受け止める、そういうことが出来ないような感情になりました。——— はい?それからのこと?いや、私からは話しかけていませんよ。初めは話しかけようと思ったんですけどね、彼の人生に私なんかが入っていくのは不敬のような気がして、それに話しかけるには私が幼い頃から受けてきた教育と教養が邪魔で結局、話しかけられませんでした。そうです。彼から話しかけてきたんです。今から思うと、恐らく彼は私の顔を知っていたのでしょうね。売春者としての私を。彼は怒ったような顔でやって来て彼女を何処にやったのかと詰問するんです。声変わりしたかしていないぐらいの声が耳に心地よかった。若い女子はこのような声が好きなのだろうとそう思いました。――すいません、話が逸れてしまいましたね……。私は『ああ、君が彼か。彼女はホテルで寝てしまったのサ』と言って、彼と共にホテルに戻りました。彼は疑うということを知らないようで親鳥についていく小鳥のようについて来てくれました。

部屋に戻ると開口一番『もう関わってくれるな』と言われました。話を聞くところによると彼には親がなく、高校に行く学費を工面するために、彼女に女を売らせていたそうです。そして今日、目標の金が揃ったそうな……。だから『もう関わってくれるな』こんな酷い話がありますか?ヒモどころではないでしょう。男として彼女にこんなひどい事をさせられる訳がありませんから、彼にとって彼女はただ金を貢いでくれる一人の女というだけだったのでしょう。私は彼を呪い、そして『女にそれほどの事すらさせられる』美貌とそれに付随する若さを呪いましたね。彼はまだまだひどい事を私に被せます。『そもそも、貴方みたいなのが年甲斐もなく若い女に手を出すという事自体がおこがましいことだ。人は小学生の時は小学生を、中学生の時は中学生を、高校生の時は高校生を好きになるものだからおじさんは誰かおばさんと恋に落ちればいいじゃないか、』私は言い返します。『私が若い頃は男子校で戦時中でもあったから制服を着る身分の人とは話した事すらないんだ。その時の権利を今おこなっているとして見逃してはくれないか。そもそも彼女に女を売らせるのはいかがなものか』『他人の貞操にいろいろアドバイスする権利があると思っている老害ほど扱いにくいものはない。それに、男子校うんぬんだとかは聞きたくないね。大事なのは一つ、貴方が今は制服を着る身分の人とは恋愛する権利を失っているというただ一つの真実なのだ』『権利を失っている?馬鹿な事を言っちゃいけないよ。恋愛とは男と女の精神的な繋がりのうち、特殊なものを指す言葉だ。年齢がうんぬんだとかは関係ないと思うな』『もしそれが純なものであればね。でも貴方のは違うよ。なら質問するけれど、どうして貴方はあいつと金を払って恋愛しているの?どうして貴方はあいつと人目を避けてこっそりと会っていたの?そんな恋愛は恋愛でないと貴方が一番よく知っているはずだよ。恋愛とは性欲の詩的表現とはよく言ったものだ。中学生が中学生のことが好きならそれは恋愛だが中年が中学生を好きになるとそれはロリコンと言うのだ。この面白いまでのageism が世を支配している事を貴方は気づいているはずだよ。このロリコン野郎が』ここまで来て私は何も言えなくなりました。悔しいじゃないですか。彼はさらに『結局あなたには愛が欠けているのね。そのために人は生きているのに』私はもう我慢ならなくなりました。中学生でこれ程までに自分の身の尊さに気が付いているのです。まだ気がついていないのであれば『歳を取り、大人になった時にああすれば良かった、こうすれば良かったと後悔することになるのよ。その事は言ってあげないけどね』と優越感に浸れますが、彼は既に気が付いている。これは危険だ、と思いました。こいつは危険だ、と。私は有らん限りの力を振り絞って彼の首を握りました。まだ張っていない彼の喉仏が羨ましい。彼は必死に手足をバタバタとして抵抗して来ました。彼の細い手足が羨ましい。髪もサラサラと揺れていました。光を反射するその髪が羨ましい。何分経ったでしょうか。彼は動かなくなりました。それから彼のズボンとパンツを脱がせました。あまり大きくない『そこ』だけが純粋に可愛い、とそう思いました。」

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