58-3 生きていてよかったと泣いてくれる人(メティス視点)
「義父上、借り一つですよ?」
「お前に父親呼ばわりされるいわれはない」
ハイドレンジアの鑑定を終え、ライアンを連れて村の馬小屋へ向かって、そこで待つヴォルフに話しかけると直ぐにいつもの言葉が返ってきた。
最初の頃は嫌そうな顔ではね除けられていたけど、最近は息をするように普通に拒否されるようになった。あまりにも僕が言い過ぎて慣れたという感じだろうか。
というのも、王族の僕が歩み寄る発言をしているのに、ウィズの為に拒否している姿が面白くてわざと言っている節もあるんだけどね。
もし、他の貴族達が僕がこんな言葉を言おうものなら、喜んで媚びへつらうだろうに、ヴォルフもポジェライト家に属する兵士や使用人達はウィズを第一に大切にしているから、僕に対しての拒否反応が凄い。
けれど、使用人の方は最近は僕に対しての態度が軟化したように感じるね、ウィズへの想いが本気だと分かってくれたという事かな? ヴォルフは変わらないけど。
ポジェライト家は辺境伯という事もあり、貴族の中では異色の存在であり、敬遠される事もあるけれど、貴族であり、貴族らしくない所を僕は気に入っている。だからこそ、突いて遊んでしまう。
「何か報告があって来たんじゃないのか?」
ヴォルフに呼びかけられ、まあそうですねと頷く。
彼は公式の場でないと僕に敬意など微塵も見せない、父上が英雄達に与えた特権のせいだけど、それもそれで面白いからよしとしよう。
馬小屋にポジェライト家の面々が揃っているのは、この小さな村でこの場所が一番兵達が集めやすいからだろう。ポジェライト軍なら野営にも慣れているだろうし。
「その前にいくつか聞いておきたいのですが」
「本題から話せ」
「嫌ですね、そうやって本題からと急かしてすぐに会話を打ち切ろうとするのは貴方の悪い所ですよ、貴族なのですから話術も使いこなせるようにならなくちゃいけませんね」
ヴォルフの後ろで兵士達が何度もその通りだと頷いている。ヴォルフはどれだけ貴族の会話が下手なんだろうね。
「本題から話すとその先の会話が出来なくなる可能性があるので、先に別の話から聞いておきます」
「チッ、話せ」
王子相手に舌打ちするのは貴方位ですよ、今度ヴォルフの目の前でウィズに抱きついて仕返しに見せびらかせてみよう。
「オヴェン夫妻は捕縛の後、王都にて貴族裁判にかける予定ですが、刑の執行はひとまず保留にするよう言っておきます。貴方自身がと望むかと思うので」
「ウィズに危害を加えたからといって国の裁判にまで口を挟む程に浅慮ではない」
まだ何も知らないからそんな事が言えるんだ、後に目を血走らせて自分の手で葬ると言い出すに決まっている。
後に変わるであろう態度を想像して面白いとほくそ笑んでしまう自分は、中々に悪い性格をしていると自覚している。
「気が変わったら言ってください」
「借りを一つと言ったのはまさかそれではないだろうな?」
「いいえそれは本題の方です、聞きたい事はもう一つあるのでお待ちください」
また舌打ちをしたね、ウィズの父親だしそこに悪意はないから別に良いけど、ヴォルフといいウィズといい、貴族らしくなく感情を表に出しがちなのが貴族社会でやっていけるか心配な所だね。まあ、ウィズの場合は僕が隣でリードしてあげるからいいかな。
「この事件を知らせたというリュオという少年ですが、どこに?」
「さあな、取り調べを終えてからは自由にさせている、その辺にいると思うが」
「オヴェン家の使用人の一人で、この事件を知って貴方に告発したのだとか?」
「そのようだ、しかしオヴェン家の屋敷が燃えたせいでリュオの私物も全て燃えてしまい、今は一文無しになってしまったようだな」
「彼の家族は?」
「自分の事は言葉を濁して語ろうとしない」
「ふぅん……」
確かにこの事件はリュオが現れなかったら解明が遅れただろう。オヴェン家の魔道具の禁止売買、拉致監禁、不当な魔術付与などの罪が次々に暴かれた。特にポジェライト家からしたら、彼は救世主のようにも映るだろうけど。
精鋭部隊で探しても見つからなかったポジェライト家の嫡男が、こんな奇跡のような形で偶然見つかるものだろうか?
リュオが馬車に轢かれかけて、偶然助けてやってほしいと言った子どもがポジェライト家の嫡男であった。
僕は人より疑り深いからね、ウィズが素直な分僕が必要以上に気に掛けておくとしようか。
「ところで」
ヴォルフの方から話しかけて来たので、珍しいと思いながらも何か? と聞き返す。
「何故お前がここに居る、俺は魔塔から鑑定師を一人送れと命じた筈だが。まさか、ウィズに会う為にわざわざ自分の側近のグランデン公爵をこちらへ寄こした訳じゃないだろうな……」
「本題をお話しますねポジェライト卿」
その通りだけど、面倒な話にもなりそうだったから早々に切り上げる事にする。
それに、これ以上勿体ぶる必要もないだろうし。
「ライアン、お前からポジェライト卿に説明しろ」
「かしこまりましたメティス様」
大人しく僕の後ろに控えていたライアンがヴォルフの一歩前へ歩み寄る。
「その前に、念の為にヴォルフ様の魔力を確認させていただけますか?」
「……構わないが」
ヴォルフは訝しげにしつつ、ライアンの魔力鑑定を了承した。
ライアンはヴォルフの額に杖をあて、魔法を発動させ納得したように頷いた。
「もう結構です、ありがとうございました」
「何だと言うんだ」
「ああ、先に伝えておくけど、ウィズと保護された少年がいる宿の周辺には王国の兵士達がネズミ一匹入れないように警備しているから、ゆっくり、安心して、向かって大丈夫だからね」
「は……?」
僕の発言にヴォルフは益々分からないと言う顔をする。
「ライアン」
「はい、まずオヴェン家から押収された氷魔法が付与された魔道具ですが、その魔力の型を鑑定した結果、捕まっていた少年のものと一致しました。オヴェン家が少年に強制的に魔道具を作らせていたのは明らかです」
「そうか……保護をした後に聞いた話によると、六歳で親元を離されて二年間オヴェン家に捕まっていたんだったか、可哀想に」
「……」
「ヴォルフ様、その少年の両親は本当の親では無かったそうです、少年を拾って養子にしたようです」
「その話がどうしたと」
「この話におかしな点があるのはコチラも確認しているけど、君の好きな要点を先に教えてあげるよ」
目配せすると、ライアンは頷く。
「保護された少年の魔力鑑定を行った結果、魔力の型が限りなく一致する事が判明しました、これは家族兄弟間の身内でしか確認できず、他人が一致するのは一億分の一の確立ですので、血縁者である事は間違いないかと」
「だから、その話を何故俺に……」
ヴォルフの言葉が言いかけて止まった。段々と目が大きく見開かれて、動きが完全に停止した。
気がついたかな? この保護された少年が君の……。
「ヴォルフ様、あの少年は間違いなく、行方不明になっていた貴方の息子でしょう」
大気を揺るがす程の吹雪を巻きあげ、魔獣を召喚してヴォルフは宿の方角へ向かった。
「ヴォルフ様?!」
「お待ち下さいヴォルフ様!!」
ポジェライト兵達が、突然飛び出していったヴォルフに驚いて、何事ですかと後を追う。
「ゆっくりでいいって言ったのにね」
「この近い距離でわざわざ魔獣に乗っていくとは流石規格外といいましょうか……ですがよろしいのですか? メティス様はこの件に関しての矛盾点をお話したかったのでは?」
「まあ、事実を告げた時点でこうなるだろうと分かっていたしね、急ぎではないからまた今度でもいいだろう」
この事件には大きな矛盾点がある。
僕達が知るポジェライト家の嫡男失踪経路と、本人が語った今日までの道のり。
さあ、一体何人がこの矛盾に気づけているだろうか?
「さて、夜が明ける前にもう一人に会っておかないと」
「どちらへ? 私もご一緒します!」
「ライアン、君はここでお座りして待っていろ」
「はい!! 分かりました!!」
直ぐさまその場に正座して「待ちます!」と言い切るライアン。
扱いやすいんだけど、前のめりに懐いてくるの止めてくれないかな。
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