第31話 終演の夜
バニーの
「ミエル君、君の気持ちは解るが、だからと言ってヤツのことばかり見てたんじゃバレバレだ。とにかくいつも通りの平常心で頼むぜ」
「はい、わかりました」
ミエルは
「馬鹿ミエルったら、山鯨の方ばかり見過ぎだし。バレたらヤバいっしょ」
ビルの外で送られてくるデータをモニタリングしている晶子もまた気が気ではなかった。執拗に見られていることに山鯨氏が気付いてしまったならば計画は台無しになる。せっかくのチャンスが無駄になってしまうのだ。
「あたしだったらもっとうまく……あ――、ダメダメ、あたしがバニーなんて絶対あり得ないし」
映像を通してモニタリングすることしかできないことにイラ立ちながら、晶子は手にしたファブレットに周囲が気付かぬようにと歩道に背を向けてひたすら画面を見つめるのだった。
やがてショーが始まる。早速吊り下げられているのだろう、小さな画面の中ではミエル視点で映る客たちの姿が揺れていた。続いて聞こえてくるのがミエルの艶めかしい声、彼のチョーカーに仕込まれたカメラからの映像にあられもないその姿が映し出されることはなかったが、喘ぎ声とともに聞こえる乾いた鞭の響きと揺れる映像から晶子の脳裏にもなんとなくその様子が伝わってくるのだった。
「いつまでもやってればいいし、この変態女装M
声に出さずに心の中でそんな言葉を吐きながら、晶子は手にした画面を見つめ続けていた。
山鯨氏の勝負は一進一退、まさに獲っては取られの繰り返し、しかしここまで来るとまさに腕の見せ所、ディーラーは氏を適度に遊ばせながらも着々とチップを巻き上げていた。
山鯨氏の惜敗続きが五回に達したときだった、持ち場を離れた
「君、さっきから頓狂な声を上げているあの連中はいったい何だ?」
「はっ、あれは週末だけの余興のようなもので、緊縛ショーだそうです。もしお気に召さないようならばすぐにやめさせますが」
「いや、構わん、構わん。ちょうどこっちも場の流れを変えたいと考えていたところだ、よっしゃ、ちょいと見せてもらおうか」
そう言うと山鯨氏はディーラーの目の前にあいさつ代わりのチップを置いて席を立った。
テレビでもたびたびお目にかかる与党代議士、山鯨氏からはやはり独特のオーラが発せられているのだろう、彼がやって来るとステージを囲む観客たちが一斉に退く。するとそこはショーを間近で観ることができる特等席となった。
目の前ではバニーガールに扮したミエルが赤い荒縄で締め上げられていた。山鯨氏は眉ひとつ動かすことなくその様子を観察する。血管や神経を傷つけないように二重にした縄、フックや滑車を使って縛られる者に負担をかけずにダイナミックに体勢を変えていく様など、感心したように頷きながら周囲の客たちとともに
一方でミエルも
いつしか山鯨氏の顔から笑みが消えていた。やがてそれはイラ立ちへと変わる。ついに山鯨氏はステージへと歩み寄った。
「ぬるいな」
突然の言葉に
「ぬるいと言っておるのだ。ここは真剣勝負の場だ、貴様らはそれでいいのだろうが見る者が見ればそんな茶番は一発だ」
山鯨氏は
「責めるってのはな、こうやるんだ」
言うが早いか山鯨氏はミエルの太股に鞭の一発をお見舞いした。
「あうっ!」
ミエルの白い肌に赤い筋が浮かぶ。続いて二発、三発と山鯨氏の容赦ない責めがミエルを襲った。
「お客様、ご勘弁ください。それ以上は彼女に傷が残ってしまいます」
「ふん、半端なことをしやがって、それ、鳴け、もっと鳴かんか!」
山鯨氏は立て続けに鞭を振るう。それは露わになったミエルの股間へも執拗なまでに。
「あ、あう……あ、ああ、ゆ、許してください、あ……ああ」
拘束された
そしてその責め苦がようやっと止んだときだった、山鯨氏は付き人に向けて右手を差し出す。
「おい、俺の杖を寄こせ」
付き人はステージの袖から山鯨氏愛用の杖を手渡すと、彼はサディスティックな笑みとともにそれを振り上げた。今、ミエルの股間は
ミエルの顔から血の気が引いていく。誰か山鯨氏を止めてくれ、そんな悲痛な思いで
仕方ない、オレが割って入るしかないのか。
「先生、もう勘弁してやってください。この娘も私どもにとっては大事な商品のひとつなのです」
にこやかな笑みとともにステージに上がって来たのは
「今日はこれでもう上がってください。興ざめした先生とお客さまはこちらで対応しますので」
大門啓介と山鯨氏を護衛するように黒服の何人かがやって来る。それが終演を告げる合図となって観客たちもバラバラと散っていった。
「ミエル君、大丈夫か。すぐに助けることができなくてすまなかった」
「だ、大丈夫です」
しかしそう答えるミエルの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。その様子を見た
そう、今宵、
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