第3話 トントロの悩み


トントロは悲壮な声で語った。


「今まで素手だけで戦って来たんだ。みんなの為に、俺も武器を持とうと何度も試したんだ」


トントロの足元には砦に保管されていた剣や槍が転がっていた。


「トントロ…」


深刻な顔のトントロを見るのは初めてだった。

お調子者に見える彼にも悩みがあったのか。


「運ぼうと思えば持てはするんだ」


剣を手に取るトントロ。


「ただ戦おうと思うと何も持てないんだ」


足元に金属音が鳴った。


「武器どころか」



「ス、スプーンでさえも…」


「トントロ…」


色々な言葉が口を出かかっていたが、何も言えなかった。


努力してどうにかなる段階はすでに過ぎたのだろう。それに今日にも死ぬかもしれないのに時間が解決するとも思えない。


「あ、いやごめんごめん」


いつものトントロの顔に戻った。


「今まで幸運にも生き残って来たけど、さすがに今日で終わりかと思ったら、妙にしんみりしちゃってね」


笑い声には悲しさが残っていた。


「もう日がくれるから食堂に行ってるよ」


そう言うとトントロは走っていった。


ルークとエビスはどこにいるのだろうか。


きっと日が暮れる前には食堂に集まるだろう。


「私も食堂に戻ろう」


不意に夕日に照らされた石畳の上に人影が見えた。


「エビス…」


「おそらく今日が最後だ。悔いが残らないようにしたいな」


私とエビスは食堂に向けて歩きだした。


エビスは理系でしっかりとした知的な男性だ。

トントロの事は伏せ、職業によって出来ない事があるのかを聞いた。


石畳に足音を残しながらエビスは答える。


「当然ヒーラーの卵にもなってない君は回復呪文は使えないだろ」


「それはスクロールを読むというスキルが必要だからだ。」


「しかし武器ならスキルはいらない。」


「ヒーラーの武器どころかナイトの剣や斧だって、威力や速度が落ちる代わりに誰でも使う事が出来る」


彼の後ろを付いていく私の口からは不用意に疑問が飛び出していた。


「それならどうして、あ」


エビスはこちらを向かずに軽く右手を挙げた。


「トントロの事だろ?彼の悩みは前に聞いた」


「ゲームのシステム上問題が無いのであれば彼の心の問題なのかもな」


「君はどう思う?」


「わ、私は…」


そうこうすると食堂に着いた。


ルークも戻っており、トントロと二人でこちらを見ていた。

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