最後の国
wadrock
第1話 ゾンビが溢れる世界に
「バリケードが持たない!」
「後ろからも来ているぞ!」
「噛まれた!早く回復してくれ!」
前からもゾンビ!
後ろからもゾンビ!
ついでに地面からも!
たまに空からも!
私は怒号が響く狂乱の中にいた。
「ダメ!隣の部屋は全滅したみたい!」
急いでバリケードを補強し、仲間の回復に専念するが、とても手が足りない。
「もうすぐ夜明けだ!俺たちだけでも耐えるぞ!」
ここはラストキングダム。
数々の国がゾンビの襲来に倒れ、難民同士で山間に作った、私たちの最後の王国だ。
「朝日が見えた!やつらが帰っていく」
昨日までは国民もそれなりにいたが、今日の生き残りはたったの4名。
一番便りになるのがリーダーである、ナイトのルーク。
矢もなく全ての弓が折れて短剣だけで戦っていたのが、ハンターのエビス。
半分までゾンビ化しててギリギリまで耐えていたのが、モンクのトントロ。
そしてヒーラーに転職をする前に、教会が壊滅して何にもなれなかった私、ミファが残っていた。
隣の部屋には国王と主力が集まっていたが、朝になってみると見事に何も無くなっていた。
死体もゾンビと化して歩いて行ったのだろう。
トントロがいつもの台詞を言った。
「すまねえ。やっぱりゾンビ相手に素手だと殴る度に感染しちまう」
学習をしないモンクを見ながらエビスが皮肉を込める。
「今日は耐えたが明日はもうダメだろうな」
ルークは疲労で座り込んだまま聞いた。
「国王も死んだ。ここにいる必要も無くなったな。皆はどうする?」
「私はルークに着いていくよ」
ルークは私の幼馴染みだ。
行動力があり、思った事は何でも言う。いわゆる熱血型の人間だろう。
一方トントロは弱気な声で懇願した。
「俺は一人じゃ何も出来ない、お荷物だろうが連れて行ってくれ」
血にまみれたナイフを拭いながらエビスも答える。
「一人で気張っても仕方がない。最後まで俺も着いていくよ。どうせ俺たちが死んだら次のゲームが始まるんだろ?」
エビスが言っているのはこの世界の事だ。
ここはオーディンガーデンというオンラインゲームで、主神オーディンが神の箱庭でプレイヤーに様々な試練を与えるという世界だ。
このゲームの特徴として、人工知能が運営を行っており、イベントや世界観もプレイヤーに合わせて流動的に変化をするそうだ。
さらにプレイヤーの行動を学習する事で、そのプレイヤーがゲームにいなくても、まるで本人のようにアバターが振る舞う事も出来るらしい。
実際に自分がいない時にルークのパソコンで私のアバターを観察したが。
まるで録画した自分の行動を見ているようで気味の悪さを覚えたほどであった。
ルークは意を決して立ち上がった。
「みんな、少し歩くが山頂の方に移ろうと思う」
ルークの提案には特に異議は出なかった。
山頂の砦は一枚岩の岩盤に設置されていて、少なくとも地面からの襲撃は防げ、見張らしも良いため、防衛には向いているとの事であった。
山頂の砦に向かう道中で、トントロがため息をつきながら言った。
「しかし、今回のオーディンは容赦が無いね」
「みんなで半年を掛けて作った王国も、わずか10日で壊滅させられるなんて」
エビスが弓に出来そうな枝を物色しながら答える。
「いや、ゾンビの襲来は最初からあった」
「ただゾンビの行動パターンがこの10日で飛躍的に進化したな」
ルークも答える。
「剣で切ろうとしても近付かず、他の救援に行こうとすると襲ってきた」
「王が討たれたのも、こちらは陽動であちらには本隊が投入されたのだろう」
ルークは続ける。
「あれでゾンビと言えるのか。軍隊のような統制された動きに加え、まるで人のような動きだった」
延々続く山道の中、足元を見ながら私も言った。
「そうね。ゲームの雰囲気なんてまるで無視。早く終わらせたいとか、まるで何かに焦っているかのような…」
私は不意に呟いた。
「ねえルーク…」
ルークはこちらを向いた。
私は慌てて取り繕った。
「あ、いや、ルークは何か思い当たる事はあるかなー。なんて」
「うーん」
…
…
聞き方が良くなかったのか、ただルークを困らせただけであった。
それぞれが何か腑に落ちないという気持ちで歩き続けていると、ようやく道の先に砦を見ることが出来た。
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