はじめての

 店の名前はあれだったけど普通に美味しかった。でも店の名前を見なかったらもっと美味しかったと思う。

 今はすっかり暗くなった道を三人で歩いてる最中なんだけど、そういえばルーファと泊まったあの街の宿にはお風呂があったけど、今の宿にもちゃんとあるのかな。んー、なんかあるって言ってた気もするし言ってなかった気もする。まぁ、フィオに聞けばいいか。


「フィオ」

「?」

「あの宿ってお風呂あるの?」

「ある」

「よかった」


 野宿では軽い水浴びだけだったからほんとによかった。やっぱり暖かいお湯でさっぱりしたいよね。

 そんなことを考えていたら私は星空を見上げていた。何が起きたのかと視線を横にずらすと、ルーファに何故かお姫様抱っこをされていた。そしてさっきまで私が居たと思われる位置で転びそうになっている男の人も見つけることが出来た。


「え? あ、ルーファ?」

「おい! 何避けてんだよ!」


 ルーファが何か言うより先に男の人に何故かそう怒鳴られた。すぐにマップを確認すると、赤い点として表示されていたので、多分だけど当たり屋的なことをしようとしてたって事だよね。それをルーファに助けられた? と言うか避けたも何も私は避けてないよ。気づいたらルーファの腕の中だったんだよ。

 それでびびりの私がなんでこんなに落ち着いているのかと言うと、ルーファ達がいるっていうのもあるし、逃げようと思えばワープで逃げられるしね。ゴブリンの時は怖くて頭が回らなかったし、ルーファもワープのこと知らなかったし。あ、でもこの人の前でワープなんてして、話が拡がって偉い人に目をつけられたりしたらやだな。まぁ、大丈夫だよ。最悪私のとんでも魔法を使えばいい。炎じゃなくて水とかで押し出すイメージにすれば大丈夫......なはず。


「おい! 聞いて――」

「ルーファずるい」

「早い者勝ちですよ」

「むぅ」


 えっ、なんか私が色々考えてるうちに当然のようにフィオが男を気絶させてるんですけど。なんか......異世界に来て初めてのテンプレ展開すごい呆気ない。何事もなくてよかったけどね。


「ありがとねルーファ。次からは気をつけるから、下ろして欲しいんだけど」

「だめです」

「......夜だし人も少ないけど、居ないわけじゃないからさ、その、恥ずかしいから......下ろしてくれない?」


 私だって嫌な訳じゃないんだよ? でも単純に恥ずかしいじゃん。


「だれも気にしてませんから大丈夫です」

「いやいや、さっきすれ違った人とか結構見てたの知ってるからね?」

「私が下ろしても今度はフィオさんに捕まるだけですよ? 見てください。私がユアさんを下ろす隙を伺っています」

「そんなことない。平気。大丈夫」


 怪し! 露骨に怪しいじゃん。


「......宿の前では下ろしてよ」

「わかりまし――ユ、ユアさん!?」


 ルーファは全然恥ずかしがってる様子がないし不公平だと思うんだよ。だからルーファはにも恥ずかしがってもらうために、ルーファの胸あたりに顔を埋めて匂いを嗅いでみたんだけど......諸刃の剣ってやつだ。めっちゃ恥ずかしい。でも今更辞めるのもなんか負けた気分になるしそのまま続ける。


「ユ、ユアさん! は、恥ずかしいので......」

「ルーファ......いい匂い」

「――ッ」


 よ、よし。ルーファも恥ずかしがってるみたいだし成功だ。

 てかフィオにも見られてるんだよね。私は今何にも見えてない状態だからわかんないけど......よし、寝よ。ドキドキしすぎて眠れないから、寝たフリになるけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る