バレたくない


 盗賊や魔物に襲われるといったイベントは無く、何事もなくデネーデという街についた。

 まぁ、私のマップ能力があれば赤い点を避けて進めば良いだけなので、むしろそんなイベントに遭遇する方がおかしい。ただでさえルーファは感覚が鋭く、フィオは耳がいいのに。


「こんなこと言っちゃ悪いんだけどさ......普通だね」

「そう......ですね」

「ん」


 私はこの世界の街はあの名前も知らない街しか知らないんだけど......それにしても普通だと思う。人が賑わってるわけでも無く、かといって人が少なすぎる訳でもない。本当に普通だ。


「取り敢えず宿を取りに行きませんか? 満室になる可能性は少ないでしょうけど、先に取っておいて損は無いと思いますし」

「......そうだね」

「ユアと一緒がいい」

「私もユアさんと一緒がいいのでまた一人部屋ですね!」

「ま、待って。流石にシングルベッドに三人は厳しくない?」

「大丈夫ですよユアさんが嫌じゃなければですが」

「いや?」

「うっ、嫌じゃないです......」


 嫌じゃないも何もルーファとフィオがそう言うのなら私に選択肢なんて最初から無いんだよね......だってルーファとフィオはお金を持ってて私は持ってないんだから。別に嫌なわけじゃないからいいけど、仮に嫌だったとしても言えるわけがないよ。


「はぁ......」

「どうかしましたか?」

「なんでもないよ」

「?」


 ルーファには私がお金を持ってないとバレているが、フィオにはバレてない。ルーファだけなら「また借金が......」的なことが言えただろうけど、まだバレていないフィオがいるので私の妙なプライドが邪魔をして言えなかった。時間の問題かもしれないけど......バレるまでは......隠したい。どう考えても恥ずかしい事だし。


 まぁ、それまでにお金を稼げばいい話なんだけどね、それがさっきのくだらないプライドのせいで難しい。当初の、フィオと出会う前の私の予定としては、この街のギルドで討伐系以外の依頼でお金を稼ぐつもりだったんだよ。そしてフィオは私と一緒にいたがっている。当然私が依頼を受けるためにギルドへ行けばついてくると思う。そうなると......バレそう。お金ないのバレそう。それになんで? 討伐の依頼にしないのかって聞かれそうでもある。だってフィオは私のあの魔法を見たんだから。まさか最弱と名高いゴブリンが怖いなんて言えない。


 とゆう訳で、私は変なプライドのせいで詰みました。


「はぁ......」


 私はため息をつきながらフィオの耳をもふもふして気を紛らわせる。フィオは嬉しそうだし、私も自己嫌悪に陥らなくて済む。完璧! と思ったけど、ルーファが寂しそうだ。(私の主観)

 フィオの耳をもふもふするのは片手にしてもう片方の手でルーファと恋人繋ぎをした。うん。ルーファも嬉しそうだし、今度こそ完璧。私が少しづつダメ人間になっているのを除けば本当に完璧だ。


「そういえば何となくこっちに歩いてるけど、宿の場所とか分かるの?」

「知ってる」


 良かった。フィオが知ってたみたい。私が後ろからフィオの耳をもふもふして、隣にいるルーファと恋人繋ぎをしているので、必然的にフィオが先頭になるんだよね。ほんとに良かったよ。


「フィオはこの街に来たことあるの?」

「ん」


 コクリと頷くフィオ。


「そうなんだ」

「ん」


 ......え、会話終わったんだけど。


「あー、どんな宿に向かってるの?」

「普通」

「宿も普通なんだ」


 あれ? 会話ってどうやって広げるんだっけ。

 んー、でもよく考えたら無理に話す必要もないか。なんか無言でも気まずい雰囲気ではないし。

 てか今気づいたけど、エルフに獣人......で合ってるか分からないから狐耳の少女と人間の組み合わせが珍しいのか凄い目立ってる。ルーファがさっきから喋らないなーと思ってたけど、周りを警戒してたのか。確かにこれだけ目立ってたら変な考えを持った人も紛れてそうだしね。

 ルーファが警戒している様子を見て私も街中でも常にマップを開く意識をしようと思った。早速私はマップを開くと大体が青か白の点だった。残念なことに赤の点も混じってますよ。私は気が付かれないように赤の点がある方向を見てみると人当たりが良さそうな笑顔を浮かべた青年がそこにいた。マップを見てなかったら特に何も思わなかっただろうけど、マップを見た今なら怖すぎるよ! 赤なのにあんな人あたりの良さそうな笑顔をしてるなんてほんとに怖い。


「ユアさん?」

「ユア、大丈夫?」

「え? うん。大丈夫だよ。ありがとね」


 二人に声をかけられ気がついたが私は足が止まっていたみたいだ。


「ユアさん。ちゃんと気づいてますから大丈夫ですよ」

「私も。心配無用」

「......ありがと」

 

 私が怯えていることに気がついた二人は私を安心させるためにそう言ってくれた。さっきまでの怖さが嘘みたいに引いていくのが分かる。それが恥ずかしくてお礼が少し素っ気なくなってしまったが、二人に気にした様子は無いどころかルーファは私と手を繋いでいた手を離して、頭を撫でてくるし、フィオも耳をもふもふしていた手を両手で握ってくれている。色んな人に見られて恥ずかしいけど、二人の優しが心地よくて、何も言わずにされるがままにされていると、宿についた。

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