6-panties

第38話 土浦姉妹

 お姉ちゃん――土浦 椿は、太陽みたいな人だ。

 それは、ウチらがちっちゃいころからずっとそうだった。


 ウチはお姉ちゃんと比べられて大きくなった。

 優秀できれいなお姉ちゃんと、ポンコツで抜けてる妹。


 パパやママもウチを愛してくれたと思う。だけど参観日とか部活とか、行事がかぶったらお姉ちゃんの方に行ってた。


「ごめんね愛衣めいちゃん。お姉ちゃんは一生懸命やってるから」

「おまえはどうせ遊んでるだけだろう?」


 そんなこと言うんだよ。そりゃ、遊んでるのは本当だけど。

 でもウチだって参観日、見てほしかったな。


 お姉ちゃんはウチのことをいつも「かわいそう」と言う。

 ウチは全然ハッピーなのに、それですら心から気の毒って感じで見てくるからガチで困惑する。


 ウチは彼氏ができても1か月後には振られる。

 みんな決まって「好きな人ができた」って、気まずそうに言うんだよね。


 前日まで仲良かった初カレに突然振られて、わけもわからず部屋で泣いてたとき、お姉ちゃんは部屋に入ってきてウチを後ろから抱きしめて慰めてくれた。


「かわいそうな愛衣」って。


 そのときは、お姉ちゃんがいてくれて良かったって。胸を借りてわんわん泣いたんだ。

 お姉ちゃんはちゃんとウチの味方じゃんって。

 今までも、純粋にウチのことを心配してくれてただけなんだってホッとしたんだ。


 数日後、お姉ちゃんが元カレと家の前でキスしてるのを見るまでは。


 後から帰宅したウチに気づいて、元カレは気まずそうに走って行ったけど、お姉ちゃんは顔色ひとつ変えずに小さく首を傾げた。


「かわいそうな愛衣。あなたが誰かに愛されるはずないのに、期待しちゃうのね」


 パパもママも認めてるし、お姉ちゃんが正しいのかもしれない。

 それでも、あの日から心がお姉ちゃんの言葉を受け入れるのを拒否しはじめた。


「かわいそうな子」だなんて呪いコトバに心が痛むくらいなら、殴って体を痛めつけられる方がまだよかった。

 ウチがアッパー系じゃなかったら、病んでたかもしんない。



 君嶋に声かけたのも、お姉ちゃんに仕返ししたかったから。


 白銀くんを好きになって、恋に浮つく反面、困ってた。

 今度の恋は絶対に邪魔されたくないって。


 お姉ちゃんに告白しようとするヤツを捕まえて利用しちゃおっていうのは、ラブレターを見たときに思いついたこと。

 それが、「ウチがお姉ちゃんのこと好きな男子とベタベタ仲良くして、お姉ちゃんに奪ってもらう」作戦!

 ウチもその人もハッピーで、誰も困らないじゃん?


 で、あの日。捕まえたのがまさかの君嶋だった。

 君嶋のことはクラスメイトだから、存在は知ってた。

 けど、暗くていつもひとりでボソボソ喋ってるって印象で、絡んだことはなかった。

 実際に喋っても意味わかんなかった。

 目も合わせてくれないし、自分のことばっかで全然こっちに気を遣ってくれなくて。なにコイツってイライラした。

 そんなヤツがお姉ちゃんと結婚したいって言ってて、「無理でしょ!」って。無謀すぎて笑っちゃったもん。


 でも、もしお姉ちゃんがこんなヤツと付き合ったらめっちゃおもしろくない?

 初めてやり返せるかもって、わくわくした。

 そのためなら、ウチのパンツの1枚や2枚、恥ずかしいけど安いもんだって思ったんだよ。



 なのに今は、君嶋のこと取られたくない。

 お姉ちゃんみたいな人の心がない化け物に、ピュアな君嶋を近づけたくない。


 だからウチはお姉ちゃんに、白銀くんと付き合う・・・・・・・・・って伝えようと思う。 




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