第24話 癒しの子猫&子犬カフェ

 指令を始める前から、異様な心拍数の高さで公開処刑される僕。


 愛衣めいさんはというと、顔を背けて肩を震わせている。

 ……最悪だ。


「ほ、ほかも取材で回るから、このクラス企画はこの辺で」


 サッと席を立ち、僕は誰とも目を合わせず足早に教室を出た。


「待ってくれ! 最速でイッた男!」

「判断が早い!」

「せめて記念写真を撮らせてくれ、マッハマン!!」


 などと背中から不名誉な言いがかりが飛んでくる。

 やめろ! すれ違う人たちが顔を見てくるじゃないか!!


 歩いていると後ろから愛衣さんが追いつき、隣に並んだ。

 案の定、弱みを見つけたとばかりにニヤニヤしている。


「ねーねー君嶋、さっきどうしてあんなすぐに反応したの?」

「うるさい」

「わ、こわーい!」

「し、素人が扱う機械など、なんのエビデンスもないから信用に値しない! 次だ!」

「なんだかんだ言って、やる気満々じゃーん。フゥーッ!」


 別の記憶で上書きする以外、僕が助かる道はないという判断だよ!


 彼女に任せて、また変なことをさせられてはたまらない。

 文化祭のフライヤーに目を走らせ(0.2秒)、比較的まともそうな模擬店を探す。


「ここはどうかな?」

「へー、『癒しの子猫&子犬カフェ』……1年の教室だね?」

「どうせ店員が子猫に模しているようなカフェだろ。僕らがなにもしないでいいなら、もはやどこでもいい」


 僕の頭脳で見定めたのは、1年の出し物だ。

 初の文化祭で、勝手がわかっていないヤツらだ。2、3年のように攻めたことはしないだろう。

 口元に笑みをたずさえ、僕らは目当ての教室へと勇み行く。


「いらっしゃいませ、ご主人様ワン!」

「はっはっは!! 見ろ、思った通りコスプレをしているだけだ! クク、さすが学年1位の頭脳を持つ僕! どうだ愛衣さん、僕がいて助かったな!?」

「カップル1組ご案内ワン! さあさあ、入店前にくじ引くワン☆ 赤が出た方が、子犬か子猫役になるワン☆」

「ぐはああああ! めちゃくちゃキツいヤツだったぁあああ!!」

「うはは、君嶋はもう少し人を疑った方がいいと思うー」


 ひざをつく僕を横目に、愛衣さんは苦笑いしながら、さくっとくじを引いた。


「あ、ウチ赤引いた」

「じゃあ、お姉さんが赤ちゃん役だワン☆ 衣装はこちらワン!」

「おっけー! じゃあ君嶋待っててぇ、着替えて来る〜」

「待て、ここは一旦やめ……」


 止めようとするが遅く、コスプレっ子と愛衣さんは隣の部屋へと入っていってしまった。




 ◆




 教室の中は、クッション性のあるポリエチレンのマットが敷かれ、客はみなフロアのどこに座ってもいいようにできていた。


「ママァー」

「はぁい、ダイちゃんいい子ね。ミルク飲むぅ?」


 えぐい声が聞こえてきて、そっと目を向ける。


 うわああ、この前、屋上で因縁つけてきたカップルっ!?

 猫の全身タイツを着た小デブと、化粧が濃いキツネ目女が赤ちゃんプレイをしていた。いろいろとアウトだろ、これ!?


 見回せば、バブバブやってるカップルがほかに4組。誰もが自分たちの世界に入り込んでいる。


 怖っ。なんだこの空間。

 うちの学校は、特殊性癖者を生み出したいのか?


「お待たせぇ」

「まずいぞ愛衣さん。って、ぐはあ!?」


 しっかり耳のカチューシャをつけた愛衣さんが、マットの上をつま先で歩いてきた。


「よかったねー、君嶋っち。ウチが赤引いたおかげで恥ずかしい思いをしなくて済んで」

「おまえはそれでいいのかよ。というか、その衣装って……」

「ウチは楽しければオッケーだよ! 衣装もね、レオタードもあったんだけど、こっちにした〜」


 目の前でくるりと、長いエプロンとロングのワンピースをひるがえして見せる。

 この衣装って、いわゆる……。


「う、クラシックメイド服……」

「ど?」

「ど? て言われても……」

「だって、君嶋がこういうの好きって言ったんじゃんっ」

「え、…………ええ?」


 確かに今朝、アメリカンなコスチュームを見せられたときにそう答えたけど!


「べ、別に僕に寄せなくてもいいよ」

「せっかくだし、好みなの着たっていいじゃん?」


 首を傾げて見せる猫メイドに、僕は言葉に詰まってしまった。


 好きだからこそ反応に困るんだよ……。



 

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