第19話 ランチ会
「ふんふんふーん♪」
君嶋の家から帰宅したウチは、真っ先に冷蔵庫へと走った。
冷蔵庫から自分の晩ごはんを取り出して、レンジに入れる。空いたスペースには明日のお弁当を詰め込んだ。
「うふーっ」
えへへ、うれしい。ぽろぽろ笑みがこぼれちゃう。
「おかえり。今日も遅かったわね」
「うわっ! ただいまお姉ちゃん」
振り返れば、お姉ちゃんがリビングの入り口に立っていた。腕を組んで、きゅっと眉を寄せている。
これは怖いやつだ……。ウチの勘がそう叫んでいる。
「今日は違うよ、クラスの人と遊んでたの。ほら君嶋って、話したでしょ?」
「この前、デートしてた人?」
「あー、デートってわけじゃあ……」
はあ。と、お姉ちゃんは大きなため息をつく。
「ねえ
「うん、ごめんなさい。気をつける」
冷蔵庫のドアを背にして、ウチは下を向く。
早くこのお小言から抜け出したかった。
ピーピーと、レンジの音がシリアスな空気を破った。
「お母さんが帰る前にご飯食べて、お風呂も入っちゃってね」
「ん、そうするね!」
声色を緩めるお姉ちゃんにウチはニコッと返して、そそくさと晩ごはんをテーブルに運ぶ。
「いただきます」
ごはんを食べるときにはもう、リビングは一人きりだった。
◆
次の日。
決戦のお昼がやって来た。
君嶋とうなずき合って、教室を出る。
もちろん紙袋をしっかりと抱えて。
「そういえば君嶋、
「ああそうか、説明していなかったな」
廊下を歩きながら、君嶋は続ける。
「一昨日、僕たちは新聞部に入部した」
「あーそうなんだ。……ん? たち?」
「もちろん
「ちょっと!? どうしてそういう勝手なことすんの!?」
さも当然のように言うからつい流すところだった!
ウチ、部活入るとか全然聞いてないんだけど!? しかも文化部!? ガチで!?
「大丈夫だ。調べたけれど、ほぼ活動のない名ばかりの部らしい。それで、もうすぐ文化祭があるだろう?」
「ええええ!? なんでウチが新聞部にぃ!?」
「白銀くんはサッカー部の主将だろう。文化祭でなにをやるか悩んでいたからな。取材がてら話を聞くと、昼休みに屋上に来るようアポを取った」
「なにそれ、天才じゃん!?」
「だからそうだと言っているだろう?」
なぜか自信満々のドヤ顔を見せられた。
そういうとこがウザいんだけどね!
でもそっか、白銀くんと堂々と話せるのはうれしい。
「あれ、君嶋? なにしてんの?」
階段の前で足を止める君嶋に、ウチは首を傾げて呼びかけた。
君嶋は静かに首を振る。
「僕は行かない」
「えっ、どうして?」
見ればヤツは手ぶらだ。ウチはちょっと焦った。
「二人きりのほうがいいだろう」
「えっでも。そしたら君嶋がお昼、ひとりになっちゃうじゃん」
「僕は大丈夫だ。必ずうまくいくよ」
そう言って、君嶋は親指を立てて見せる。
ちょっとダサいけど、なんか君嶋っぽくて良かった。
「――わかった。ありがと、行ってくるね!」
ウチも親指を立てると、君嶋に背中を向けて階段を上がった。
よし。ウチのためにせっかく君嶋がセッティングしてくれたんだ。絶対にいい時間にするぞー!
「あっ! 見つけた、
屋上に上がる階段の手前で、ウチを呼ぶ声に足が止まった。
もちろんそれは、白銀くんじゃない。
ウチと同じ甘いシャンプーの匂いに、弾けるように振り返る。
「お姉ちゃん!?」
「よかった! これから愛衣のところに行こうと思ってたの。一緒にお昼食べない?」
ニコニコと微笑みを浮かべるかわいいお姉ちゃん。
その腕に抱えているものに、どうしても気づいてしまう。
「どうしたのお姉ちゃん? お弁当って珍しいね?」
「昨日、愛衣に言いすぎちゃったなって思って、お弁当を作ってみたの。多めに作ったから一緒に食べよ?」
「そうだったんだ、全然いいのに」
「あ。でもそれもしかして、愛衣のお弁当?」
持っていた紙袋をとっさに後ろへと隠す。
うわ、どうしよう、困ったなぁ〜。
「ごめんね、ウチ今日は友だちと食べる約束してて」
「あら、そうだったの? うーん、もし友だちさえよければ一緒にどうかな? ね、聞いてみてくれない? お弁当、私ひとりじゃ食べきれないし」
かわいくおねだりするお姉ちゃん。
そんなのみんな、絶対いいって言うに決まってる。
だって生徒も先生も、みんなお姉ちゃんのこと大好きで憧れてるんだから。
でも今日は、
どうしても今は、二人だけで過ごしたい。
(そうだ!)
ウチの頭に、さっき別れたばかりの君嶋が浮かぶ。あいつならヒマなはず。
「よっ、つっちー! 今日はよろしくなー……って、あれ、土浦先輩?」
君嶋にラインを送ろうと思いついたときにはもう遅かった。
階段を上がって来た白銀くんが、ウチとお姉ちゃんをニッコニコで見比べている。
「あら。お友だちって彼?」
お姉ちゃんがウチだけに届く声量で、いたずらっぽく聞いてきた。
もう、逃げらんないなこれ。終わったぁ……。
否定しないウチを差し置いて、お姉ちゃんはうれしそうに白銀くんに体を向ける。
「愛衣がお世話になってます、姉の椿です。初めましてですね?」
「どうも、俺は白銀ミナトっす。初めまして。でも、椿先輩のことはもちろん知ってますよ、有名人じゃないっすか!」
「えっ、うれしいな。ミナトくんは愛衣とどういう関係なの?」
「今日はつっちーと文化祭の相談で、飯食うって話になっていて」
「なー!」と無邪気に言われて、ウチは頷くしかない。
お姉ちゃんは目を輝かせて、ぱちんと手を合わせた。
「あら! じゃあ私も一緒にいいかな? 生徒会に所属してるし、文化祭は3度目だから、いろいろ助言できると思うわ。もし、お邪魔じゃなければだけど」
思った通り、白銀くんの顔はパッと明るくなる。
「いえいえいえ! 全然邪魔じゃないっす! それに、すげえ助かりますよ!! いいよな、つっちー!」
あーあ。お姉ちゃんが絡むと絶対こうなると思ってた。
ウチはもう一度頷いて、スマホをポケットにしまった。
ちゃんと笑えていたかは自信ない。
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