その後
私たちは、高校生になった。
高校では退屈な日々を送っている。
私には、あなたと一緒に過ごした日々を新鮮に覚えている。
卒業式の日、家に着いた私は、制服を脱いだ。
ポケットに手をいれた瞬間に、
気づいてしまった。
あなたの電話番号が書かれた紙切れが入っていたことを。
けれども、一度もかけたことはない…。
何度も電話をしようと、番号までは入力した。
けれども、押せなかった。
声を聴きたい気持ちであったけど。
今はやめておこう…。
そう思って、携帯を閉まった。
いつか、また、出会ったときに…。
たくさん、話をしようと思ったから…。
しばらく経った8月のある日
中学のクラス会があり
近くの喫茶店で集まることになった。
ほとんどの人が集まった。
あなたは、けっこう先に来ていたようでしたね。
久しぶりに見るあなたは、
少しメイクをして、一段と大人っぽくなっていて
けれども、あの時と変わらない笑顔を見て
私は、嬉しくなりました。
クラス会の途中で
私たちふたりは抜け出し
コンビニで買った花火をしましたね。
そして、久しぶりに会った
ふたりは、その会えない時間の穴を埋めるように
深く愛しあった…。
そんな、日々が過ぎ
2月を迎えました。
2月14日にわたしの家に訪れたあなたは、あの時に貰った
あのふわふわとしたチーズケーキを作ってくれましたね。
そして、3月14日には、
私は、あの時にあなたにあげたのと同じチョコレートを作って、
あなたの家に行って、渡したのを覚えていますか?
そんなやり取りが高校を卒業するまで続いた。
そして、私は、あなたに手紙を書くことにした。
早瀬みずきちゃんへ
お元気ですか?
私は、この春、大学生になります。
そして、地元を離れようと思っています。
絵の勉強がしたくて、
春から東京の美術の専門学校に行くことになりました。
しばらく、会えなくなってしまうけれど、
私は、あなたに出会ったことを
一緒に過ごした日々を今でも思い出として、心に残っています。
そして、私は携帯を持ちました。
電話番号を教えておきます。
何もなくても、連絡ください。
そして、手作りではないのですが、ホワイトデーとして、チョコレートを贈ります。
お体に気をつけて
元気でいてください。
また、会いに行きます。
松川梨夏
しばらくして、手紙と贈り物が届いた。
手紙を広げる。
宛名はりかからだった。
そして、チョコレートが添えられていた。
『ありがとう。』
そう、手紙を胸に当てた。
りかが東京に行く日に、会いに行きたかったのだけれど、
結局会えずにいた。
東京に来てから、寂しい日々が過ぎていった。
そんなある日に、携帯に着信があった。
画面を見ると、その番号は
あなたからだった。
けれども、留守電に残っていたあなたの声は
無言だった。
私も折り返し電話をした。
けれども、あなたは出なかった…。
大学生になって、2月を迎えようとしているある日
手紙と贈り物が届いた。
宛名はあなたからだった。
私は、嬉しくなって素早く手紙を広げる。
変わらないあなたの文字だった。
松川梨夏ちゃんへ
お元気ですか?
わたしは、相変わらずです。
それと、手紙とチョコレートをありがとう。
すごく嬉しかった。
あのとき、りかが、東京に向かう日
実は、わたしも、りかを見送ろうと思っていたのです。
ですが、親とこれからのことで揉めてしまい行けなくなってしまったのです。
ごめんなさい。
私は、今、東京の会社に就職して、OLとして頑張っています。
わたしも、りかと出会った日々を忘れたことは一度もありません。
いつか、また会えた日には
会えなかった時間を埋めるようなことをしましょうね。
いつまでも、あいしてる。
早瀬みずき
『ありがとう。みずき』
嬉しくなって手紙をもう一度読んだ。
贈り物は、あなたの手作りではないチーズケーキだった。
肝心な住所が書かれていなかったため、手紙を送ることができなかった。
そして、しばらくして
私は、個展を開いた。
来客は、まあまあ。
でも、私がやりたいことをやれていることは、一番幸せなことなのかもしれない。
そして、バレンタインデーには必ずあなたから、手紙と贈り物が届くようになった。
手紙には、私の個展に行ったことが書かれていた。
『うそ…。
個展、見に来てくれてたんだ。』
すごく、嬉しかった。
それからしばらく経った冬。
私たちは、東京で
偶然再会した。
私が、画材を片手に、
交差点で信号を待っている時だった。
偶然隣に止まった人が、
見覚えのある顔をしていた。
向こうも気づく。
私は、目を見開いた。
「あっ……。」
「みずき…?」
あなたは、笑顔で
「りか…?」
「わぁ!
会いたかったッ。」
人目も憚らず、ふたりは抱きしめあった。
私たちは、喫茶店に行くことにした。
あなたとは、高校を卒業してから、手紙に住所を書かなかったこととか、今の事を話した。
まるで、時間を取り戻すかのように。
そして、コーヒーを一口飲んで、
あなたが口を開いた。
「あのね、わたし、音楽の仕事がしたかったの…。」
「うん。」
話しているあなたを見た。
「その事で、親と揉めちゃってね…。」
「わたしは、音楽の仕事がしたいのに、親は、全うな仕事をしなさいって言い出して…。」
「それで、わたしは、嫌々就職して…。」
「それと、住所を書かずに手紙を贈ったのはね…。」
「まだ、りかに会えるほどの自分ではなかったからなの…。」
「りかは、自分のやりたいことをやってるでしょ?」
「うん…。」
コーヒーカップを見つめながらうなずいた。
「本当にやりたいことをやれてない自分にムカついて、自暴自棄になった…。」
「うん…。」
「でも…。」
「嬉しかった…。」
「りかからの手紙を。」
そっと微笑んだ。
「一回、電話をかけたんだ…。」
「りかに…。」
「うん。」
「私も、みずきに電話したんだけど、出なかった…。」
「ごめんね…。」
「もし、あのとき、りかの声を聞いてしまったら、泣いてしまうと思ったから。」
「そうだったんだ…。」
「うん…。」
暫くの沈黙のあと、あなたは
「もし…よかったらなんだけど……。」
「わたしの家に来ない?」
私は、笑顔になり
「もちろん!」
そう言った。
あなたも、笑顔になり
私たちは、何年かぶりに手に触れあった。
あなたの家の玄関に入ると同時に、お互いの唇に貪りついた。
お互いの洋服に手を入れる。
そして、スカート、ズボン、ブラウス、ブラジャーまでもが、廊下のあちらこちらに落ちている。
そして、すぐにベッドになだれこんだ。
高校の時以降だった…。
あなたとこうなるのは…。
ベッドで乱れ狂う私たち…。
「ん…。」
「りか…。なんか前より上手くなってる…。気がする…。」
吐息混じりであなたが呟く。
私は、目を見開いた…。
「まぁ…。」
「いいよ……。」
「だって、会えない時間があったんだもの……。」
「ん……。」
あなたが吐息混じりで呟いて、私が、何も言えないように、唇をあて口の中の舌を絡めて、口を塞いだ。
何年かぶりに、体を重ねて、燃え上がった私たちは、明け方になるまで、乱れ狂った。
ベッドに横になりながら
ふたりして、笑いあった。
「はぁ…。よかったな。今日の…。」
あなたが頬笑む。
「私ね…。」
「実は、大学に入学して、暫くしてから、告白されたの…。」
「女の人に…。」
「小学生の頃の同級生だった。」
「3年生の頃に同じクラスになってから、ずっと好きだったって言われた。」
「それから…。」
「キスして…。」
「その後の事も…。」
「私は、言ったのよ。」
「私には、愛している人がいるって。」
「でも、それでもいいって。」
「それから……」
「何度かしたの…。」
「ごめんなさい…。」
私は、あなたを見る。
「せっかく、いい気分なのに
そんなこと、言う~?」
あなたは、笑いながら話した。
「いいよ。」
「でも、しょうがないよ。」
「わたしたち、暫く会えてなかったんだもの。」
あなたが言った。
「でも、わたしは、誰にも、
りかのからだに触れてほしくないだけ。」
手を繋ぐ。
「うん。」
私は、うなずいた。
「これからは、約束して。」
あなたが、私を見る。
「絶対に、他の人としないって。」
「私にとって、りかは、初めての人で、これからもずっと、りかだけ。」
「大切な人だから…。」
そう微笑みながら私を見た。
「うん。」
「約束する。」
指切りの変わりに、あなたの唇に契りのキスをした。
『私も、あなたと同じだよ。』
『これからもずっと、あなたと一緒に過ごしていきたい。』
『私も、この先、あなただけ。』
『きっと、何年も、何十年も、そして、死ぬまで。』
『ずっと、あなたと一緒に生きていきたい。』
そう、心の中で呟いた。
安心して、横で寝ているあなたの髪を撫でて、キスをした。
そして、しばらくして、
私たちは同じ部屋に住むことにした。
私は、画家として活躍している。
あなたは、OLとして働きながら、自分のやりたかったこと、音楽の仕事をすこしずつだけどやり始めている。
「今回の絵のテーマは?」
「愛する人」
「簡単だよ。」
「みずきを書けばいいんだから。」
ふたり顔を合わせて、笑顔になった。
そして、何年か経った。
私たちは、今、持ち家に住んでいる。
家の隣には、アトリエがある。
私が、画家の構想中で、よく借りていたアトリエに泊まってしまうことが多いからって、
みずきが家の隣にアトリエを建てた。
そして、あなたは、
OLを辞め、本格的に音楽の仕事をしている。
家の壁に、あの時のキャンバスが飾られている。
お揃いのマグカップにコーヒーを入れる。
そして、お皿には、あなたが、作ってくれたふわふわとしたチーズケーキ、私が作ったトリュフが乗っている。
「やっぱり、この味。」
あなたが言う。
「思い出すね。初めて食べたときの事を。」
「うん。」
微笑んで、私は、コーヒーを啜った。
『今年の春、
私たちは、結婚する。』
お互いの薬指に、お揃いの指輪をしている。
事実婚というものだけれど、
今の日本では、結婚が認められていないから
『いつか、結婚が認められる日に
私たちは、正式に結婚する。』
その時が来るのを
心待ちにしている。
『永遠に、一緒に愛する人と
生きていきたいから。』
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