あなたの声が聞きたい

3月に入った。

私たちは受験生。

追い込みの期間だ。


私は、推薦で高校を受けた。

結果は合格。

卒業まで、ゆっくり過ごせる。


あなたも、推薦で合格したらしい。


中学を卒業したら、別々の高校に行って、バラバラになってしまう。



住んでいる地域は一緒だけど、

きっともう、こうやって、

顔を見たり、会ったりすることもなくなってしまうんだろうな…って思うと寂しいような気持ちでいっぱいだった。




このままの時間がずっと続けばいいのに…って。



そして、3月14日『ホワイトデー』



私は、貰ったお返しも込めて、

トリュフを作った。



ピンク色をした、小さな箱に

トリュフを詰めていく。



可愛くリボンも付けた。



喜んでくれるといいなぁ。



鞄にそっと入れた。



明日、渡そうっと。



『受け取って貰えるかなぁ。』


お昼休みに渡すことにした。



窓際のカーテンの近く



「みずきちゃん!」

「はいっ。」

ピンクの箱を差し出す。


「えっ!」

驚いた顔をしている。



「バレンタインのお返し。」

ピンクの箱を渡す。



「いいの?」



「うん。」



「ありがとう。」

はにかんだ笑顔




「うんん」

首を振った。


『あの事を聞かなくちゃ…。』



「あの!」

「みずきちゃん…

どうして、この間のバレンタインデーのとき

私にくれたの?」

聞いてしまった…。



「だって…

あまり話したことがなかったし、席が近いとはいえ…」

思った事を口走ってしまった。



みずきちゃんは、ピンクの箱をもじもじ触りながら口を開いた。


「バレンタインだから…。」


「えっ?」

顔を見ようとしたら、みずきちゃんは私の方をずっと見ていた。



「バレンタインは、好きな人に告白できる日でしょ?」



「はっ…。」

私は、目を見開いた。



「ずっと、好きだったの。」

「りかちゃんの事…。」


私の手を握った。



「でも…りかちゃんには付き合ってる人がいることを知って、すごくショックを受けた。」

少し涙目になっている。


「それで、しばらくしたら別れたって噂で聞いて…。」

「だから、あの時、聞いたの…。」



「りかちゃんに、別れたのって。」

「そしたら、別れたって答えてくれた。」


「わたし、嬉しくなって、すぐに帰っちゃったんだ。」

「もし、わたしが、りかちゃんを好きなことが知られちゃったら、嫌われちゃう…。」

「キモイって思われちゃうって…。」


「だから、ずっと、隠してた…。」


「それに、中1の頃、あまり話せてなかったし、いきなりバレンタインで渡すのも、びっくりさせちゃうかなって思ったんだけど。」



「でも…この気持ち

ずっとこのままでいいの?って思ったら。」

「やっぱり、違う!」

「この気持ち…伝えたいって思った…。」



「だから…渡したの…。」




暫く長い沈黙。




「そうだったんだ…。」



ふーっと息を吐き出して




「私、実は、実はね…。」

「みずきちゃんのこと、中1の頃からずっと好きだったの…。」



私は、みずきちゃんの顔を見た。



みずきちゃんの手が、私の頬を伝う。



顔が近付く。

私は、まぶたを閉じた。



唇と唇が重なりあった…。



カーテンが揺らめく向こうに

二人の影があった。



唇が離れようとするとき、二人の頬はピンク色に染まっていた。



私たちは、ほんの数分の前の

挨拶をする仲ではなくなっていた。



手を繋いで、肩に頭を寄せ付けた。


「わたし、てっきり、松川さんに嫌われてると思ってた…。」


「えっ…?」

私は頭を肩から離した。



「中1の頃、友達と一緒に松川さんに話しかけた事があったでしょ?」


「うん…。」


「そのとき、松川さん、あまり反応してくれなかったから…。

私のこと嫌いなのかなって思ってた…。」




「そんなことないよ!」

「私ね、あの時、話しかけてくれて、本当はすごく嬉しかったんだ。」

「こんな、私に、話しかけてくれるの?って。」


『ハハッ。』

みずきちゃんが笑った。


「その時には、もう…気になってたんだと思うの。」

「だから、上手く話せなかった。」

「私、

人見知りなのよ…。」


「それに、私となんか話しても釣り合わないよ…って勝手に思っちゃって。」

「だから、素っ気ない反応してしまったの…。」

「でも、あの時、

りかちゃんって呼んでくれて嬉しかったのを今でも覚えてる。」




「それで、中2の頃はクラスが、違くなって。」



「うん。」

私がうなずく。



「棟も違くなったじゃない?」



「うん。」



「だから、松川さんに会える日がほとんどなくなっちゃって。」

「その時にね、もう松川さんは、わたしのことなんて覚えてないんだろうな…なんて思いながら、

いつも、部活で美術室から見える

窓際に座って、キャンバスに向かってる松川さんをいつも見ていたんだ。」




『えっ…。』

『みずきちゃんも、見てたの?』


私の心臓がドキドキしてるのがわかった。



「私も……。」


みずきちゃんが私を見る。



「私も、いつも見てた。」

「みずきちゃんの事…。」

「窓際の席でフルートを吹いている姿を、私は、ずっと見てた。」

「その様子を見るのが私にとって、ずっと、みずきちゃんを見ていられる瞬間だったから。」



「キャンバスに描いてたんだ。」

「みずきちゃんの事を描いてた。」



「本当?」

笑顔で見つめてきた。



「うん…。」

私は、照れながら返事をした。




「へぇ~嬉しい!」



二人は顔を見つめ合って笑顔になった。



それからというもの、私たちは、挨拶以上の仲になった。



学校では、常に行動するようになった。



きっと、周りはびっくりしたに違いない。



今まで、ほとんど一緒にいるところを見たことがないと思うから。


一緒の椅子に座って、他愛のない話をしたり…



ただ、分かることは、

『私は、あなたといると、心がすごく幸せなんだ。』 ってことを。


ホワイトデーのあの日の出来事から、そんなに日が経ってないある日のお昼休み。



私たちは、カーテンに隠れながら、またキスをした。

いつもより、深く…

あなたのものが私の舌を絡めていく。



「あぁ~。」

「もっと早くこうしておけば良かったなぁ。」

「そしたら、もっと素敵な思い出作れたのにね。」

みずきちゃんが話す。




唇に指を触れながら

私は微笑んだ。


「そうだね。」

「私も、もっと話しかければ良かった。」

「自分で自分を押し付けてた。」

「誰も傷付かない方法で、学校生活過ごそうって思い込んでた。」



ハハハッ。

「だって、松川さん、中3の時

の、新学期の頃覚えてる?」



「えっ…。」

「新学期のこと?」




「うん。」

「わたしね、松川さんと、また同じクラスになれて、すごく嬉しかったんだ‼」

「でね、今度こそは、話しかけようって思ってたんだ。」

「中1の頃に同じクラスだったの、松川さんだけなんだもん。」

「だからね、話そうと思って教室入ったら

もう、松川さん、友達と話してるんだもん。」



フフフ。

「そうだね。」

「でもね、私も思ってたよ。」

「あっ!みずきちゃん、同じクラスなんだ!」

「話しかけてもいいのかなぁ…って、ちょっと迷いが出ちゃって、話しかけられなかったんだ。」

「でも、みずきちゃんから話しかけてくれて、私ね、すごく嬉しかったんだ。」




「だったら、話しかけてくれても良かったのに~。」

「わたし、また、松川さんに素っ気ない反応されちゃったって思ったよ。」




「ごめん~。」

「ダメ。」

「ごめん~。」

「ダメ~。」



私は、とっさに、あなたの唇に私の唇を重ねた。




あなたは、照れくさそうにして、でも少し嬉しそうな顔をして

「も~」って、私を叩きながら、

私をぎゅーっと抱きしめた。



あなたが私を後ろから抱き締めながら、

私はあなたの手を触りながら、


「ねぇ。」

「松川さんっていうのやめない?」

「前みたいに、りかちゃんって呼んで欲しいな。」



「ダメ~。」




「えっ…。」

驚いて私はあなたの顔を見上げた。



フフって笑って

「りかって呼びたい。」

っと言った。



私は笑顔になりながら

「いいよ。」

「じゃあ、私はみずきちゃんって呼ぶ。」


みずきちゃんの顔を見つめる。



「ダメ~。」

「みずきって呼んで。」



「まだ、恥ずかしいよ…。」



「ダメ~。」

「はいっ呼んで!」




恥ずかしがりながら

「み、みずき。」

って呼んでみた。


「うん。」

「いいね~。」

満足そうに微笑んだ。




「だめだ…。」

「やっぱり…まだ、慣れてないっていうか恥ずかしいよ。」




「ん~」

「じゃあ、しばらくは、

ちゃん付けでいいよ。」

「でも、いつかは呼んでね。」

「みずきって。」

頬にキスをした。




「うん。」

照れながら返事をした。


部活が終わった、放課後の教室



私たちは、椅子に座りながら

手を繋いだ。


放課後なら、誰にも気付かれない。

私たちがそういう関係なのだってことを。



「ねぇ。」

「ん?」

「いつから、りかはわたしのことを好きになってくれてたの?」



「ん~

入学式が終わって、教室に集まった時から目が離せなかった。」


「うん。」

あなたがうなずく。



「それで、名前を知って、

席が一番前で、

私は一番後ろの席で…。」

「でも…話しかけられなかった…。」



「うん。」



「ただ、見てるたけでよかったの…。」

「みずきちゃんが、友達と話しているのを見ているだけで…。」



「いつも思ってた…。」

「今日もきれいだなぁって…。」



フフッ。

あなたが笑う。



「だから、授業中のほとんどは、みずきちゃんの事を見てた。」

「黒板を見るフリしていれば、ごまかせられるって。」



フフッ。

あなたが笑う。



「ストーカーみたいでしょ?」



「ううん。」

笑いながら、首を横に振った。



「ただ、憧れているからなのかもって、思ったりもしたの。」



「うん。」

真剣に話を聞いている。




「でも、いろんな人を見たけど、やっぱり、目はあなたを追ってた。」



「それで、気づいたの。」

「私は、みずきちゃんが好きなんだなって。」



「うん。」




「『この気持ち変えられない』って思ったの。」



「うん。」



「それで、クラスが別々になって、部活の時しか、眺められなくて。」

「でも、見つけると嬉しい気持ちになって。」



「うん。」



「それでね、中3になって、また、みずきちゃんと同じクラスになれたのを知って、びっくりするぐらい嬉しかったの。」



「うん。」

あなたが微笑む。




「そんなに話せないけど、私は、やっぱり、目で追ってしまう自分がいて…。」



「うん。」



「楽しそうに他のグループと居るのをみて、こっちまで嬉しい気持ちになって。」

「でも、どこか、私も一緒に居たいって思ってしまったり。」



「うん。」




「けれども、自分とみずきちゃんとは釣り合わないって、

勝手にそう思って自暴自棄になったり。」



「うん。」




「でも、やっぱり、あなたの顔を見ると、胸がワクワクして、ドキドキしてるのが分かって。」



「もう、どうにでもなれって思ってた。」

「私は、みずきちゃんが好き。」

「それは、中1の入学式の頃から変わりはないってことを。」




「うん。」

私を見つめている。




私は、あなたの目を見て

「3年間ずっと好きだった。」

「今も…ずっと………。」



あなたの顔を手で包みこんで、

あなたのぽってりとした唇に

やさしくキスをした。


私の手をあなたがやさしく包みこむ。



「でっ?」

「みずきちゃんは?」

「いつから、私を好きになってくれたの?」


私は微笑んで、あなたの顔を覗いた。



あなたは、少し顔を赤らめて

話をする。



「わたしはね、っていうか。」

「わたしもね…。」

「入学式の頃だったんだ…。」



「えっ…。」

驚く。




フフッ。

あなたが私を見て笑った。




「入学式の時に、並ぶでしょ?」



「うん。」



「その時に、すっごく、小さい子がいたの!」



「それが、私!?」



「うん!」




「でね、その、すっごく、小さい子、可愛いって思ったの。」




「うん。」




「それで、教室に着くでしょ?」

「わたしの席は、一番前で、

その小さい子が見当たらないなぁって思ってたら、一番後ろの席に座ってるの。」



「うん。」



「その時にね、なんて可愛いのって思ったの!」



「うん。」

私は微笑んだ。



「名前も覚えたし、あとで話しかけようって思ってたんだ。」

「でね、後ろを向いたら、

もう隣の子と楽しそうに話をしてて。」

「もう友達できちゃったんだ。」

「って思って、なかなか話しかけられなかったんだ。」



「そうだったんだ。」



「うん。」

「でも、わたし、話しかけたことあったでしょ?」



「うん。」



「その時にはね、わたし、りかちゃんの事を知りたいって思ってたの。」

「そうすれば、返事も返ってくる…。」

「一緒にいられるって…。」



「うん。」




「でも、上手く話せなくって…。」



「うん。」




「ただ、わたしも、りかの事を見てるだけだった…。」




「うん。」



「でも、ある日、気がついた事があったの!」



私は、あなたを見つめる。




「わたしの、吹奏楽部の教室から、りかが所属している美術部が見えるってことを。」


「その時、わたしね、すごく嬉しくなって笑っちゃった。」



「りかの事をわたしは、誰にも邪魔されずに見つめられるって。」



「うん。」



「嫌だった練習も乗り越えられそうって。」



「うん。」




「でも、ある噂を聞いてしまったの…。」



「うん…。」



「クラスの男子が、りかと付き合ってるって噂。」

「わたし、すごくショックだった…。」

「りかは男子が好きなんだよね。」

「当たり前だよねって…。」

「自分に言い聞かせて。」



「うん。」



「でも、自分に言い聞かせても、やっぱり、わたしは、りかを忘れられなくて…。」



「うん。」



「だから、しばらく、部活行かなかったんだ…。」



「だから、あの時、居なかったの?」

「しばらく、部活休んでるみたいだったし、てっきり、私…。」

「彼を好きなんだと思ってた…。」





ぱっと私をあなたが見つめた。


「そんなわけないじゃない!」

「わたしが、好きなのはずっとりかだけ!!」

「そのせいで、少し病んだんだから…。」




フフッ。

私が笑った。



フフッ。

あなたも笑う。



「それで、暫くして

別れたって聞いて。」



「うん。」

「すごく、嬉しくなって。」

「わたし、りかになにも言わずに帰っちゃって。」



「うん。」



「あの時はね、嬉しかったの。」

「もしかしたら、チャンスあるのかもって。」



「うん。」



「あまり、1年間話せなかったけど、わたしの、気持ちは変わってないよって思いながら終業式を終えたよね。」




「うん。」



「それで、2年になったとき、クラスが違くて、悲しかったのを覚えてる。」



「でも、りか、2年になった時髪の毛切ってたじゃん?」



「うん。」




「もうね…。」

「びっくりして……。」

「可愛すぎて‼」




「フフッ。」

私は、笑った。




あなたも笑顔になりながら

「髪が短くても、りかは可愛いなぁって。」

「食べちゃいたい位だったもん。」



「フフッ。」

私が笑う。


「でも、クラスは離れていても、やっぱり、わたし、りかのこと好きだなぁって思って、2年生を過ごしてた。」



「うん。」



「それで、3年で一緒のクラスになって、すごく嬉しくなって話しかけちゃった。」



「うん。」




「わたしもね、ずっと見つめてたんだ。」



「えっ…?」




「気づいてなかったでしょ?」



「うん。」




「後ろの友達と話すフリして

チラチラ、りかのこと見てたんだ。」

「それなのに、全然気づいてくれないんだもの。」



「気がつかないよ~。」

「だって、私を好きだなんて思ったこと無かったから…。」

「好きになるのは、カッコいい男子なんだろうなって思ってたし。」



「そんなわけあるわけないでしょ。」



「わたしはね、りかしか目が向いてないの!」



フフフッ。

「ありがと。」


チュッ。

キスをした。




「それでね、卒業間近だし、

気持ち伝えないまま、また、離れ離れなんて嫌って思って。」



「うん。」



「もし、断られても悔いはない。」

「精一杯、気持ち伝えたって思えばいいって言い聞かせてね。」

「バレンタインデーに、気持ちと想いをあげたんだ。」

「わたしは、本命として、あげたんだけど。」

「どっちにも受け取れるようにって。」



「うん。」



「そしたら、ホワイトデーの日に、聞いてくれたよね?」




「うん。」




「だから、告白したんだ。」

「ずっと、りかを好きだったことを。」

「今も…。」




チュッ。

私の唇にキスをした。




「私たち…

ずっと、両想いだったんだね。」



二人見つめ合う。



「3年間ずっと、」

「好きでいられるって。」

「好きでいてくれるって。」

「幸せなことなんだよね。」




「うん。」



ふたりはもう一度、唇を重ねた。

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