一番前の席のあなたを

rinna

初めてあなたに出会った日

中学の入学式にあなたに出会ったんだ…。



私、松川梨夏(りか)。13歳。この春で中学一年生になります。


今日は入学式。

私たちの中学は、三つの小学校から生徒が集まる。



だから、とっても楽しみだった。

元々の小学校のクラスメイトもいるし、何より新しい友達が作れることがすごく嬉しかった。



どんな子がとなりの席なんだろう…。

どんな子と友達になれるかなぁ…。



すごくワクワクした。


真新しい制服に身を包む。


校則はあって、膝下のスカートだけれど…。


私のクラスは1年B組になった。


もちろん、同じ小学校の友達も何人か同じクラスになった。



そして、私は、一番後ろの席に座っている。

隣は女の子だった。

初めて違う学校の子と話す。

私にとっても、相手にとっても

初めての友達ができた。




入学式なので、先生の話を聞いて

クラス名簿を配られた。



入学式は無事に終了した。



家に着く。




私は、早速貰ったクラス名簿に目を向けた。



『へぇ…。同じ名前の人、二人居るんだぁ…。』


クラス名簿に目を向けながら、ひとり言を言った。



明日から、学校生活が始まる。



学校に着くと、隣の子と話をする。

自己紹介とかいろいろ。


そしたら、隣の子の小学校の頃の友達、二人とも友達なった。



順調に中学生活を楽しめそうな気がする。



勉強は苦手だけど…。


ふと私の席からは、教室全体が見渡せる。


真ん中の席の一番後ろの席だから。



ぐるりと目を動かす。



すると、ある女の子に目がいった……。




私は、その時目が離せなかった。




その時からもう…

私は、恋に落ちていたのかもしれない。



その子は、すらりとした背の高いショートカットで、目が大きくて色白で唇は赤くポッテリとして綺麗な顔をしている。




その子の席は、廊下側の一番前の席だった。




名前は、早瀬みずき





私が初めて目が離せなくなった女の子だった。


けれど、私は、目で追うだけだった。




話しかけたりとか出来なかった…。




いきなり話しかけてもきっと、ビックリしちゃうだろうし、

それに、私は人見知りで自分から話すことが苦手だったし。

それに、無視でもされたらきっと辛いし…。




一番の理由は、自分に自信がなかったんだ…。




あんな綺麗な子を相手に

話すことなんて出来なかった……。



ただ、名前と出身小学校を知ることができただけでも嬉しかった。


それだけで、満足だった…。




挨拶もできず、ただ、登校してきたあなたを、後ろの席から見ているだけだった。




あなたは、友達と一緒に居る事が多かった。


きっと、同じ小学校の友達なんだろうな。



いつも、一緒に行動をしているし。




……って、ストーカーみたいになってる…。



相変わらず、私は、あなたを目で追うだけ…。



授業中は、特に…。

黒板を見るフリして、チラリ…。



『今日も、みずきちゃん綺麗だなぁ。』

『カッコいいなぁ…。』

『頭もいいし、字もきれいだし。』

『欠点なんてなさそう…。』



授業中にも関わらず私の頭の中はみずきちゃんの事でいっぱいだった。




けれども、この事は絶対に誰にも知られてはいけない。




なぜなら、

私が目で追っているのは、

『女の子だから……。』



中学生は、恋愛の話ばかりだと思う。


毎日、この人が好き。あの人が好き。って話でいっぱいだ。



もちろん、異性相手だが……。



『なおさら言えない……。』

『絶対に……。』

『本当は女の子が好きで、

しかもその子は同じクラスで。』

『なんて、そんな事、絶対言えないよぉ…。』



友達の恋ばなを笑顔で聞きながら、心の中ではそんな事を思っていた。


私は、小さい頃から女の人を好きなのかもしれない…。





でも、幼稚園生の頃は、男の子に告白されてずっと一緒に行動していたし、

小学生の頃も、男の子から告白されて、チューされて、一緒に行動したりしていた。





その事が広まって、クラスメイトの女子に呼び出しされて


聞かれたなぁ。




「りかって、チューしたの?」


って…。





それを聞いてどうするのって思った。




そんな面倒なこともありつつ…。





でも、私には、忘れられない出来事があったんだ。



私が小学一年生の頃の話。

その頃は、上級生と共に一年間行動することになっていて、

私のペアになった子は、女の子だったんだ。



とても可愛くて優しくて、

遊んでくれて、一緒にいるのが嬉しかった。



でも、私が二年生になる頃に小学校を卒業していった。



とても寂しくて、

でも、心のどこかで思い出して、嬉しくなって。



今ではもう、名前が思い出せないんだけどね。

顔もぼんやりとしか思い出せないし…。



でも、今でも思い出すのはきっと、好きだったんだなぁって思うんだ。


だから、男が好き、女が好きとか決められないっていうか…。



ただ、気になったり、目で追ってしまったり、ドキドキしたりしてしまうのは、女の人が多くて…。



だって、本屋さんで会ったパンク系女子をすれ違うまでちょっぴり好きになったり、めちゃめちゃピアスが多いクールなOLを気になってしまったり…。



ただ、気になってしまうのが女の人が多いっていうか……。




でも、深い仲になりたいのは女の人で、男の人とはセックスしたくなくて…。




なんだろ……

今、揺らいでる。



『どっちが好きなのか。』



ロウソクの炎のように、揺らいでいて、自分でもどっちかなんて分からない…。



そんな学校生活も6月を迎え

少しずつ暑い日が迎えようとしていた。



そんなある日、初めてあなたに話しかけられた。



その出来事は、私の友達とあなたが仲が良いらしく、

その友達とあなたが話しているときだった。



「りかちゃん、見て!!」

あなたが私の名前を呼んでくれた。



嬉しくなったけど、顔の表情は嬉しさを隠すため、あまり笑顔ではなかったと思う。

自分に自信がなかったんだ…。



「…?」

私は、声も出さず、あなたに目線を向けた。



当時のお笑い芸人のモノマネをしていた。


そんなお茶目な一面もあるんだぁって、内心笑顔だった。


けれども、内心笑顔な自分を裏切るように、あなたに向けた顔は気まずく傾げたような顔を向けてしまった…。



「りかちゃん、もっと反応してよ~。」

「恥ずかしいから~。」

あなたが恥ずかしそうに話した。



『ばかやろう!』

『私、何やってるんだろう!』

『笑顔で返してやればいいのに…。』

『こんな私に話しかけてくれたのに…。』

『何をやってるんだ……バカバカバカ!』

自分の自信のなさで、こんな私に話しかけても、

なんてそんなマイナスな事ばかり考えてしまって、あなたにうまく返事を返せなかった。




そんな、初めてあなたと近くに居られたのに、初めて話した一番の出来事は、

微妙な返事とともに消えていった。


あれから、私とあなたは、話をしていない。



きっと、うまく会話が出来てなかったから、

気まずい人と思われてしまったのかもしれない。



でも、いいの。




私は、ただ、見ているだけで、

あなたの後ろ姿を授業中に見ているだけで満足だったのだから。



中学では、部活動がある。




私は、美術部に入った。



あなたは、吹奏楽部でフルートを担当している。




私の部活動の美術室からは、

あなたがフルートを吹いているのが見える。



それと、心地よい音色も。




そんな、眺めを私は、幸せだった。


いつも、部活動でお互い頑張っている中で

私は、美術室の窓ぎわから、あなたを見ていたんだ。



そして、キャンバスに顔の輪郭を描き始めた。



『私が描いているのは、あなたです。』


ちょっと、ストーカーみたいだけど、

『私は、やっぱり、あなたが好きです。』



誰にも話していない。この事は。



だから、きっと、あなたにも分からない。



この気持ちを胸に秘めて、いつもと同じ時間が流れていった。



朝着くと、あなたを目で追って、

授業中、あなたの背中を見てしまう。

移動教室でも、部活のときでも、

気がつくと、目があなたを追ってしまうんだ。



帰る方向は別々だけれど、学校が終わるチャイムが鳴り終えるまで、私の心は満たされるんだ。

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