第3話 追蹤

 彼のあとをついて行って20分くらい、駅が近いせいで、家やら車やらの明かりで、昼も夜もたいして変わらなように見える。店の明かりは明るいというより、うるさい。夜でも人は十分すぎるほどいる。高層マンションに入っていき、エレベーターに乗ると10階が押される。監視カメラがあるのに、自分のことに気にすることなく、私のことの方が気がかりなようだった。エレベーターを降りて、1番奥の部屋で足は止まった。表札を一瞥して、部屋に入る。玄関で靴を脱ぐと、パチッという音と共に、明かりがつけられる。


「お兄さん、小野寺さんっていうんだ? 」


一瞬怪訝そうな顔をしたが、あっというような顔をした。まだ、お互いの名前を知らない。


「あー。まだ名前言ってなかったか…。小野寺秀一っていいます。会社員です。年は24」


「園田澪依華。兎成高校二年。16歳かな。はぁ〜、お兄さん…もとい小野寺さんはなんで普通に働いてて、こんないい家に住んでるのに人殺ししてるの?てっきり、職業軍人みたいのかと思ってたよぉ」


私が住んでいたボロアパートとはわけが違う。それに、おそらく、この部屋、家具付きで売られていたものだろう。部屋と統一感があって、とても素人が買い集めたものとは考えにくい。私の質問にはガン無視で自己紹介しか聞いてもらえなかったみたいだった。


「園田さん、立ってるのもなんだから、その辺座って。コーヒー飲める? 」


「うん、ありがと。これ1人で住んでるの? 」


上着を脱いで、近くにあったソファに座る。目の前にあるテーブルには何も置いてない。テーブルに限らず、部屋にはほとんど物が置いていない。棚の中にあるのだとしても、生活感がなさすぎる。


「…そうだね。無駄に広いから、使ってない部屋とかいくつかあるからさ、この部屋の隣にあるの使ってくれていいよ」


ひと部屋使えるのはありがたい。でも、それでは悪いような気がして、歩きながらずっと考えていた。


「ねぇ、ただ飯食うのもなんだからさ、なんかさせてよ。一応家事は大体できるよ。ただの居候になるのはなんかやだし」


「えーっと、やってくれる分には構わないし、寧ろ外食多かったからありがたい。それで君がいいなら。それとさ、住むにあたって、俺の部屋と、君の隣の部屋は入らないで欲しいかな。いろいろあるし、あと、俺の素性はあんまり詮索しないでほしい。これだけお願い」


まあ、変に漁って怖いもの出てきたら嫌だし、恩人に変に詮索するのは失礼だ。


「2つだけ?わかった。ま、知らない方がいいこともあるもんね。ちなみにだけど、学校は奨学金で行ってるので、学費の心配はかけません。あ、そうだ。なんかあった時のために、設定考えないと」


近所の人に見られたり、学校の人たちに見られたりした時の言い訳だ。


「普通に、親戚でいいんじゃない?学校変えられないから、一番近くに住んでた俺のとこに住んでるって感じで」


「おお〜、いいね。じゃあ、名字呼びは変だね。私のことは澪依華でいいよ。秀一…秀って呼んでいい?なんかその方が親戚のお兄さんっぽくない!?親戚の人なんて会ったことないけど! 」


親戚なんているのかどうかすら知らない。ママと昔はおばあちゃんがいたけど、それしか知らない。遺書に、父親の名前が書いてあったけど、誰であってもどうでもよかったし、今まで会いに来なかった人が、今更私の世話なんかしてくれるはずがない。


「え…。まあ、いいけど、じゃ、澪依華よろしく」


「うん!よろしく!秀! 」

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