勇者召喚
雪が召喚される5時間ほど前、イフミ帝国ではヴァンス王国で勇者が召喚されたその時から今か今かと待ちわびている者がいた。
「まだ、準備は出来ぬのか」
そう言うのは豪華なネックレスや指輪をつけている男だった。
そしてその問いに答えたのはそのすぐ近くで待機していた者だ。
「陛下、もうしばしお待ちください......しかし、本当にやるのですか? いくら帝国が危機の状態とはいえ......」
苦々しい表情をする男、イーラス・マキナ、宰相を務めているものだ。
「何度も言わせるでない、これは決定事項だ」
王はこの質問をされるのは5回目だったからか少し苛立ちを隠せてない。
ただ、宰相がこう何度も聞くのも当然の事だった。
勇者とは魔王が誕生する事を察知した時に召喚されるものだ。ただ、当然どの国が勇者を召喚するかと揉めることになる。
そして充分な話し合いの末勇者を召喚する国が決められるのだ。
明確にその国以外は勇者を召喚してはいけないというルールがある訳では無いが最早それが暗黙のルールだった。
そのルールを今、陛下は破ろうとしておられる、もしこの事が他の国にバレた場合全ての国を敵にまわす事になるだろう。
ただそれがわかっていようと宰相の身では陛下に逆らうことは出来ない。
他にも理由はあった。
もちろん陛下もそれが分かっていないわけでは無かった、帝国は滅びかけている、数ヶ月前に奇襲で戦争を仕掛けたにも関わらずまんまと負けてしまったからだ。
それ故に宰相も強くは言えない、いくら宰相と王という立場であろうと、国を破滅に追いやるというなら話は別だった、だがしかし、ここで一発逆転を狙わないと帝国が滅ぶことは避けられないだろう。
「「はぁ」」
宰相と国王が息を揃えてため息を吐く。
その様子をみて再びため息を吐くのだった。
雪が召喚される5分程前。
王は玉座に座りその光景を見下ろしていた。もちろん宰相もいる。
そこでは、何人もの魔道士が魔法陣に魔力を注いでいた。
そして魔法陣が光り始める。
その光景を見たその場を指揮していた人物が言う。
「陛下! 準備が整いました」
それに答えるように頷く。
「うむ、では始めよ」
その言葉を聞き、魔力を注いでいた者たちに合図を送る、その瞬間更に魔法陣が光だし目を開けていられなくなった。
次に目を開けるとそこには見知らぬ服を着た見知らぬものたちが25名程。
その者達は状況を理解出来ていないのかざわざわと話し始める。
「よくぞ、参られた」
王がそう言うがまだ状況を理解出来ていないようだった。
「うむ、混乱する気持ちは分かるまずはステータスと言ってみてくれ」
近くには武装した兵達がいた。
ただの高校生がこんなものを見れば逆らう気はなくなるだろう。
ゆっくりと口を開き皆ぶつぶつと、ステータスと呟き始めた。
その中でも正明が真っ先に呟く、それも大声で。
「ステー⤴︎ タス⤴︎ ⤴︎」
変なポーズをつけながらそう叫ぶ正明を見る目は皆冷たかった、だがこの男はそんな事気にしない、憧れていた異世界に転移するというシチュエーションに興奮を隠せるわけが無かったからだ。
そして正明の前に画面が表示される。
「はっ〜はっはー、どうやら僕は賢者のようだネッ」
そう言いまたポーズをとる。
歓声が上がる。
「おぉ、まさか、賢者がいるとは」
王は嬉しそうにそう言う。
それもそのはず勇者召喚とは言わば運なのだから、勇者召喚と言うだけあって勇者は確定でいるのだが、ほかの上級職に関しては運でしかなかった。
そしてクラスで1番可愛いと男子の間で噂されている
「私は魔戦士です」
またもや歓声が上がる。
王に関しては最早泣きそうだった。もちろん嬉しさで。
そしてそこから聞こえてくるひとつの声。
「俺は勇者だ」
それだけ聞くと凄く痛いやつに思われる言葉だが先程までにない歓声が上がる。
勇者はクラスの高身長イケメン
そして続々と職業が語られていく。
もちろん下級職もあったが25人中上級職が15人、喜ぶなと言う方が難しい。
歴代の勇者召喚でも上級職が5人いればいい方なんだとか。
ちなみに和樹は精霊術師と言う上級職だった。
和樹が職業を話した時には正明が大爆笑していた。
正明にとって精霊術師とはエルフが使うというイメージが強かったからだ、和樹はそれを睨むが何もせずに自分のステータスを把握している。
その時めぐみは考えていた。
(雪くんは?)
めぐみと雪は幼なじみだった、それもあっていじめられていたのかもしれないが、このめぐみは雪がいじめられているなんて知らなかった。
知っていたならこれから訪れる未来は多少変わったのかもしれないがそれももう遅かった。
雪は散歩をしていた。
散歩と言っても近くの街の周辺を調べるための調査だ。
近いとはいえ人間が魔王城まで行くには5日はかかることになるが。
「ユキ様、何か近づいてきてます」
最初は1人で行くつもりだったんだがどうしてもと言うのでラルフを連れてきていた。
ラルフを選んだ理由はクマがどう戦うのか見たかったという単純な理由だった。
ヴィラとヨミが悔しそうな顔をしていたが気にしない。
「あぁ、分かってる」
もちろん俺にも分かっていた。
そしてそこから現れたのはでかい豚、言うところのオークとオークに引きづられた女の人間だった。
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