第20話 温泉探し

 川瀬さんと約束した通り、温泉を探しに山脈の方へ向かうことにした。


 村長に話すと、去年探査に出た連中が帰って来ていないので、痕跡でもあれば、見てくれと頼まれた。


 出発するとき、なぜか、村のみんなが見送ってくれた。

 いや、ちょっと行って帰ってくる気なんですけど。

 そんなに、山脈側やばいのか?


 ドキドキしながら、出発をした。


「うーん。やっぱり外に出ると、ドキドキするわね」

 川瀬さんが言う。

「暑いからって、どこでもここでも脱ぐなよ」

 俺がそう言うと、ジトられた。



 村から離れると、すぐに道はなくなる。

 自作した、鎌。

 鎌と言っても、一般的な小さなものではなく。

 クエスチョンマークのような刃先に、1m くらいの柄が付いた藪切鎌と言われるものだ。


 武器にもなるだろうと、川瀬さんと2人とも装備している。

 ほかにも、鉈や鋸を腰のベルトにぶら下げている。


 草地に入って、よく観察してもダニが居ないのは嬉しかった。

 病気を媒介するから、注意すべき生き物だ。

 そう言えば、こっちへ来てから、蚊やブヨそれとアブと言った、吸血の昆虫を見ていない。多少は、生態系に差異があるのだろう。

 これは、女神に感謝だ。


 休憩に入り、火を起こした際に、長尾さんが作った、丸薬をつまんで火の中に放り込む。

 この丸薬は、除虫菊? を丸めて乾燥させたものらしい。


 ただ、毒性は不明だそうだ。


 長尾さんは化学の専門家だそうだ。

 色々作っていると、手伝えることが有ったら言ってくれと言って、なぜか俺に仕事を押し付けていった。

 コンロは、長尾さんに言われて作ったものだ。



 湯を沸かして、直接茶っ葉を放り込む。

 空気が澄んでいるせいか、それとも森林のおかげか、疲れが一気に抜けていく。


 川瀬さんは、この前俺が作った、インスタントうどんを作っている。

 ラーメンを作ろうとしたが、イノシシが取れなくて、量のあるサバ節と昆布のパウダーで試作した。


 周りからは、豚骨じゃなくても良いじゃないと言われたが、そこは俺の好みで押し通した。

 ちなみに、うどんと言ったが、川瀬さんは卵を入れてこねた。

 ラーメンの麺を使っている。

 麺については、きちんとうどんと、ラーメンの2種類を作ってある。


 作った時に、村の幾人かは泣いていた。

 つくづく、みんな日本人の様だ。


「ほい、こだわりのうどん一丁おまち」

 にこやかに、川瀬さんが器を渡して来る。

「ありがとう」

 そう言って受け取る。

 なぜか、頬に両手の手のひらをあてて、くねくねしている。

 最近の彼女は、なぜか本当に機嫌がいい。



 おれは、これから向かう山の姿を、木の隙間から眺める。

 この北の山々は、山稜は尖り厳しさを見せる。

 途中から、森林限界を超え岩肌が見えている。

 調査隊は、どこをルートとして選んだのだろう。


 村長が、まだ帰ってきていないと心配していた言葉が、頭によみがえる。


 休憩を終了して、道具を片付け。火を消す。



「さあ行こう」

 と言って、川瀬さんの手を取る。


 そして、俺たちは……。



 いや普通に、麓までたどり着いた。

 何も特筆することもなく……。


 森林限界の境界部は、ガレ場と言うより砂もあり、いわゆるザレ場となっている。

 表土が浸食により、崩落した土砂が堆積をしているのだろう。

 

 場に立って、噴煙等が見えないか確認するが、発見できない。


 どっちに行くか悩んだが、村に近い方向へ行ってみる。

 温泉があれば、引きたいと言う思いがあるので決めたが、採掘をするなら近くない方が本当はいい。悩ましいところだ。


 それから、夕方まで歩き。

 東にあった村が、すでに西になった頃。

 ちょっと森側に入り、ターフで屋根を作ってビバーグをすることにした。

 前回は、テントを使ったが、山の麓で崩落を考えれば、危険を回避する為。すぐ動けるようにした方がいいと考えたからだ。それに今は夏で気温も良い。


 さっきも言ったが、蚊とかもいないしね。


 疲れもあって、すぐに寝た。


 翌朝。日の出とともに出発したが、ほどなく奇妙な石柱が立っている風景に代わって来た。カルストだ。

「ここからは、カルストだな。危ないから帰ろうか」

 と、言った時に、稜線の途切れた部分があることに気が付いた。


「あそこ、稜線が途切れているのか?」

 隣にいる川瀬さんも、目を細めてみている。

「ここからだと、手前と向こう側に隙間がありそうね」

「危険だが、見に行こう」


 前回の失敗があるので、ドリーネかもしれない窪地を避け、注意深く進んで行く。徐々に標高は下って行き。大きなポリエ? 谷にはなっているが、水は溜まっていない。どこかに抜けているんだろう。


 ただ、周りは険しい崖で、降りられるところも見つからない。


 悩んだが、戻ることにした。なかなか、ご都合主義な展開は無いようだ。


 昨日ビバーグしたところまで戻り、川瀬さんと相談する。

「どうしよう、一度村まで戻るか。そのまま西の方面へ行ってみるか」

 そう聞くと、

「西へ行きましょ」

 と、ノリノリだ。


 その為。翌朝から、西の方へと向かい歩き始める。


 そう言えば、川瀬さんがおとなしいと思ったら、丁度月の物が来ていて、村に帰ってもイチャイチャできないからと、西に行くことに決めたらしい。

 そう言う時って、辛くないの? と聞くと私は軽いほうだから大丈夫との事だ。


 用品も長尾さんが、綿と寒天粉末で作っているらしい。

 長尾さん意外と多才だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る