第11話
CJKCは非常に広大な敷地を持ち、来訪者は迷いやすいと有名である。いくつもの転移門があり、知らずに通り抜けると、全く見当違いのところに飛ばされることもあるのだ。ゆえに新入生が真っ先には行わなければならないことは、オリエンテーションで学園の構内マップを覚えることであった。
男の後をとことことついていくと、しばらくして急に立ち止まった。
ヴィクトリアもつられて立ち止まる。
すると、男はおもむろに振り返り、左手でヴィクトリアの顎をぐっとつかんだ。
「知らぬ場所で見知らぬ男に一人でのこのこついてくるなんて、とんだお嬢様だぜ。てめえの不用心が招いたんだ、何が起こっても文句は言えねえよなぁ?」
ヴィクトリアは驚き、過去の出来事を思い出して歯噛みした。
またやってしまった。
同じ魔法士養成コースの学生だと思って、深く考えもせずについてきてしまったのは間違いだったのか。
ヴィクトリアはキッと男を睨みつけた。そんなヴィクトリアを見て、男はくつくつと笑う。
「おお、怖い。生意気なガキは嫌いじゃねぇ。いい暇つぶしになりそう……ぐっ」
ヴィクトリアが男の足の甲を力いっぱい踏んづけると、男は悲鳴を上げて体を離した。
「ってェ!」
「あなたこそ、小娘相手と思って不用心なのではない? なにが起こっても文句を言わないでね」
男から距離を取り、ファイティングポーズをとる。
そうだ。もうあの時の弱い自分ではないのだ。まして今回は相手は一人。
それに、入学初日からしくじって家に連れ戻されてはかなわない。
そんなヴィクトリアを見て、男はあきれたようにため息をついて、踵を返した。
「まったく威勢のいいお嬢様だぜ。あーあ、興ざめした。それじゃあな」
それだけ言うと、小さな竜巻とともに男は姿を消した。
「え、ちょ、ちょっと待って。こんなところにおいていかないで!」
こんなところに置き去りにされてはかなわない。男を追おうと数歩歩みを進めると、道をふさいでいた巨大な木々の向こうに、入学案内書に載っていた立派な校舎が建っているのは見えた。
「……あれ? ここって魔法士養成コースの校舎?」
あの男はちゃんと校舎の前まで連れてきてくれたのだ。
「うーん。案外いい人、だったのかも? 足を思い切り踏んづけたりして、悪いことしちゃったかな。まあ、同じ学校ならまた会うかもしれないし、その時にちゃんとお礼を言おう」
ヴィクトリアは校舎に向かって走り出した。
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