第6話

翌日、不機嫌な母と朝から、そのとばっちりをうける父を早々に後にして今日こそは弁当を忘れず、登校した。


早速、昨日の家庭科部に入部してくれそうなクラスメイトを何人か当たった。


撃沈。


今度は体育で一緒になるD組の知り合いにも声をかけた。


轟沈。


午前中で頼りをすべて失ってしまった。自身の人望のなさを嘆いた。


同じクラスの義正にも聞いては見たが卓球部で忙しいらしくいい返事はもらえなかった。


現状、残っているのは直人くらいだった。


しかし、直人はもう弓道部に入部している。翌日の水曜日に帆貴に『どうでした?』なんて聞かれた日にはなんて返せばいいのか。もうだめかもしれない。走馬灯のように昨日の家庭科部での記憶に思いをはせていたらあることに気が付いた。


家庭科部に名前を貸して実質的に幽霊部員になっている人は特に咎められるわけではない。


加えて兼部、それ事態は不可ではない。その人の活動自体も実態が残れば生徒会は口出しできないはずであると。


さらに、家庭科部の活動日は基本的に月、水、金曜日であり確か弓道部の休部日は月、水曜日だったはず。直人を放課後毎週フル稼働させることになるかもしれないが背に腹は代えられない。


ダメもとで放課後、直人を捕まえて、入部をお願いしようと思いついた。


昼休みをいっぱいまで使い、思いついた策略を午後の授業中にまとめ上げ直人を言いくるめられるように練りに練った。






ホームルーム終了後の放課後、脱兎のごとく4階の一番端にあるA組の前まで駆け抜けた。クラスメイトには自分はどう見えただろうかと憂慮しながらそんなことを考えている間はないと彼は焦っていた。


幸い、A組のホームルームがまだ終わっていない。これは好機と思い直人が出てくるのを待った。


5分後、ホームルームが終了し、ガタイのいい短髪男子が出てきた。直人だ。


「直人!」


理央が声をかける。


「お!理央じゃん。どうした。珍しいなお前がわざわざこっちに来るのは」


一瞬戸惑いを見せたがすぐにいつもの笑顔にもどった。


「お願いがあるんだ。」


「どうした、そんな神妙な」


食い気味に言い放つ。


「家庭科部に入ってくれ」


「だめだ」


中学からの親友と思っていた人物がこうもあっさりと頼みごとを断るものかと心傷になり心外だった。


「ちょっと話しを聞いてくれ」


「これから部活なんだ、明日にしてくれ」


「いいのか、親友のお願いをあっさりと断って」


「ダメなものはダメだ、俺にもできることの範囲がある」


理央が黙り、直人がその場を離れようとした時、


「…あの夜のこと今でも忘れてないからな」


理央はやや大きめな張り詰めた声で語り始めた。


「何?」


「突然、夜に呼び出してあんなに僕が『やめて、こんなの無理だよ』って言っても直人は『痛いのはちょっとだけだ。我慢しろ』っていって無理やり抜き差しを繰り返したあの出来事を!」


放課後、ホームルーム終わり、まだ廊下にたむろしている女子生徒が好奇な目でこちらを見てくる。直人は一年の中でも女子生徒に評判があり、毎日のように理央に挨拶にC組に赴いていることは周知のことだったため二人がどんな仲なのか知りたい生徒も多かった。理央は周りに勘違いを与えかねない言い回しをしたため直人は焦り始めた。


「まだあるぞ!次の日の夜なんて…」


「やめろ!わかった!誤解を招く!ここだと面倒だから場所移すぞ!」


「わかればいいんだよ、わかれば」


校舎の外にある弓道場の入口の前まで移動した。


直人が理央にヘッドロックを与え、悪かったと理央が認めたためそれを解いた。




「あのな!ナイトフィッシングでお前が自分自身で投げたタックルの返しの付いた針が腕に突き刺さってどうにか抜いてやっただけだろうが!脚色をするな!」


「事実を言ったまでだよ」


理央は何でもないかのように平然と語った。


「で、なんだっけ?家庭科部に入部しろだっけ?理央が入部すればいいじゃないか」


「もう入部するよ、でも人が足りないんだ」


理央は昨日の放課後の出来事をありのまま語った。


「あー…」


直人は何か悩んでる様子だった。


「仮に俺が入部してもまだ一人足りないじゃないか」


「直人と友達のネットワークを広げればあるいは!」


「結局、人頼みか」


「自分でも引き続き人集めに努めるよ!できることはしていくつもりだから」


「この通り頼む!」


理央は深々と頭を下げた。


直人は沈黙ののちその場を離れながら言い放った。


「部長と顧問に聞いて弓道部に影響のない範囲で家庭科部に参加させてもらえるか頼んでみる」


「ダメだった時は引き際をわきまえろよ」


「…ありがとう」


理央は聞こえるか聞こえないかの声で礼を述べた。






翌日の朝。


機嫌が戻った母と何事もなかったかのような父に行ってきますの挨拶をして学校へ向かう。


いつものように学校へ到着し4階へ昇り、周りの同級生に挨拶をして自分の席に着席する。


理央は目をつむり、腕を組み悩み始めた。


「どうしたものかな…」


「別の話で鯉口を切っておくか…」


ガシッ


刹那で理央にヘッドロックが決まる。


「部長と顧問から許可がとれたよ、親友の理央君!」


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