ウルカン領クエスト終了報告

 その日の夕方ごろ、ボクとルーブルは目覚める。子供達2人はまだぐっすり眠っている。よっぽど昨日の事が堪えたんだろう、無理もない。


 この宿屋ではカウンターがあってお茶やお酒に食事も取れるようになっている。ボク達はカウンターの席についてお茶を頼む。


「・・・ウルカン領主とその家族は全員死亡、と報告したんだね?」

「ああ、あの子達には悪いけどな」


 ◇


 ルーブルはギルドマスター・シォマーニおじさんに会うなり「領主夫妻と家臣達の死亡、お嬢様と家臣の子供の救出」と真実を語った上で色々と質問を重ねた。

 新たに新領主となったロジャー・アール=ウルカンの事・・・そしてあのお嬢様マィソーマ・ウルカンの出生証明書まで見せたらしい。


 昨日ボク達がウルカン屋敷を追い出されて食事を作って食べている間にルーブルは空き家からパンを盗んできたけど、実はウルカン屋敷に戻って不法侵入しお嬢様の出生証明書を持って来たようだ。お得意の念動力を使えばカギを外から開けるなんてルーブルには朝飯前だ。


 ロジャーがお嬢様の証明書を捨てる前に手に入れられたのは幸いだった。盗って来たパンもお屋敷からだから元もとあの子達の物だ。でも何だかルーブルが危ない世界に入りつつある気がするのはボクだけだろうか?



 新領主に追い出されたお嬢様も出生証明書があればいつでも貴族に戻る事ができる。そう思ってシォマーニおじさんに相談したところ答えは「無理じゃぞい」という事だった。


 おじさんの情報によるとあのロジャー・アール=ウルカンという男は隣の領地バロン=ウルカンの領主でアール=ウルカンの領民を避難させていたらしい。それでどうやったのか知らないけどボク達より先にアール=ウルカン領主の死亡を確認して国王陛下に報告したところ、新領主に任命されたとの事。


 分かりやすく言うとアイツが屋敷と領地を横取りしたのは国王陛下の元での正式な手続きだったから、いくらボク達冒険者がお嬢様の存在を訴えたところで覆るものではないらしい。


 それにあの広大な領地アール=ウルカンは国境沿いにあるため、誰かが領主となって治めておかなければならない場所。証明書の力で貴族に戻れたとしてもお嬢様はまだ10歳ぐらいなので領主にはなる事はできないし、正式に領主として任命されたロジャーを追い出せるかどうかも怪しい。


 納得はできないけど今すぐお嬢様が貴族に戻る事は不可能だ。もしあの娘が社交界にでも出ていれば助かる道はあったらしいけど、まだ幼い事と辺境沿いの土地の上に領主様が領地経営で忙しく、ここ十年の間は他家の貴族との付き合いがなかったのでそれも期待できない。


 シォマーニおじさんは「いっその事子供達の希望通り冒険者として活躍させてはどうじゃ?自分の身を守れるようになってから自分達で決めさせると良いぞい」とのアドバイスを提案。


 幸いこの国ではAランクになると王国騎士団に入団する事ができる。騎士になれば最低ながら貴族の身分を得ることができる。

 その上で自分の出自を発表してロジャーを糾弾するも良し、冒険者のまま生活するのも良し、何か別の仕事につくも良し・・・そう考えればあの子達の前には色々な道が開けている。


 むしろ無理をして今貴族に戻ればあのロジャーかあるいは他の誰かの家で飼い殺しとなるかも知れない。貴族というのはマナー上レディに優しくするものだけど、自分達に何の縁も所縁もないお嬢様を助けるほど甘くないそうだ。



 なのであの子達も領主と共に死亡との報告をした。ルーブルも不本意だったけどあの子達のためならばと敢えて嘘をつくことにした。ボクもその意見には賛成だ。


 依頼主のラヒルという人はアレから姿を見せていない。役目上忙しくてこちらにまでは手が回らないのだろうか?ちょっと気に食わないけど手を加えた報告をしなきゃならなかったのでやり易いか。


 そして何の偶然かお嬢様は「マィソーマ・ウルカン」ではなく「マィソーマ・ガイタス」という名前で冒険者登録をしたようだ。ウルカンというのはこの国の貴族の名前なのでいち冒険者が名乗っていると処罰の対象になるかも知れない。でもこれなら貴族とのトラブルも避けられる。


 そしてお嬢様の証明書はシォマーニおじさんに預かってもらう事に。お嬢様がAランクとなるか、あるいはこのギルドを辞める時に返してくれるそうだ。このおじさんなら安心して任せられる。


 ◇


「・・・以上がマスターの方針だ、俺は最善のやり方だと思うがどうだろうか?」

「うん、屋敷を取り戻せないのは残念だけどベストだと思う・・・シォマーニおじさんのお世話になるのは申し訳ないけど」

「ああ、そこは町の滞在中にクエストやって点数稼がないとな?」


「ふふふっ、難題クエストいっぱいこなして今の内に返しきれないほどの恩を売っておこうよ!・・・そういえばルーブル、今回手に入れたモンスターの魔石はもう換金したの??」


「いや、まだだ・・・先にマスターに相談事があったからな、ギルドには明日にでも持っていくつもりだ」

「そっかぁ、今回手に入れたのは・・・ボク達がカタづけたリザードマン300体と領主様達が倒していたビッグアリゲイター24体・ドラゴニュート13体にアースドラゴン1体、だったよね?リザードマンだけでもかなりすごいのに後の大物の魔石はどうなるんだろう?」


「俺も見るのは初めてのモンスターばかりだからな、恐ろしい額なのは間違いない・・・これで大陸の端まで馬車を乗り継いで行けるかもな?」


 そう、ボク達の旅の目的は大陸の向こうのエーゼスキル学園だ。大陸の端まで行くのには後何ヶ月掛かるか分からない。それを一気に馬車の旅になれば随分楽ができるだろう。

 あの子供達には悪いけど今回のクエストではかなり稼がせてもらった事になる。


 ふとボクの中で名案が浮かぶ。


「ねぇルーブル・・・リザードマン300体はボク達が倒した、でもアリゲイターやドラゴニュートにアースドラゴンは領主様達が倒したもの、だったよね?」

「ああ、間違いない」

「ボクにいい考えがあるんだ・・・聞いてくれるかな?」

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