4-4.後輩からのお誘い
昨日やけ酒をしたからか、二日酔いで頭が痛いし、胃がムカムカしている。まだアルコールが体内に残っているような気さえする。
「ヤケになって一気飲みなんかするものじゃなかった……」
ヨルは後悔した。
「昨日休みにしたのに、まだ体調悪いんですか?」
隣に座るツグミがヨルの顔を覗き込んできた。
「いや、これはこの前のとは違う。単なる二日酔いだ」
「ガールズバーから出て来ましたもんね〜」
わざとらしい口調。責めるような目で見られた。
おかしなことなんて何もしていないのに。
「……見てたのか」
「たまたま通りがかって。私の家、あの辺なんですよ」
ツグミはあの辺と適当な方向を指さした。
「何しに行ってたんですか? ヨルさんお酒好きそうじゃないし、女の子にだって興味ないと思うのに」
「ちょっと、な」
「へええ」と疑いの目。
「隠し事ですか」
ツグミがむすっとした。
「……」
「ふうん。まあ、いいや。とりあえず仕事しましょ」
ツグミは返答のない八つ当たりなのかヨルの背中をバシッと叩いて気分を切り替え、PCのに向き直った。
その衝撃が頭に響いてヨルは机に突っ伏した。ノックアウトだ。
ツグミはそんなヨルのことなど気にも止めず、リズミカルにキーボードを打鍵していたが、ふと手を止め、またヨルへと体を向けた。
「ヨルさん」
「……なんだよ」
話すだけで頭痛がひどくなる。
「今晩、暇ですか?」
「……ああ。予定はない」
「よかった!」
ツグミははしゃいだ。その高い声すら体に悪い。
いったいどんな誘いがあるのだろう。
「ディナーでもご一緒にどうですか?」
「別にいいぞ」
もう、どうでもよかった。早く昼休憩になって仮眠をとりたい。
ヨルの心情を知らないツグミは、おざなりな返事でもOKをもらえたことでご機嫌になり、流行りのポップソングを鼻歌交じりで歌いながら、また仕事に取り掛かった。
ヨルものっそりと起き上がり、血色の悪い顔でなんとか仕事を進めていった。
・・・
夕方になってようやく本調子になったヨルは早々に今日分のタスクを終わらせて、「お疲れ様でした」と周りの人に退社することを伝えてビルを出た。
ツグミは一度本社に戻って私服に着替えると言っていた。
あと少し準備があるから遅くなるとも言っていた。
「なんだ? 準備って……」
ヨルはまだ大した店に行くなど予想もしていない。大衆居酒屋あたりだろうと思っている。
そこへツグミが小走りでやってきた。
「ごめんなさい! おまたせしました!」
はあはあと、息を切らせながらツグミはスマホを取り出した。
「そんなに待ってないよ」
ヨルの話も聞かずにスマホの画面を見せられる。映っているのはどこかのお店のホームページ。
「ここ! 人気なんですけど、ラッキーなことにお昼に予約取れたんですよ」
顔をずいっと近づけてきたツグミのメイクは普段とは違って、少し背伸びをした大人可愛いものに変化してる。
「だからか。昼休憩のときに鬼の形相でスマホと睨めっこしてたのは」
「もう、私の必死の祈りを馬鹿にしないでくださいよお」
「悪い悪い」
ツグミが頬を膨らませ、ヨルは笑う。
「だから今日は少し綺麗目の格好だったんだな」
「そうですよ〜」
音符がつきそうなほどツグミはご機嫌だ。
身体をくるりと回してコーデを見てほしいとあからさまにアピールしている。
「似合ってます? 似合ってます? 綺麗です?」
「ああ。似合ってるし綺麗だぞ」
ツグミはそれを聞いて有頂天だ。
普段とは違うツグミの清楚な格好にどきりとしたのは内緒にした。
言えばまたつけあがることだろうから。
スマホのナビを頼りに右へ左へ小道を進んでいくと、足が止まった。
住宅街にひっそりと立つ白を基調とした建物。
「ここですっ!」
ツグミは体と一緒に言葉を跳ねさせた。
店の前についた時、ヨルは心の中で普段からスーツでよかったと胸を撫で下ろした。
そこは、カジュアルレストランと謳っているものの、作業服やスウェットなどの格好では入店を阻まれるような高貴な雰囲気が漂っていたからだ。
ツグミは臆することもせずに堂々と入店していき、ヨルはその後ろに続いた。
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