一言詩集

雨杜屋敷

目を瞑れば、ボクは勇者だった。



 目を瞑れば、ボクは勇者だった。


 世界を混沌の渦に巻き込む悪い魔物を退治したり


 時には国同士の混乱を平和的に納めてみせた。




 目を瞑れば、ボクは英雄だった。


 頼れる仲間と共に、傷づきながらも戦い、


 世界を平和に導いた。




 目を開ければ、ボクは何でもない存在だった。


 どこにでもいる有象無象で


 悪いやつには敵わない。




 目を瞑れば、ボクは超人だった。


 社会の悪という悪を暴き出し、


 世界を平和に導いた。



 目を開ければ、ボクはおじさんになっていた。


 それっぽく拳を突き出せば、


 肩が軋み、痛みが走った。




 目を瞑っても、ボクはただの人だった。


 今はもう、英雄だったころの自分を


 見失っていた。




 目を瞑った。そこは夢見た世界だった。


 ずっとずっとなりたかったナニカに、


 なれたような気がした。




 ボクは目を瞑ったままだ。


 もう目を開ける事はない。


 だけど、ボクは幸せだ。


 目を瞑れば、ボクは勇者なのだから。

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