第10話 健康法? 剣光砲? どっちなんだ!

 銀髪の少女は頬が赤い。

 ボクの両腕で抱えられた姿勢のまま、身じろぎもせず固まっている。

 そして潤んだ瞳でこっちを見てくる。


 やはり調子が悪そうだ。

 熱があるのかもしれない。

 そうじゃなかったら、普通の人があんなミミズなんかに苦戦するはずがない。ましてこの人はパルが認めるほどの氷使いだ。


 ただ健康法を学んだだけのボクでもミミズを倒せたんだ。

 この人の体調が万全だったら、キリッと睨むだけでミミズも亀たちも爆散していただろう。


 ああ、そうか。

 父上がボクに戦っている姿を見せてくれなかった理由が分かったぞ。

 世界最強ゆえに、モンスターたちが勝手に爆散してしまうのだ。

 きっと、歴史に残るくらい強力なモンスターじゃないと、父上に接近することさえ不可能なのだ。

 そんなモンスターは当然、滅多に現われない。だから父上は、まるで『口先だけで実力が伴わない人』のような振る舞いになってしまったのだ。

 もちろんボクは父上が最強だと信じているから、妙な勘違いはしないけど。


 ……それにしても、この人、さっきからジッとボクを見つめて黙ったままだ……どうしたんだろう?


「えっと。ボクの顔になにかついてる? それとも、やっぱりケガをして動けないとか? 自力で立てる?」


 あまりにも少女がピクリともしないので、不安になって聞いてみた。


「あ、いや、ケガは、ケガはありません! えっと、その、助けてくれてありがとうございます!」


 少女は急に早口でまくしたててくる。

 びっくりした。

 けど、無事なようで安心した。

 顔は赤いままだけど、巨大亀を倒せたんだから、そこまで体調が悪いわけでもないだろう。少なくとも二ヶ月前のボクよりはいいはずだ。


「じゃあ降ろすよ。けど無理はしないでね? 体調が悪いなら一人で森に入らないほうがいいと思うよ? それとも仲間とはぐれたの?」


「え。体調は別に……むしろ万全ですけど」


 少女はしっかりと自分の足で地面に立ち、髪の乱れを直す。

 頬の赤さを除けば、確かに元気そうだ。

 慌てた様子はなりを潜め、クールな印象が前面に出てくる。


「え。じゃあどうしてミミズ程度に負けそうになってたの?」


「え。ミミズ程度って……あれは私の記憶違いでなければ、ジャイアント・デスワームという極めて珍しくて強力なモンスターですよ! あなたこそ、その幼さでどうやってそれほどの強さを身につけたんですか? さっきの光の剣はなんなんですか?」


「え。あれはただの健康法だけど……?」


「え?」


「え?」


 ボクと少女はお互いの顔を見つめ、口をポカンと開ける。


「健康な人なら、あのくらいの攻撃ができて当然……だよね? 光の剣を回転させて岩を粉砕する健康法ってあるよね……?」


 自分の認識に致命的な間違いがあるような気がして、ボクは恐る恐る訪ねた。

 パルと話していても、たまに不安になるのだ。

 ボクがこの二ヶ月間学んでいたのは『健康法』じゃない。そう思うことがある……って、そんなわけないよね。

 だってボクはこんなに健康になったんだから。


「当然なわけないでしょう……下手な冗談を言わないでください! 嫌味ですかっ?」


「じょ、冗談? 嫌味……?」


「え。その表情……本気だったんですか……? どこの地方にそんな健康法が……あ! もしかしてあなたが言っているケンコウって、剣の光と書くのですか!? 伝説の魔剣技、剣光砲!」


「なにそれ……健康法は健康法でしょ……?」


 と、ボクが呟いた瞬間。


「うぉい、シリル! やっぱお前、とんでもねぇ勘違いしてやがったな! いい機会だ、じっくり話し合おうぜ!」


 パルが大声を出しながら、ボクの頭の横に飛んできた。


 それを見た少女は、ギョッとした顔になる。


 うんうん。トカゲが空を飛んでたらビックリするよね。

 でも、こう見えてパルはドラゴンなんだよ――。


「黄金のドラゴン……伝説にある剣光竜と同じ姿……やはり剣の光のほうのケンコウじゃないですか!」


 あれ?

 一目でドラゴンと見抜いた?

 剣の光のケンコウ……パルは健康竜じゃないのか……じゃあ何者なんだ!

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