追放された病弱少年の無自覚無双 ~健康法と思って極めたのが最強の魔剣技『剣光砲』だった~

年中麦茶太郎

第1話 実家を追放される。そしてドラゴンと出会う

「お前のように寝てばかりの怠け者は俺の息子ではない! 今すぐこの家から出ていけ!」


 父上はボクの部屋に入ってくるなり、そう叫んだ。

 高熱で倒れ、歩くことさえおぼつかない十歳の息子に対して、家から出て行け、と。


 昔から厳しい人だった。

 いくら鍛えようと筋力も魔力も成長しないボクに、文字通りムチを打ってくる。


 もちろんそれは、ボクに期待してくれているからだ。

 いつかボクが、ロンチフォード男爵家の跡取りに相応しい男になると信じてくれているからだ。

 気絶するまで殴ってくるのも、愛情があるからこそ――。

 ボクはずっとそう信じて、父上の期待に応えようと頑張ってきた。


 けれど。

 父上はボクに出ていけと言う。


「そ、そんな……冗談、ですよね? ボクは立ち上がることもできないんですよ……?」


「冗談ではない! いつもいつも、貴様は少し修行しただけで体調を崩す! 病気になる! なぜそうなるか分かるか!? 気合いが足りないから病気になるんだ! 今日は剣の鍛錬をする約束だったのにサボって寝ている……お前の中に修行をしたくないという気持ちがあるから熱が出るのだ!」


 その声を聞いて、父上が本気なのだとボクは気づいた。

 ついに愛想を尽かされ、見捨てられてしまった。


 いやだ。

 ボクは歴戦の戦士である父上を尊敬している。

 父上みたいな強い男になりたいと思っている。

 立派な跡取りになりたくて、ボクなりに全力だった。


 けれど、どうしても体がついてこなくて……歯を食いしばって剣を握りしめても、すぐに立てなくなってしまう。


 気合いが足りない。だから病気になる。

 ああ、きっとそうなのだろう。

 だって、父上が言っているんだから。


「ごめんなさい……! 頑張りますから……立ちますから……見捨てないでください!」


 頭痛がする。視界が霞む。

 それでもボクは力を振り絞ってベッドから起き上がろうとする。

 しかし、気合いが足りなかった。

 足がもつれて、床に倒れてしまう。


 無様なボクを見下ろす父上の表情は、ますます険しいものになっていく。


「情けない……それでもロンチフォード男爵家の長男か。少しは弟を見習ったらどうなんだ。本当に愛想が尽きたぞ!」


「ま、待ってください……もう一度だけチャンスを……必ず病気を治しますから……!」


「ふん。信用できるか。そう言ってまた、寝てばかりの毎日を繰り返すのだろう。だが、出来損ないとはいえ、実の息子をただ追放したのではさすがに世間体が悪い。外で修行し、強くなって帰ってこい。そうすれば俺の息子として認めてやる」


 父上は直径五センチほどの青く透明な石をボクのそばに転がした。


「それは転送石というアイテムだ。複雑な加工を施せば、望む場所に瞬間移動できるらしい。が、そのまま使えば、どこに飛ばされるのか運次第。しかし、どこであろうと、俺の息子なら生き延びることができるはずだ。最後のチャンスをくれてやる。自力で帰ってきたなら、再びロンチフォードの姓を名乗るのを許してやろう、シリル」


 どこに飛ばされるのか運次第……?

 聞いたこともないほと遠い土地に行ってしまうかもしれない。

 極寒の冬山に出るかもしれない。

 それどころか火山口に落ちて即死という可能性だってある。


 高熱で朦朧とし、ほんの少し体を動かすのも難しいボクを、ランダムに飛ばす。

 それが最後のチャンス……?

 実際は処刑じゃないのか?


 いや。そんな考えをするから愛想を尽かされるんだ。

 ボクは本当に気合いが足りないんだ。

 もし父上がボクと同じ状況になっても、泣き言なんて漏らさず、本当に試練を乗り越えてしまうはずだ。


「分かりました……必ずこの試練を乗り越え、強くなって帰ってきます……!」


「ふん。できるものならやってみろ」


 父上は転送石に魔力を流し込む。

 青い光が広がり、ボクの体はそれに包まれる。


 そして――。


 気がつくと、ドラゴンがボクを物珍しそうに覗き込んでいた。


 せっかく父上が最後のチャンスをくれたのに。

 このままじゃ、試練が始まったばかりなのにエサにされてしまう。

 熱で体が動かないなんて言ってる場合じゃない。

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