第8話 平八

 夢にいる。

 ランドセルを揺らして田舎町の道を駆け出すポニーテールの少女、かなたが映る。

 かなたを追いかけると、畑にたどり着く。


『おじいちゃん!』

『おぉかなた、お帰り』


 重みがある低めの声が響いた。

 かなたの目線に合わせて屈み、髪を撫でている。


『ひゅうちゃんもお帰り、じいちゃんと父ちゃんもまだ仕事でいないだろうし、こっちにおいで』


 手招かれて近づくと、大きな手がセミロングの髪を優しく撫でた。


『父ちゃんは仕事で夜遅いし、じいちゃんは配達してるから夕方まで寂しいな』


 ぽた、ぽた、と雫が落ちていくのが見えた。

 濃縮した赤が土を濡らす。

 少し見上げると、顔面を覆うほどのおびただしい血。

 その奥で瞳孔が開いていた……――。



 ひゅうちゃんは目を覚ました。

 短髪と少し垂れ目の少年、ハジメが心配そうに覗き込んでいる。

 前髪がべたつくほど汗ばむ額を、指先で拭う。


「ひゅうちゃん大丈夫? かなりうなされてたよ」

「……大丈夫」

「大丈夫ならいいけどさ、宿題の続き俺の家でする約束したろ、かなたちゃんもう待ってるからな」

「……うん」


 震える指先を押さえ、ひゅうちゃんは呼吸を整えた。

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