繋がる音 Part2

「香坂、全問正解だ。ボヤッとしてるくせに意外と頭はキレてるんだな。音もなかなか悪くない」

「ありがとうございます。先生の教え方がいいおかげです」

「先生はやめろと言ったろ。お前、楽しんでるだろ」

「もちろんです」

 フフっと笑う十希を目にして夏海はジリジリと下唇を噛んだ。

「あの、夏海さん。俺は13点だったんですけど、どこを間違ってたんですか?」

「あぁ、えっとアルトサックス…、、すまない、まだ楽器と名前が一致してなくてな」

「山口武です」

「ああ、そうだそうだ」

 夏海は片手を顔の前に持ってきて、謝った。

「山口は、えっと、3つ間違えた箇所がある」

「どこですか?」

 武が咄嗟にシャープペンを準備した。

「3小節目の2拍目の裏、Eを吹いていたが、そこはE♭だ。このベーシックの調はなんだったかな?」

「あ、B♭dur(ベードゥア)でした」

「そうだ。次は5小節目の8分と付点8分のタイを見落としている。そこからは順調だったが12小説目のB♭をBで吹いた」

 指摘されたところを武はしっかり見直し、間違えた部分にメモをした。しかし首を傾げて質問した。

「12小節目の音って、あってませんか?だってほら、前の音にシャープがついてますし」

 武の指さす箇所には確かにB♭の音に♯の記号がついていた。

「確かについているな。臨時記号に対応できたのは評価できる。だがこのシャープは11小節のBについている。臨時記号は次の小節に引き継がれることはない。初心者のやりがちなミスだ。気にするな」

 武の指さした音と、夏海の言った音の間にはしっかりと小節を区切る線が引かれていた。

「そうなんだ。わかりました!ありがとうございます」

 武はメモ帳も取り出してしっかり記録した。

「しかしまぁ、本当に今日で初めて3週間なのか?変な吹き方もしてないわ、音も良いわで、普通に上手いってかもうそこらの中学のコンクールでいい線行くやつらくらいの音でてるじゃねえの。どうなってんだ」

 夏海は木管楽器を持った5人をパラっとみた。意外と褒められているので陽介はあからさまに、稑、姫香、武は満更でもなさそうに嬉しそうにしている。十希は変わらず表情は読めない様子だ。すると響と英二がドヤ顔を見せつけてきた。

「夏海〜、当たり前だろ。この子らに楽器を教えているのは俺らなんだぞ?」

「私たちなんだよ!しかもなつくんも!」

「俺らが教えてるんだから上手くなるのは当然だろ〜?」

 な!っと響と英二は目を合わせて笑った。

「それもそうか。こいつらにとっては毎日プロの音楽家にレッスンをつけてもらってるもんだもんな。俺は普通にプロだし。て、英二…、いくらお前が響の幼馴染だからといって、仲良くしすぎだ。もっと離れろ!」

「あらーなつくんヤキモチ妬いちゃったのか〜」

「うるせー!」

 茶化す英二に、赤らめた人相の悪い顔で睨みつける夏海。この光景で場は和みきった。


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