繋がる音 Part1

 4月5日、今日は須藤学校では二計測が行われていた。そのため皆帰りは指定ジャージで家に帰っていた。そして心なしか皆なにかを楽しみにしているような雰囲気だ。

「じゃあさっちゃん準備できたらここに集合で良いわね、待ってるわ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 自宅であり村の神社に続く階段を皐月は駆け上がっていった。半分くらい上ったとこまで見送ると下にいた茂と十希は歩き出した。

「さすがねさっちゃん。私あの階段を速く上れないわ」

「そうだな。さすが毎日あの階段を行き来して登校してるんだもんな。それにしてもあいつも偉いよな。自分のやりたいこともたくさんあるだろうに、神社の手伝いをしている」

「そうねぇ」

「よし、じゃあ十希、お前も遅れるなよ。家帰って早々寝るんじゃないぞ」

「わかってるわ」

 言葉を交わして二人は家に一度帰った。大体20分くらい経ってから、千寿村入り口駐車場に停まっている坂本のシャトルバスに稑と宇宙があがってきた。

「なんだ俺らが一番乗りか!やったな稑」

「別に競争してたわけじゃないから嬉しくもないよ。運転手さん、坂本さんとかいないの?」

 気怠そうなオーラをまとっていて、耳に雪の結晶のピアス、左手首に彫られたナイフのタトゥーが特徴の男が、坂本の専属ドライバーだ。

「坂本様なら、他にも忙しいからみんなが来るまで仕事してるって仰ってましたー。てか、俺のこといちいち運転手さんって言わなくていいっすよー。春樹さんでいいよー」

「春樹さんは英二さんと仲が良さそうですけどいつからの仲なのですか?」

「あーっとねー、英二は俺と5歳差でさー俺がまだ悪ガキの中坊だった頃に会ってさー…なんか色々あっていまでもこーやってつるんでるわけ」

 いかにも面倒くさくて説明を端折った感が見えるが稑も興味はないのか、「へえ」と流した。2人は1番後ろの席に着いた。

「おい稑、もしかして春樹さんの話興味ないのか?謎の多い英二さんのことしれるかもしれないじゃないか」

「別に俺、あの人のことそこまで興味ないし」

「そうか?音楽が好きだから楽器をたくさん買って、それを飾るための建物を創る人だぞ?気になるだろ」

「いや、偏見だけど音楽好きには変人っていうか、変態が多い。ぶっ飛んでいる奴らが多いだろ。うちにも71回勧誘し続けた音楽愛好家がいるだろ。多分英二さんもその類いだよ。じゃあ俺音楽聴きたいからイヤホンするね」

「そうか」

 稑はワイヤレスのイヤホンを耳にはめてYouTubeを開いた。そして登録しているファゴット奏者のチャンネルを開きソロの演奏を再生した。その画面をチラッと見た宇宙はクスッと笑った。

(稑も十分音楽にハマっているじゃないか。もう、ゲーム以上に稑は音楽…というよりファゴットに没頭している。いいことだな。俺は嬉しいぞ!稑)

(なんか…兄ちゃんの顔がうるさい)

 それから8分ほど経って14人全員がバスに乗っていた。

「全員揃ったようなので動きますねー。新月へしゅっぱーつ」

 春樹はシートベルトをはめ、黒革の手袋をはきハンドルを握る。

 シャトルバスは動き出して新月市まで走った。


 坂本の楽器展示館はやはり立派な建造物で何度見ても彼らは心が上がるものだった。中も変わらず広く楽器が入ったガラス張りのショーケースがずらりと並んでいる。

 ショーケースの間を通り進むと、春休み中に合奏をした広間へ続く扉がある。集合場所はそこなので皆開けて入った。広間にはちょうど良い2列に椅子が並べられて、椅子の上には一枚の紙が置いてあった。

「よし待ってたよ。どこでもいいから紙をとってすわって」

 各自適当な席に置いてある紙を取ってすわった。

「よし、じゃあ今からこれからの予定を話していくから、みんなが今手にとっている紙を見ながら聞いて」

 紙にはこれからの予定ややるべきことがズラズラと書き留められていた。

「まず本番は22日で今日は5日。分かると思うけど2週間ないんだ。だから今日から本番前日まではまた忙しくなる」

「でね、今回曲は2曲やることになってて、みんな曲をできるようにするってのはもちろんのことなんだけど、この2週間でみんなには楽譜を読めるようになってもらおうと思ってるの」

「楽譜を読む…この2週間で読めるようのなるんですか?」

「それは君達の努力次第だ」

「玄治ドライすぎー。ってまあその通りだけどさ。楽譜を読むってのは音楽をやる上で基本っていうか必修科目なわけ」

「まあそもそも以前2週間でお前らは楽器も吹けるようになったし、練習曲も吹けるようになったんだ。譜読みなんて楽勝だろ」

 大人陣の言葉で14人は活気付いてきたのかやる気も湧いてきている。

「楽譜を配るから1人ずつ取りに来てくれ」

 坂本が1人ずつ名前を呼んでそれぞれの楽譜を渡した。

「今回演奏する曲は今配った『Start Line(スタートライン)』と『とある春の話』だ。スタートラインはちょっと前のバスケの試合で流れて流行っているから知ってると思う。みんなのこれからの活動の第一歩って感じでこれしか無いと思ったんだ。前奏の金管のファンファーレは難しいかもしれないがかっこいいぞ。特にトランペット1stは最高音が上のE♭だ。初心者にはキツイと言ったんだが悠がお前なら行けるって推すからさ。頑張れよ茂」

「はい!村のためにも全力を尽くします!」

 茂は大役が任された時ほどやる気がでる男だった。メラメラと燃えるのを他にして陽介が何かを思った。

「あの、これって俺らの為に編曲したんですよね?」

「うん。そうだよ。だって君らの編成なんてあんま無いからね」

「そうですよね。でも俺らが演奏のこと伝えたのって確か一昨日だったような気が…」

「峯田。英二の目元を見てみろ」

 玄治の目線その先の坂本の目元にはがうっすらできていた。

「え!英二さんもしかして寝てないの!?」

「仮眠くらいはとったさ。そもそも俺は平均睡眠時間が短い方だけど、さすがに今回は頑張りすぎたんだよ」

「僕達も少し手伝ったけど、昔から作曲編曲とかは英二とかに任せてたからあんまり役にたてなかったんだ〜。せいぜい2週間でどこまでの難易度をやれるか教えれるくらい」

「それにしてもよく2日で仕上げれましたね…普通こんな短期で14人の編成は作れないと思うんですけど」

「いやいや、別に1人でやったわけじゃないって。ちゃんと手伝ってもらったんだよ。そろそろ来ると思うよ」

「え、来るって…」

 扉が開いた音がした。扉の方を向くとポケットに手をいれる目つきの悪い男が入ってきた。その見た目に子供達も大人達も引き気味だった。しかし陽介は何かに気づき口を開け驚きを見せている。

「悪い、遅くなった。って、本当にガキしかいねえんだな」

 その第一声にまたも皆ドン引きした。そしてまたも陽介は動揺し出して、ついに声にそれを出した。

「あの!魏延さんですよね⁉︎プロクラリネッティストの桜井魏延さくらいぎえんさんですよね!」

 大人陣は驚いた顔をして少し嬉しいような気もある。それと対照的に男は嫌そうな顔を見せた。

「なんだぁコイツ…いやまあ桜井魏延ってのに間違いはねえけども自己紹介は俺がするもんなんだけど?」

「す、すみません!」

「まあまあなつくん、陽介くんに悪気は無いんだから許してあげて?」

「まあ…響が言うなら…悪かったな」

 口を小さく膨らませて陽介に謝る。坂本は空気を変えるために男をみんなの前に引っ張って言った。

「てことで、改めて自己紹介よろしくね。?」

 なつくんと呼ばれた男は顔を赤らめながら坂本を小突いた。

「うるせえ。自己紹介な。俺は櫻井夏海さくらいなつみだ。さっきソイツが言ってたようにクラリネット吹いてる。桜井魏延は俺の音楽業界での名前だ」

「てことで今度から夏海も君達に楽器を教えてくれることのなったからね。夏海はクラリネットやサックスを教えてくれるよ。それに当たって稑はダブルリードで響が時間結構とれるようになるな。イカつそうだけどいい奴だからな。よし、この際だ俺たちとの仲も深めたいし、俺らに質問タイムだ!なんでも答えるぞ」

 突如始まった質問タイムにみんな最初は戸惑ったものの、定番の好きな食べ物や趣味、楽器歴など案外盛り上がった。すると質問される側のはずの悠が手を挙げて元気よく言った。

「はーい!夏海先生に質問でーす!彼女はいますかー。大好きな人はいますかー?」

「は!?お前は質問される側だろうが!黙ってろ」

 悠の明らかなからかいにムキになっていると、響もそれに口を出してきた。

「え、いないの?彼女、大好きな人」

 すると黙りこんだ先に夏海は顔を真っ赤にしてギリギリ聞聴こえる小さな声で答えた。

「…お、お前だろ。彼女は響だろ。大好きな人もお前だって…」

 すると由梨や姫香は口を揃えて大声をだした。

「かーわーいーいー!!」

「なに、ギャップ萌えすぎるんですけど!」

「もう推す!なつ×ひび…なつひびカップル!文香ちゃん、描ける?」

「1枚描いてみようかな。面白そう」

「おい!やめろ!クソが」

「その口の悪さも今になっては無意味だな」

 ため息を吐いた玄治がボソッと呟いた。











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