第13話 ソフィアは本気をだす

 私の周りに残ってくれているのはオロチと戦う部隊で、アーヴァイン様含めて十人。


 おびき寄せると言っても、その前に村人の救出へ向かった騎士団まで炎に突っ込んではひとたまりもない。


『水よ姿をあらわせ、傷を癒せ、ヒールレイン!』


 村が見える範囲全体に回復魔法を含めた雨を降らせた。

 雨と言っても滝のようになっているため、ちょっとやりすぎてしまったかもしれない。


 だが、今はこれくらい水を与えないと消火が追いつかないから仕方がなかった。

 あとは水をかぶった人たちが怪我がある程度回復してくれればいいけど。


「この大雨はソフィア様が……?」

「水魔法と回復魔法を複合してみました。これで怪我をした村人もある程度は回復できるかと……」


 アーヴァイン様は、オロチと戦う前に魔力を大量消費して大丈夫なのかというような表情をしているが、私は大丈夫だ。

 魔力の流れやコントロールを覚えたおかげで、威力の調整や魔力の使用量もかなり少なめにした。

 そんなことを説明する暇などない。


 異変に気がついたのか、オロチが真っ直ぐ私たちのいるほうへ向かってきたのだ。

 おそらく、オロチが私の魔力を感じ取ったのだろう。

 戦闘開始だ。


 こういう状況はやっぱり恐い。


「よし、ソフィア様の魔力が誘導の引き金となった! 戦闘部隊全員荒野へ全力疾走!!」


 一斉に走り出すところを、アーヴァイン様は私に手を差し伸べてくれた。

 私は体力や力は非力なため、アーヴァイン様がグイッと力強く引っ張ってくれることがとても頼もしいと思った。


『水よ姿をあらわせ、ウォーターシールド』


 道中、オロチが何度も口から全てを焼き尽くしそうな灼熱の炎を放ってくるたび、私は魔法で防ぐ。

 放ってくる炎を全て水で相殺して、さらにオロチの本体まで水魔法が届くが、さすがに威力は消されてただ水浴びをしているような状況だ。

 これでは埒が明かない。


 他の騎士たちも剣ではなくそれぞれの魔法を度々放ってはいるが、直撃してもほとんど無傷のようだ。

 私も何度も魔法を連発していたため、魔力も少しだけ減ってきている。

 長期戦だと分が悪そうだ。

 さて、どの属性魔法を使えば効果的なのか……。


「はぁ、はぁ……。ソフィア様……、オロチの行動を見ていてひとつ発見したことがあります」


 アーヴァイン様が私に対して走りながらそう言ってきた。

 こんな短時間でなにを発見できたのだろう。


「騎士団のひとりが雷属性魔法を放った際、一瞬ですがオロチは速度を落として避けようとしました」

「雷に弱いってことですか?」

「わかりません。ですが、ソフィア様の強力な魔力で弱点を突けばもしかしたら……」

「やってみます。魔力を集中したいので、ほんの数十秒で構わないので時間を稼げませんか?」

「承知しました。命にかけてでも騎士団でソフィア様に時間を作りましょう」


 責任重大だな……。

 だが、せっかく弱点かもしれない属性を発見してくれたのだ。

 ここはなんとかしなくては。


 私は魔力切れを起こさない範囲で意識を集中する。

 演習場で試しに雷属性は放ったときは、私自身も感電してしまいそうなビリビリに襲われてしまった。

 しかも威力を極限まで弱めていた状態で……だ。

 私は雷自体が苦手なため、できれば使いたくなかったが、オロチを倒すためには仕方がないことだ。


「オロチからできるだけ離れてください!」


 とは言ったものの、オロチの動きはケルベロスほど鈍くはない。

 だが、一人の騎士団が固有魔法を放ってくれて状況が一変した。


「ほんの一瞬ですがオロチ相手でも動きを鈍くする魔法を使いました! 今のうちに!」

「さすがウィン殿のセガレだ! あとはソフィア様! 頼みます!」


 魔力に集中していたため、会話はうまく聞き取れなかったがこれだけ距離が離れていれば大丈夫だろう。


『雷を放て、サンダーエクスプロージョン!』


 ――ピカッ!!

 ――ドグォォォオオオオオオオン!!!!


「きゃぁぁぁああ!」


 魔法を放った途端、私は光と爆音で驚いてしまって正気を失った。

 だが、しっかりとオロチに雷による大爆発は命中して、跡形もなく消滅していたことだけは確認できた。


 私の全身がビリビリと痺れている。

 やっぱり雷は恐い。

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