第70話 お茶会2

夜の帳も下りた頃、エレノアの部屋のドアをノックする人影があった。


エレノアは扉を開けて、その人影を部屋の中に迎え入れた。


「もう、こんな夜更けに訪問とは、乙女の敵ですね、ムツキ様は」


文句をにするエレノアの服装はこの時間にも関わらず、寝巻きでは無い。メイクも落としておらず、そして、とても嬉しそうな笑顔で出迎えた。


夜更けに訪問する事は事前に伝えてあり、エレノアはこの時間をとても楽しみにしていた。


一応はムツキのお忍びだが、公然の秘密である。


エレノアの専属メイドのメルリスは一足先に眠りにつき、密会が終わったら起こす事になっている。


エレノアは嬉しそうにムツキの手を引いて窓際のテーブルにやって来た。


ムツキは、収納スキルの中からお昼に作ったレアチーズケーキとパンケーキを取り出してテーブルの上に置いた。


「まあまあまあ、これがムツキ様の作ったスイーツですか? シャーリーさんがほっぺの落ちる美味しさだと言っていました」


並んだスイーツに目を輝かせるエレノアはとても可愛らしかった。


スイーツを見つめるエレノアのそばに、カチャリと音を立てて紅茶の入ったカップが置かれた。


「私が淹れた物ですから味は保証しませんけどね」


「ありがとうございます!」


「茶葉から淹れるなんて初めてですからね」


ムツキもティーバックでなら紅茶を淹れた事はあるが、本格的な機材を使っては初めてで、シャーリーの見よう見まねであった。


「ムツキ様の初めての紅茶なのですね!」


「エレノア、その言い方はちょっと」


ムツキの苦笑いを見て、エレノアはクスクスと笑った。


「それじゃ、いただきましょう」


「ああ」


エレノアは楽しみにしていたのか、レアチーズケーキを一口食べると、目を輝かせて身悶えている。


その様子を微笑ましく見ながら、ムツキは紅茶を一口啜った。


渋い。


やはりシャーリーの様に上手くは淹れられないな。


「エレノア、すまない。紅茶は渋くてあまり美味しくないみたいだ」


エレノアはピタリと動きを止めて、紅茶を一口飲んだ。


「ふふふ。確かに少し渋めですが、甘いこのお菓子にはとても合います。それに、ムツキ様が私の為に淹れてくれたお茶ですから。このお菓子もとても美味しいですけどコレはシャーリーさんのお裾分け。だけどこのお茶は私の物です」


ムツキは、そのストレートな言葉に顔が熱くなるのを感じた。


「そ、それに、私達の甘い空間にはこのくらい渋めの方があいますわ」


エレノアが自分も顔を桃色に染めてそう言葉を続けた。



そして、2人とも恥ずかしかったのを察したのかどちらともなく笑い合った。



月の光が差し込む中、とても静かで幸せな2人のお茶会は、遅くまで続いたのであった。

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