第16話 興奮気味のエルフ

「え?」


ムツキから漏れた声は名乗っていない最後の人物からの問いの答えではなく、この小さな女の子からのスキル取得と謎に有効化されたスキルによって驚きの声が漏れただけであったが、質問して来た人物にはそれが惚けた様な、答えだと受け取られた様だ。


「そのぼんやりとした光が見えるのかと聞いているのだ!」


その男性は興奮気味にそう質問してくる。

光?そう思って妖精であろう小さな少女を見ると、男性は返事を待たずに興奮気味に捲し立てる様に話し出した。


「やはり、見えているのだね!何という事だ!人間に妖精が見えるなんて!これは歴史的発見かも知れない!」


嬉々としてそう話す男性にシュナイゼル王はオホンと咳払いをして注意した。


「も、申し訳ない。私の名前はニコラスと言う。よろしく」


「でだ、何をそんなに興奮している?」


自己紹介も終わった所で、シュナイゼル王も気になっていたのであろう。ニコラスにそう質問した。


「はい。彼はどう見てもエルフ族ではありません。緑の瞳も尖った耳も持っていない。なのに妖精が見えるみたいなのです!」


ニコラスの言葉を聞いてシュナイゼル王だけでなく、リフドンやカインも驚いた顔を見せた。


「それは本当かね?」


シュナイゼル王の質問にムツキはゆっくりと頷いた。

光とはこの少女の事であろう。しかし、少女とは言わない方がいい気がした。


「なんと、妖精が見える人がいるとは、羨ましいものだな」


「普通は、見えないものなのでしょうか?」


ムツキがそう疑問を口にしながらニコラスを見るのを見てシュナイゼル王はニコリと笑った。


「ほら、ニコラス」


「はい」


シュナイゼル王の言葉にニコラスは頷いてボブカットの髪を耳にかける。

するとそこには物語ではとてもポピュラーなエルフの尖った耳があらわになった。


ムツキが感動に言葉をなくしているとニコラスがイタズラな笑顔を浮かべた。


「エルフに会うのは初めてかな?

まぁエルフはとても閉鎖的な種族だからね。

昔よりは外に出る者も多くはなったがな。

しかし、妖精が見える人族か。人が妖精達に気にいられるなんて珍しい」


話す毎に小声になっていき、ついには物思いに耽りブツブツと独り言を話し始めたニコラスにシュナイゼル王は大きく溜息を吐いて話を引き継いだ。


「すまないね。

探究心の塊の様な人でね、こうなるともう普通に話ができない。放っておいてやってくれ。


君は妖精に気に入られた人間の様だしやはり縁を繋いでおく方が良さそうだ。

これからも、仲良くしてくれたまえ」


王様でも人柄は全然違うんだな。などとムツキが考えているとリフドンに肘で返事を返せと言う風にグイグイと押されて慌てて返事をした。

その為「よろしくお願いします」と少々気安い返事になってしまったが、シュナイゼル王は気にせずに頷いてくれた。



「さて、顔合わせも終わって短い時間で申し訳ないのだがこの後大事な式典があってね。

…そうだ、ムツキも見ていくといい。

人型を倒してかわいい娘を守った英雄の叙爵式があるんだ。準男爵だがね、一般の民には見る機会がない珍しい物だ。記念に見ていきなさい。ではリフドン、後を任せる。

案内にはキャニーをよこそう」


そう話してリフドンをシュナイゼル王が見るとリフドンはシュナイゼル王が入って来た時と同じポーズをして礼をした。

それにならってムツキも同じポーズをとる。


ムツキからは見えないがシュナイゼル王は優しく頷いてカインとニコラスを連れて出て行った。

ちなみに、ニコラスはカインが荷物を運ぶように脇に抱えて行った。やはり彼は騎士団長と言うだけあって力が強いのだろう。


しばらくすると、40代くらいの綺麗なメイドさんが案内に来てくれた。

彼女がキャニーさんだった。

そしてキャニーさんは自己紹介をすると俺とリフドンを案内してくれる。

キャニーさんが来てから、リフドンの様子が少ししどろもどろしている。


その姿にムツキはシュナイゼル王が彼女を案内に選んだ理由にピンと来た。

そして、そうと分かればウブな反応をするリフドンが微笑ましく見えた。


ムツキはリフドンの様子にニヤニヤが表情に出るのを必死に抑えながら、キャニーさんの案内され城の廊下を歩くのだった。


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